030 怪しい関係、俺はヤバイ世界の住人だ

 ◆◇◆



「おーい、いい加減起きろよぉ! 置いて帰るぞぉ!」


 朝だ ——


 さくもの声で目を覚ます。俺は、みんなで旅行に来ていたんだった。何だか、まだ全然脳みそが仕事をしていない。さくもは、浴衣から私服に着替えてストゼロを飲んでいた。


「りんごくん、ごめんね……。朝、起こしたんだけど全く起きないから、朝ご飯みんなでもう食べちゃった……」


 充子の後方にある時計の針は、ちょうど10時を指していた。充子も、私服に着替えている。帰る準備は万全か。


「すまん、俺、寝坊したわ……」


 上体を起こし、伸びをしながら肺に空気を取り入れる。それと共に、徐々に昨夜の記憶が鮮明に蘇ってきた。


「有江くん、昨日は眠れなかったのかい?」


 亜房先生だ ——


 キャリーバッグの上に座っている彼は、俺の顔を見て微笑んだ。なんとも意地悪な目をしていた。俺をからかっている。


「何だか、睡眠不足みてぇだ」


 あまり弱味を見せたくない俺は、目を合わさずにさり気なく呟いた。


「ふーん、そうなんだ……。まだ寝足りないのなら、帰りの車の中で眠ればいいよ」


「ああ、そうするよ。亜房先生……」


 俺は布団から出て、洗面台へと向かう。目の下のクマが中々に芸術的だ。やつれた自分の顔を見ながら、黙々と歯を磨く。やっぱり、初めてのことをすれば疲れるのだ。


 俺の洗面の最中、部屋の方から恐ろしい会話が飛び込んで来た。


「あれぇ!? そう言えばサービスで貰ったコンドームの数が合わねぇぞぉ!」


 さくもの野郎、気付きやがった……!


「人数分あったはずなのに、2つしかないだとぉ!? どこに行った!? せっかく、りんごにプレゼントして、充子ちゃんとは正しいプレイをしてもらおうと思ったのによぉ!」


「さくもちゃん、私、恥ずかしいわ……。まだちょっと、考えただけで緊張しちゃう……」


「大丈夫だ! りんごは童貞だけど、きっと優しくしてくれるさぁ! なぁ、亜房先生!?」


「そうだね。きっと有江くんなら、充子ちゃんを満足させられるよ……。ボクが保証するさ……。まぁ取り敢えず、何でコンドームが減ったのかは分からないけど、残った2つは有江くんにプレゼントしよう」


 俺は弱みを握られている以上、今後、亜房先生には注意が必要な気がする。昨晩の大運動会を二人で乗り越えた結果、亜房先生は確実に魔物になってしまった。


 だけど、俺だってある意味魔物だ。


 充子と付き合った当日に、亜房先生と体の関係を持ってしまった。これから先、まだどんな試練が待っているのかは見当がつかない。


 俺は洗面を済ませ、私服をバッグから取り出す。


 さっき、首元周辺に複数のキスマークを確認したので、絶対にバレないように高速で着替えを済ませた。


「お待たせ。本当に楽しい旅行だったぜ。亜房先生、企画してくれてありがとな。充子も、これからもよろしく」


 旅館を後にする際、女将の江呂子さんに、こっそりコンドームを沢山頂いた。



 ◆◇◆



 第2章

 温泉と黒魔術


 完結

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