第12話 「全星系統合スポーツ連盟ってのは、何でウチばかり目の敵にしやがるんだろなあ」

 ダイスは皆の関心が自分に一斉に集められていることに、心臓が跳ねるのを感じた。

 確かに一応、最初の自己紹介の時や、新入メンバー歓迎パーティとかでも「公式に」言ったことはある。

 だがどうも、ここで問われているのは、そういうことではないらしい。彼は思う。


「まあ、あの、学校に、スカウトが来たし」


 それはそうだろ、と誰かしらの声が飛ぶ。


「で、結構おだてられたのと違う?」


 ししし、とテディベァルは笑う。


「……おだてられもしましたけど……」

「はっきりしないですねえ」


 ミュリエルはにっこりと、しかし「答えは何ですか?」と追求する時の姿勢で詰め寄った。


「んー…… やっぱり、ベースボールが、好きだからです」


 うんうん、とそれには皆納得した顔をした。


「好き、は好きだろうがな、それだけか?」

「え?」

「だから、ベースボールで有名になってやろうとか、そういうことは、お前、考えなかったの?」


 やや意地悪げにストンウェルは訊ねる。すると。


「あ」


 ダイスは声を上げた。

「何、ダイちゃん、もしかしてそんなこと、全く考えてなかった?」

「な、無かったです……」


 まあ彼の場合、既に中等/実業学校リーグで、星系内に名をはせていた、ということはあるのだが。


「プロだとね、それこそ全星系、レベルだからねえ。俺も昔は大好きな選手が居たものよ」

「ストンウェルさんにも、居たんですか?」

「おーよ。俺がプロになってやろう、って思ったのは、そのひとが居るチームで、一緒にプレイしたいって思ったからだぜ…… ま、そのひとは、俺が入って、結構すぐに抜けてしまったんですげえ残念だったんだけどさあ」

「あ、それ、俺もあります」


 ほほう、と皆の目がきらり、と光った様な気がした。嫌な予感が、彼の背筋をざっ、と駆け抜けた。


「おーい、オーナーからの通信だぞ、昨日のお騒がせ集団、ちょっと来い」


 監督の声が食堂に響いた。助かった、とダイスはほっと胸を撫で下ろした。



「本当に昨日のことは、申し訳ないです」


 代表してマーティが、深々と画面の彼女に頭を下げた。


『……まあいいわ。どうせいつものことだし。私が言えるのは、暴走しすぎないように、くらいでしょ、どうせ』


 男達は、この女性の指摘にぐ、と言葉を無くした。


『遠征から帰ってから、そのあたりの罰はまとめて、何か考えておくから。覚悟しておきなさいね。罰は罰なんだから。ふふふ』


 はあい、と皆神妙に返事をした。

 あの「自由奔放」がモットーの様なテディベァルすら、余計に小さくなっていることにダイスは驚いた。

 実際、皆この女性に関しては、頭が上がらないようだった。しかし何となく、ダイスにもその気持ちは分かる様な気がした。オーナー、社長、その顔の他にもう一つ、その女性の年代には、感じる一つのものがあるのだ。

 母親。

 確かにまるで境遇が違うというのに、何処か皆、この故郷を離れたメンツは、この女性に怒られた時に、何処か母親に叱られたような顔をするのだ。


『あ、そうそうところでダイちゃん』


 は、とダイスは口を開けた。

 俺? と思わず近くに居たヒュ・ホイに彼は確認してしまった。その呼び方をされるとは、さすがに彼も思っていなかったのだ。そうだよ、とホイはあっさりとうなづく。


『居眠りは誉められたものではないけれど、あなたの聞いたことは、全く無しにしておいていいものではないわ。もう少し詳しく話してちょうだい』


 はい、と彼は皆に話したことを繰り返した。


「だけど、一つ、気になることがあって」

『気になること?』

「おい、お前昨日そんなこと、言ってなかったじゃないか」


 端末の向こうの夫人の声と、慌てるストンウェルの声が重なった。


「や、その時何となく、気になっただけで……」

『材料は幾らあってもいいものよ。言ってごらんなさい』

「あ、はい。……えーと、俺達、あの時、ジャガー氏に会ってしまった訳ですけど、…… 何か、声が、似てるんです」

「声が、ってお前がその、爆弾の話を聞いたときの『男』のほうか?」


 ええ、とダイスはうなづく。


「ただその時には、おかしいな、と思っただけで、似てる、という発想が無くて」

「お前鈍感すぎーっ!」


 ぱこん、とテディベァルは飛び跳ねてダイスの頭をはたいた。


『やめときなさい、テディ。これ以上お馬鹿になってはいけないでしょう?』


 あんまりな台詞だとはダイスも思ったが、はーい、とテディベァルが素直に返事をしたのでまあいいことにする。


『で、マーティ、この惑星にテロの起こる可能性はあって?』


 あー、と振られた男は眉を寄せた。


「そりゃあヒノデ夫人、何処の惑星だって、可能性ゼロ、なんて言えませんけどね。でもアルクなんかよりはずーっと可能性は低いですよ。何たって『爆弾』あられがあるくらいですから」

『あら、それ面白いわね。ちょっと後で資料取り寄せてみましょう』


 さすが食品産業の社長だ、と皆感心する。


『でも、そうね。ゼロではない。それが問題なのよね。いつもあなた達が動いてしまうのは』

「ええ」

 いや、と彼は首を横に振る。


「ああもう、全星系統合スポーツ連盟ってのは、何でまあ、ウチばかり目の敵にしやがるんだろなあ」


 ふう、とトマソンは腕組みをする。それに対し、マーティはそうだな、と真剣な顔になる。


「まあ、向こうにも何か理由はあるんでしょう。ともかく、無いなら無しでいいですが、あったら困りますから、少し動いてもいいですか?」

『試合は勝ってね』


 ぴしり、と彼女はその一言で皆を押さえ込んだ。


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