011 呪いの代償、俺は厨二病

 緑茶を口に含む。何気無く充子の表情を横目で見てみた。何故か、表情が暗く感じる。普段は、二重の目がぱっちりしていて可愛らしいんだけどな。さくもみたいな死んだ目をしていない。


「どうした、充子?」


 俺の言葉が引き金となった。


 充子の両目から涙がツーっと一筋流れる。俺は、その涙の意味が分からず、緑茶の入ったコップを持ったまま暫く固まる。


「なんかずっと……りんごくんが、どんどん遠くに離れていってしまってるような気がして怖かったの……ごめんね、困らせてしまって」


 充子は、制服の袖で目元を抑える。


「おい、大丈夫だって。俺は、何処にも行かねぇよ……。何年一緒に居ると思ってるんだ……。本当に心配しなくても大丈夫だからさ。泣かないでくれ……」


 充子の隣へ行く。肩をビクビク震わせ泣いている。俺は、背中を優しく摩った。指先の感触でブラジャーに触れているのは分かるが、不思議と充子だと変な気を起こさない。もちろん、今のこの状況も関係あるのだろうが、俺は、充子の体やその衣服に触れることに対して恐ろしく平常心を保てていた。


 だけど、それを壊したのは充子の方からであった。


「え?」


 俯いていた充子が、突然俺を正面から抱き締めてきた。後ろにベッドが無ければ押し倒されていただろう。背中に手を回され、充子の小さなおっぱいは、俺の腹に密着している。充子は、俺の胸の中で泣いた。


「私って最低だよね……。りんごくんに呪いなんてかけて……」


 例の黒魔術ってヤツか ——


「充子、黒魔術のことで泣いてんのか? 呪いなんかで、俺は負けない。俺の聖なる力で呪いは消滅するぜ」


「それが……私が用いたタピオカの黒魔術は禁術なのよ」


「ほ?」


 充子の口調は真剣そのものだった。


「呪いの対象になる人が見える場所に、タピオカで六芒星を描く。そして、誰にも気付かれないように、丑三つ時に六芒星の中心に手を当て、呪いの対象者の名前を心の中で念じるの……。この前、ツイッターでバズってたのよ……」


「でも……何か、これが禁術ってのは信じられねぇんだよな。流石にバカな俺でも少し疑ってしまうぜ。タピオカだと、怖いってより、渋谷のJKって感じがしないか? 禁術扱いされる理由が分からねぇ」


 それに、黒魔術とは本来、もっと厨二心をくすぐるものだと俺は信じている。タピオカだと、誰が用いたとしても可愛く感じてしまうじゃないか。


「でもね、効果は凄まじいの。呪いの効果はちょうど30日……。その間、呪いをかけられた人間は、キスをされた人に必ず恋に落ちてしまう。ツイッターを監視していたら、本当にみんなカップルが成立していたんだもん……。だけどね、ちょうど30日後に呪いは解けるの。呪術者の命と引き換えに……」


 ほ?

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