第21話 耳元で……

 いつもより早く目が覚めた。

 いや、違うな。わざと早く目が覚めるようにしたんだよ。

 下手に遅く起きて、一宮にまたあの格好で起こしに部屋に入って来られたら、たまったもんじゃないからな。

 まったく……昨日はバイトで疲れてたのに。

 まぁ、文句を言っても仕方がないか。


 着替えて下に降りると、今日も母さんと一宮は並んでキッチンに立っていた。


「おはよう」

「あら今日は起きるの早いじゃない」

「千秋君おはよ。な~んだ。せっかく起こしに行こうと思ってたのに」


 それをさせない為だよ。とは言えないから適当にはぐらかす。そんな事を言ったらまるで意識してるみたいになるしな。


「ん、寝ぼけて目覚ましのタイマーをセットしたら少し早くセットしてたみたいなんだ。おかげで眠いよ」

「そうなんだ。今ご飯とコーヒー淹れるね」

「あ、うん。サンキュ」


 ──ん? つーか今更だけど、なんでこいつこんなに馴染んでるんだ? 弁当といい、朝の支度といい……。母さんも特に気にしてないみたいだけど……。いや、逆か? 昨日のメイド服といい、普通は預かってる娘にあんな格好させないよな? でも一宮は普通に着てたし……。なんだってんだ?


 考えてもよく分からず、座ってるだけで出てくる朝食とコーヒーを腹に入れると俺は家を出ることにした。


「「いってらっしゃ~い」」

「あ、あぁ……」


 気味悪い程に息が合ってて少し怖いんだけど……。



 二人に見送られた後は、いつも通りに駅に向かう。今日も沢渡と一緒に行く約束だからな。

 今日はいつもより早く家を出たから、俺の方が先に着くかもしれない。

 そう思っていたのに、俺が駅に着くとちょうど沢渡が改札を通る所だった。


「沢渡!」

「ほへ? あ、八代くん。おはよ~」

「おはよう。来るの早いな。俺の方が早く着くと思ってたのに」


 そう言ってスマホを見ると、いつもより十五分は早い時間だった。いや、早すぎないか?

 まさか昨日もこの時間に来てたとか? もしかして今までの電車の時間の癖が抜けないとかかな?


「私、待たせるより待つ方がいいかな? って。それに……そっちの方が長く一緒にいれるし……」

「なるほどね……。確かに俺もそれはあるかも。ひとりでいるよりは誰かといた方が楽しいしな」

「あ~うん。そだね……。そうだけどそうじゃないけどね……」


 さ、沢渡? その笑ってるのか怒ってるのか分からない表情はどういう意味なんだ?


 ◇◇◇


 二人で改札を抜けた後は、ホームで適当な会話をしながら時間潰し。って言っても、話の内容は昨日の帰り際の爆発音の事がほとんどだけどな。

 さすがに俺のバイトの事は言うわけにいかないから、適当に相槌をうって返事をする。下手に喋ってボロがでたら大変だ。


「音凄かったよね~」

「ん、そうだなぁ」

「でもでも! あの後すぐに援軍が来て撃退したんだって! あっという間に!」

「まぁ、あのくらいの距離はな……」

「だよね! あんなに音がするくらい近い距離での戦闘音なんて久しぶりに聞いたもん」

「一体につき一発だからな。よほど優秀なパイロットだったんだろうな」

「ん? そこまでテレビでやってたかな?」

「……ラジオで聞いたって一宮が言ってたな」

「ふぅん……。一宮さんが……」


 っと、やっと電車が来たみたいだ。

 来たのはいいんだけど……なんか混んでない?


「うわぁ……混んでる……。昨日の影響かな?」

「どうだろうな……」


 急いで俺達は電車に乗り込む。このホームから乗る人も結構な人数がいた為、またしてもこの間みたいな体勢になってしまった。


「ごめん沢渡。前みたいな事にはならないようにするから」

「う、うん……。私は大丈夫だよ」


 そして次の停車駅に着くと更に乗車率があがり、沢渡と触れる部分が増えた。もうほとんど抱きしめてる状態に近いかもしれない。俺の顔のすぐ横には沢渡の顔がある。


 そして──


「ねぇ、八代くん……」

「なんだ?」


 耳元で沢渡が小さい声で俺を呼ぶ。


「こういうふうになっても嫌じゃないのは八代くんだけなんだよ?」

「え?」

「…………好き」

「沢渡、それって……」

「八代くんが好きだから。だから特別なの……」



 ──────え?




 あけましておめでとうございます!


 今年もよろしくおねがいします!

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