月暦7 罰ゲームは難易度低めで

「ねぇ、山ちゃん…」


「あぁ?!」


「山ちゃんなんでしょ☆」



いつもの六人に加えて大后と月影の八人で机を囲んでいる。

八人の手にはトランプが握られており、配られたカードを見ている山岸に宮浜がちょっかいを出している真っ最中だ。



「こんな騒がしいのは、なかなかないね。」



月影が若干イライラした笑みで視線を松風以外の六人に向けていた。

なぜこの状況になったのかというと…


* * *


一緒に下校していた松風、月影カップル。

月影の家の方が学校から近いので、普通ならここでお別れとなる。だが彼は意外にも松風には紳士なので、自分の自転車の後ろに松風を乗せ、家まで送ってあげている。

月影の自宅前に着き、松風に待っているよう伝える。月影は自転車を引いて出てきた。

月影は目が合わない松風を心配に思い、手を頭に乗せた。



「どうした??」


「つっきーの家やっぱり大っきいなぁって…」


「そう?今は俺しかいないから寂しいだけだけど。」


「ご両親亡くなってるんだよね…?…寂しかったら言ってね…??」


「ああ、そんなことか。わかったよ。


…それよりさ、今日も家来るよね?

        サプライズってなに??」



ちょっと嫉妬が混ざった声色で松風にあからさまな作り笑顔を見せる。



「大后との会話聞いてたんだ!!言ったらサプライズにならないよ??」


「それもそうか…はい、どうぞ?」


「ありがと!」



松風が自転車の後ろに乗り、月影をぎゅっと掴む。

その時の月影の表情ときたら、それはもう…

言わなくてもわかるだろう。


* * *


そんなこんなでこの人らが訪ねてきたというわけだ。松風曰く、親しい友人が少ない月影を思って、仲良くなってほしいとのことだった。そんな松風の優しさに押されて、仕方なく招いてしまった。特に大后だけは家にあげたくなかったが、松風が仲間外れにしちゃダメ!というのでこれまた仕方なくだ。松風の優しさと可愛さに負けた。



「絶対山ちゃんがジョーカー持ってるって!」


「持ってねぇーし!!てか山ちゃんって呼ぶなし!!」


「ハハハッ!!いつもの山ちゃんなら持ってる持ってないより先に、呼び方に口出ししてくるもん!!絶対持ってるよ!!」



山岸は必死で否定しているものの、宮浜の精神年齢の低さに翻弄されている。

こういう時の出番といえば、彼しかいないだろう。



「宮浜、あんまり陽太をからかうな。」


「そういうことか!!若ちゃんをからかえばいいのか!」


「そうじゃない!!」



それぞれ同じ数字のカードを抜いていく。

八人ババ抜きのため、揃うカードはなかなかに少ない。

全員出し終えたところで、星合が珍しく話始めた。



「なあ、月影。お前がジョーカー持ってるだろ。」


「持ってないよ。」



星合が月影を真顔で見つめる。もちろん、月影は目を逸らさない。



「逆になんで俺だと思うの?」



いつもの性格悪そうな笑みを見せる。が、星合には通じない。



「笑ってたからだよ。まず松風の場合、すでに眉間にしわが寄ってるはずだから違う。宮浜の場合は一切喋らなくなるからこれもまた違う。世凪はすでにジョーカーを引いてないから、にやけてる。山岸がジョーカーを引いてたらメガネをとにかく触るし、若倉なら落ち着きがなくなるからな。で、たけはジョーカー入ってればトランプ自体を見なくなる。てなわけで、お前だ。」



さすが星合、と誰もが思った。星合の推測は的確かつ、正しかった。彼ら彼女らは持っていないのだ。だから、月影を除く六人は瞬きをせずに同じ表情をしていた。月影は楽しそうに「なるほど」とさらに口角を上げる。



「じゃあ、楽しみだね。」


「…あ、そうだ。罰ゲーム決めようよ!最下位の人は明日一日語尾ににゃんつけて喋ってね。一人じゃかわいそうだから、ワースト2位の人もね。うーん…なにがいいかな…」


宮浜が真面目に考える。



「みんなには内緒にしていることを一つ言う。」



星合の提案を面白そうに月影が頷く。



「俺も同じこと思ってた。賛成だよ」



というわけで、暑き心理戦が開幕した。



* * *



「げっ…」


「うわぁ…」



最下位、松風桜都。

ワースト2位、大后武仁。




「さあ、大后くん!話してくれたまえ☆」


「えぇ〜?


…じゃあ、 



…実は俺、



































姉がいるんです。」


「そうなんだで終わる内容だな…」



若倉のナイスツッコミ。だが、大后はまだ話し終えていなかった。



「ここだけの話になるんですけど…




































宗教学教えてる美川って、教師。


























あれが俺の姉なんです。」



美川佳織先生。世凪たちのとなり、Cクラスの担任だ。3年間持ち上がりでお世話になっている。

若いからと生徒たちに舐められているあの美川先生が、大后の姉。

かわいらしい容姿から生徒に人気でもある。



「…ってことは、美川先生って結婚してんの…?」


「学生結婚ね。」


「えっと、大后。お前には聴きたいことが山ほどある。事情を聞かせてもらおう。」


「…えぇ…」



大后に向けられた鋭い目が痛かった。



ちなみに最初にジョーカーを持っていたのは星合だった。

星合はあえて月影に自分が持っていることを主張し、手を組み、場を支配していたのだ。おかげで最下位を松風にすることができたのである。

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