第4話 おでかけデート

「うまい!?」

 最高級の黒糖を使ったスイーツはクセのない甘さですっきりとした酸味がきいている。つまり最高にうまいというわけだ。

 後味がすっきりしている。

「とはいえ、甘すぎるな……」

「え。何を言っているのかしら。もっと甘い方がこっちとしては好きなのだけど」

「そうなのか」

 俺は魔法を解かずにそのまま現世での姿でスイーツを味わう。

 ちなみに衣服が破けているが、気にした様子もない俺である。

「さ。すぐに買い物するわよ」

「……そうなの」

 やはり、俺の格好に問題があるらしい。

 俺は二人にエスコートされる形で、高級アパレルショップに入る。

「あら。この服も似合いそうね♪」

「……こっちの方が似合うかも」

 天真爛漫な子がシャーロット=エンジェル。

 大人しい子がエミリー=エンジェル。

 二人とも双子の姉妹であり、透き通るような白い肌。

 姉のシャーロットが赤い長い髪。妹のエミリーはピンク色の肩口で切りそろえている。。

 子どもということもあり、胸はないが線の細い女の子らしい身体つきをしている。

 出家して六年。

 男の俺にとっては刺激が強い部類だが、子どもだと言い聞かせると落ち着く。

 シャーロットとエミリーは俺の衣服を見繕い、着せ替え人形のようにあっちを着ては、こっちを着るを繰り返した。

 夕暮れになっても似合う衣服が見つからない。

 エミリーが持ってきた燕尾服をとりあえず着る。

「今日はありがとう。助かったよ」

 俺はそう言って、シャーロットの頭を撫でる。

 身長2mある俺にとってシャーロットはまさに子ども。140cmあるかないかの彼女らは大変可愛らしい。

 撫で終えると、シャーロットは顔をまっ赤にする。

「わ、私こそ、助けてもらってありがとう。今度、うちに来てね」

 そう言って手紙を渡してくるシャーロット。

「それを見せればお城に入れるから」

「おう。必ず遊びにいく」

 そう言った矢先、俺の魔法が解け、幼女らしい金髪碧眼の女の子に生まれ変わる。

「「え?」」

 シャーロットとエミリーは大変驚いたように裏返った声を上げる。

「「ええっ~~!!」」

 その顔つきはさすが姉妹だ。

 俺はそのあと、詰問された。


 家に帰ってくると、母も父も急がしそうにしている。

 イザベラとカーラは俺のもとに歩み寄ってくる。

「どうしたんだ?」

 姉妹に訊ねてみると、怖い顔を向けてくるイザベラ。

「あんたは呑気でいいよね」

「王族エンジェル家の娘さんが迷子だって」

 カーラはため息を吐くように肩をすくませる。

「ふーん」

 知らん顔をして水を飲む俺。

 ん。エンジェル?

 どこかで聞いた名前だ。

「あっ」

「どうしたの? エヴァ」

 あの二人がエンジェルじゃないか!!

「俺、知っているかも……」

「はいはい。〝俺〟ね。気をつけなさい」

 イザベラはいさめるように言う。

「「……え!?」」

 イザベラとカーラは驚いたように顔を見合わせる。

 もう夜もふけっている。

 シャーロットたちはまだ合流していないのだとすると……。

「俺、探してくるよ」

「待ちなさい。わたくしが探索魔法を使うわ」

「なら、お母様にはあたしから伝えるね」

 イザベラとカーラはすぐに捜索の準備を始める。

 俺は一人先に出ると、夜の街を見渡す。

 そこは昼間の顔と打って変わって、淫靡で矮小な世界がどこまでも広がっていた。

 臥竜石の光が街中を照らし、小便臭い路地裏。

 スラムの子どもたちが奴隷として売られる。

 人身売買が横行している世界で、奴隷解放など、端から無理なのかもしれない。

 それでも叫ばなければ何も変わらない。

 快楽目的のバカな奴らが子を産み、捨て、スラムができる。

 それはこの町だけに限ったことではない。

 人は性善説では成り立たない。

 悪いところを知り、改善していく。あるいは抑え込む必要があるのだ。

 それが世渡りというもの。

 しいては人の生き方というもの。

 俺は自分の我欲を抑え込む訓練を受けてきた。

 でも一般人はそんな訓練は受けていない。

 だから欲に走る。

 悪いことだ。

 近くの道を走り、俺はシャーロットとエミリーを探す。

 どこだ。どこにいる?

 額に浮いた脂汗を拭い、緊張で歪む口元をはたく。

「エヴァ、探索魔法を使うと言ったでしょう?」

 イザベラが隣を併走する。

 この身体では思うように進まない。

 歩幅が違うのだ。

 だから姉のイザベラに追い付かれる。

「あんたも、狙われているのよ?」

 イザベラが忠告するように俺を見やる。

「そっか。でもあの二人を放っておけないぞ」

「やっぱり、知っているのね。二人とは言っていないのに」

 イザベラは引きつった笑みを浮かべる。

「見てなさい。わたくしが見つけるから」

 イザベラはそう言い、詠唱を始める。

 そして放たれた光の奔流は街全体に広がる。

 魔法の得意なイザベラなら、暴漢を退けることもできる。

 日に一度、それも変身魔法しか使えない俺とは雲泥の差だろう。

 妬ましい気持ちも、最初こそは沸いたが、精神統一をしたお陰か、今は感じない。

 やはり精神統一は全てを解決する。

「見つけた。でも、これは……?」

 イザベラは苦笑を浮かべて、シャーロットとエミリーの元に向かい踵を返す。

 俺もそのあとに続く。

 今日はもう変身魔法は使えない。

 今信頼できるのはイザベラだけだ。

 ついていくと、幌馬車に乗り込むシャーロットとエミリーが観測できる。

「シャーロット、エミリー!」

 俺が呼びかけると、王族の紋章が刻まれた馬車を見やる。

「あ。エヴァちゃん!」

「エヴァっち……」

 二人に会えて、ホッと胸を撫で下ろす。

「もしかして」

 俺は二人を一瞥し、その隣の男性を見る。

「親衛隊のオクラです」

 ペコリと頭を下げるオクラ。

「なんだ。じゃあ、もう迷子じゃないんだ」

 俺は安心しきった顔でその場に崩れ落ちる。

 体力を使った。

 それもこの幼女姿では体力が少ない。

「こら、あんたのせいでしょ?」

 イザベラは憤怒していた。

「……すみません」

 俺はさすがに謝るべきだと思った。

 二人を連れ回したのだから。

「……いいの」

「そうだよ。私、楽しかったもの!」

 エミリーに続き、シャーロットが言葉を引き継ぐ。

 しかし、大人しいエミリーが真っ先にフォローしてくれるなんて。

 この二人を大切にしたいと思う。

 思った。

 俺とイザベラはエンジェル姉妹を見送ると、ゆっくりと家に帰ることになった。

 イザベラは心底怒っていたようだけど、母と父はそうでもなかった。

 俺のワガママに理解があるらしい。

 それとも抜けているだけか。

 恐らくは後者である。

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俺、金髪ロリ! ~拳で語れ!~ 夕日ゆうや @PT03wing

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