010 レオパレス21、俺は幼馴染と同じ屋根の下

 あんまり華やかとは言えない通学路も、一人じゃなければ案外退屈しないようだ。さくもの時とは違った新鮮さを感じた。ようやく俺の家が見えてくる。


 レオパレス21の1階 ——


 住人達の登り降りが激しい階段の目の前が俺の部屋だ。建物の壁が薄いせいか、人が階段を上り下りすれば部屋全体が爆音と共に揺れる。


「おじゃまします」


 ドアの鍵を開け、充子に先に入ってもらう。充子は、ローファーを脱いで、玄関できっちり揃える。それから俺も玄関に入り、適当に靴を脱いだ。


 部屋に入って、何気なく窓を見れば、タピオカで描かれた六芒星はすっかり消えていた。どうやら今朝、さくもが掃除してくれていたみたいだ。


 充子は、赤いリボンがついたバッグを俺の本棚の前に置いて、テーブルの前に正座した。そして、黒いブレザーを脱ぎ、制服の一番上のボタンを外す。脱いだブレザーは、綺麗に畳んでバッグの上に置いた。


「お茶いれてくる」


「ありがとう」


 俺は、バッグとブレザーをベッドの上に放り投げ、狭い台所にある一人用の小さな冷蔵庫を開けた。自炊するので、小さいと言えどもある程度食材で潤っている。


 2リットルの緑茶を取り出し、俺専用のコップと、お客さん用のコップを並べた。八分目ぐらいまでお茶を注ぐ。


「お待たせ」


「喉渇いてたんだ。ありがとう、いただきます」


 充子の色白の頰を僅かに汗が伝っていた。もう、十分暑いもんな。


 少しでも風を通す為に窓を全開にした。


「たばこ、吸っていいよ」


「ん、ありがとう」


 俺は、たばこを咥える。


「へぇ、今はピアニッシモ吸ってるんだ」


「意外に乙女チックだろ?」


「うん」


 テーブルの上に、今朝までコーンスネークがいた筈の、空になったプラスチック容器がある。俺は、それを灰皿代わりに使った。爬虫類を食べるなんて、改めて考えても俺よりバカだ。仮に美味しいとしても、コスパが悪いどころの騒ぎじゃない。


「りんごくん、どうしたの? 何か考え事してたみたいだけど?」


「いや、何もないぜ」


 さくものことは忘れよう。ただのクラスメイトだ。まだ吸えるたばこの火を消し、プラスチック容器と共にゴミ箱に捨てた。

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