020 旅館に到着、俺は何度でも黒魔術を信じる

 また黒魔術だと……? しかし、前回みたいに偽物の可能性だって十分考えられる。もし仮に本物だとすれば、一体いつ黒魔術を?


「おい、充子……。黒魔術って、どのタイミングで発動させたんだ!?」


「あまり大きな声出さないで……。あの女と亜房先生に聞こえちゃうよ? りんごくん、もしかして知らないんだね? 今、インスタで流行っているんだよ。一つのタピオカミルクティーを共有したら、呪いが発動するんだ……」


 インスタだと? 俺は、アカウントを持っていないから真偽の確かめようが無い。せっかくの旅行だって言うのに、また面倒なことになってしまった。


「それで今度は、どんな呪いを俺にかけたんだ……!?」


「ここは温泉でしょ? 二人きりで混浴したくなる呪いよ……。のぼせるまで許さないわ……」


 くそっ。充子の顔付きを見る限りだと、今度こそ本物な気がしてしまう。やはり黒魔術は存在したのだ。確かに俺も、充子と混浴ならしても悪くない気分になっている。想像すればする程、混浴したい。



 ◆◇◆



 日が暮れ始めた頃 ——


 亜房先生が予約してくれた趣きある旅館へと到着する。昼間は、色んなお店を回って、ご当地のグルメを満喫し、お土産もいくつか買った。そして、やっと温泉に入って体を癒せる。


「えっと……30名でご予約の『大乱交株式会社』様でよろしいでしょうか?」


「いえ、4名で予約の亜房です」


「あ、亜房様ですね。失礼しました。わたくし、『エロ温泉淫乱いんらん旅館』の女将おかみをやっております、江呂子えろこと申します」


 何やら、発情期を迎えてそうな女将が俺らを迎えてくれた。


「ただいま係の者がご案内致しますので、少々お待ちください。遅瀬おそせー!」


 女将の江呂子さんが、カウンター奥のバックヤードに向かって叫ぶと、中から一人の女性が現れた。


「あ、お客さん来たかにゃ!? 案内するにゃ!」


 語尾が「にゃ」だ。亜房先生は、怪しい旅館を予約してしまったようである。


「では、お客様、ご案内致しますにゃ!」


 遅瀬と呼ばれていた彼女は歩き出す。


「お客様! あそこが売店にゃ! ここは、日本一同人誌を取り扱っていることで有名な旅館にゃ!」


 なんと、ご当地のお土産を差し置いて、18禁コーナーでしか見ることが出来ないような同人誌が山積みになっていた。


「そして、あちらが男湯、そして女湯にゃ。あ、でも亜房様は、温泉付きのお部屋をご予約されているから、全員で楽しむにゃ!」


 なん……だと……?

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