008 下心満載、俺は呪いを信じるタイプ

「キスした人しか……愛せない?」


「そうよ。これでりんごくんは、もう私だけの物。さぁ、一緒に教室まで行こうね」


 充子は、俺の隣に並んで左手を取った。指までしっかり絡まれるが、違和感はない。俺はこの時、「呪い」が現実世界に存在したことに興奮していた。厨二心を刺激する。


 それに今、何だか気分が良い。二日酔いの辛さも気付けば消えていたし、いつもより充子が可愛く見える。


 抱きしめたい ——


 昨夜のさくもとの出来事を、頭の中で充子に置き換えた。あれが充子だったら、俺は胸まで触っていたかもしれない。


「充子、ごめんな……心配かけてしまって。今日、久しぶりに俺の家に来ない?」


「えっ、ほんと? 嬉しい! 遊びに行くね!」


 充子は満面の笑みを浮かべた。俺は、下心で彼女を家に誘ったのだ。向こうからキスもしてきた。それに、充子は俺のことが好きで、呪いまでかけられた。さくもとやった以上の所までは行けると思った。


 校門を抜けた。


 まだ朝が早い為、他の生徒は見当たらない。しかし、手を繋いでいるのを先生に見られる訳にはいかないので、ここら辺で仕方なく手は離した。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「それでは次回の授業は、7の段に挑戦します。難易度はこれまでの比じゃないから覚悟しておいてください。また、6の段までの復習は各自行うように。じゃあ今日の授業は以上!」


 苦痛な数学の授業が終わった。掛け算って何だよ……。人生の何に役立つのかちっとも分からない。バーコード頭の数学教師が教室を去り、たばこの時間が訪れた。


 俺は、ベランダに出る。


 学校の前を通る、大きな道路を眺めながら吸うたばこは最高だ。きっと俺がこれまで払ってきたたばこ税の一部も、その道路建設費用の一部に充てられているに違いない。


「ねぇ、りんご」


 うんこ座りしながらたばこを吸っていたら、同じく、隣にうんこ座りでさくもが座ってきた。その手には、ストゼロが握られている。りんご味を飲んでいるのが、何だか不満だ。


「朝、なんで慌てて家を飛び出したの? 用事って言ってたけど、窓にくっついていたタピオカと何か関係あるの?」


「関係ねぇよ……。さくもには関係ねぇ」


「冷たいわね。ねぇ……今日さ、放課後、ペットショップについて来てくれない?」


 さくもは、二本目のストゼロを開けた。プシュッと炭酸が弾ける音と共に、俺の手にも飛沫がかかる。


「ペットショップ、昨日も行ったじゃん」


「食べちゃった」


「ほ?」


「朝、食べる物が無かったからさ、ストゼロ飲んで、コーンスネーク食べちゃった」


 ほんと何なんだよこの女は。俺の頭では、到底理解が追いつかない。いや、俺の頭だからこそ理解が追いつかないのだろうか。


「なんで爬虫類食べるんだよ?」


「さあ、なんでだろう。自分でも正直よく分からないんだけどね……。まあ、気にしたら負けやぁ!」


 ちょっと体内にアルコールが入っただけで、さくもは直ぐに陽気になる。俺も、アルコールが回れば直ぐに暴れたくなるタイプではあるから人のことはあまり言えないが、飼うと約束した筈のコーンスネークを食べたことに苛立ちを覚えた。


「今日、放課後用事あるからさ。悪いけど一人で行ってくれ……。あと、今日は家に泊められないから、どっか別の所を探してくれよ。あ、あと俺の家の鍵返してくれ」


「鍵! ありがとう! いやっほー!」


 無事に鍵を受け取った。


 俺は、半分ぐらいの大きさまで吸ったたばこを地面に放り投げ、足で踏みにじる。ストゼロをぐびぐび飲んでいるさくもを置いたまま、教室の中に戻った。

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