第3話

静かだ。

辺りには屍肉しかなく、それを喰らいに来る鴉しかいない。

かあかあと鳥が鳴く。

日が落ちてきたのか、よく周りが見えない。

風の音に混じって、野卑な男の声が聞こえた。

何を言っているのかまでは分からない、ただ妙に興奮しているようだった。

足音が増える。

複数人に囲まれた。

頸筋がずくんと痛む。何があったのか思い出せない。今何が起きているのか、まるで分からなかった。

ただ分かるのは、下卑た声の男共の腕が一斉に此方へと伸ばされたことだけ。

怖い。

逃げようとするのに体が動かない。竦んでいる訳ではない、身体はあるのに。

大きな手に、腕を掴まれる。足を掴まれ、髪を引っ張られた。力任せに押し倒される。

固い地面に頬骨が打ち付けられる感触、脳が揺れてぐらりと眩暈がした。

一枚布を巻いただけの服を剥ぎ取られる。視界がゆっくりと赤く染まって行く。

両の乳房を痛いほどに揉みしだかれ、千切れそうなほどに大きく股を開かされた。

気味の悪い幾多もの眼。這い回るぶよぶよとした太い指先。滑った悍ましい熱い舌の感触。胃の腑から吐き気が込み上げてきて、出す物もなく吐いた。

嗚呼、嗚呼、何が起きているのか。

身体のない己を、狗が喰らい、身体のある己を、下卑た男共が喰っている。

喰われている己は、生きているのだろうか。

それともとっくに死んでいるのだろうか。

薄れ行く意識の底で確かな悲鳴を聞いた。己の身体が酷く冷たくなっていくのがわかる。

獣に噛まれた頸筋がやけに熱い。

再び悲鳴、それは色濃く恐怖の音を立てて何重にも重なり響き渡った。

雨だ。

赤い雨が降っている。

いつの間にか、また誰も居なくなった。

見上げた空からは絶え間なく赤雨が降り注いでいて、既にこと切れた男の手が指先に触れた。

朦朧ぼんやりと霞む視界の隅に、漆黒の毛並みが己へと吸い込まれていくのが見えた。

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憑つうらうら ひなた @Hinatabocco

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