第17話 神崎茜と赤坂航平の過去②

 松田は結局体育館で小山田達とバスケをしていた。


「松田!ちょっといいか!」

「どうしたんだよ航平。そんなことよりバスケやろうぜ!体育大会も近いんだ!」


 俺は問答無用で松田に近づき


「吉崎さんと茜が既に接触してる。頼む。ちょっと相談に乗ってくれ」

「…マジか。分かった。すまん小山田!俺ちょっと抜けるわ!」

「分かった!また放課後な!」


 俺と松田は体育館を出て人気のないところに行く。


「それで?航平。どうゆうことだ」

「今日吉崎さんが遅刻ギリギリだったの知ってるだろ。その原因が登校中に茜とぶつかったかららしいんだ」

「っ…そんな偶然、あるのかよ?」

「ない…とは言い切れないな。この時期に茜が来たのも、この学校の誰かが俺と吉崎さんが仲良いのを伝えた可能性もある」

「だけど、この学校に茜の知り合いなんて俺と航平以外いるか?」

「わからん、犯人探しも出来ないし、本当に偶然っていう可能性も捨てきれない」


 情報が少なすぎるので断定するのは危険すぎる。


「でも、どうすんだよ」

「俺も分からん。とりあえず吉崎さんと一緒に帰ることにする」

「じゃあ俺はお前らの後ろで茜がいないか警戒するわ」

「マジか、助かる」

「その代わり、あんまいちゃいちゃしてたらキレっからな?」

「誰がするか」


 とりあえず登下校は安心できそうだ。


「そういえば、なんで吉崎さんのこと好きになったんだ?あれほどのことがあったから恋愛はしないと思ってたんだが」

「それは…なんでだろうな。でも…」


 俺は少し考えると


「凛と似てるから、なのかもな」


 そう言って微妙な顔をしてる松田を置いて教室に戻った。俺は未だに凛のことを引きずっているのかもしれないな…




 授業は特に何事もなく、体育大会の練習も全力で取り組み放課後、優花と待ち合わせして帰る。なぜだろう、いつもなら可愛く見える優花が可愛く感じない。


「ねえ航平君。神崎さんに怒鳴ってたけど…何があったか、教えてくれない?」


 そりゃ気になるだろうな…でも、話していいものか…


「…どうしても聞きたいのか?知らない方がいいってこともあるぞ?」

「いや、教えて。なんで2人がそんな関係なのか、昔は仲良い幼馴染だったじゃない」


 なんで俺と茜の関係を?茜から聞いたのか?


「聞きたいならいいけど…」

「うん。お願い」

「俺には昔、氷堂凛って彼女がいたんだ」

「も、元カノいたんだね」

「まあな、すごいかっこよくて可愛いやつだったな…」

「か、可愛いって…ふーん」

「お前に…少し似てる気もするなぁ…」

「へっ!?私に?」


 優花は少し驚いたのか顔を赤くしながら指で前髪をくるくるといじる。そういえば、凛のクセもそうだったな…


「お、おう。なんでそんな驚いてるのか分からんが…で、その凛なんだけどな…死んじまったんだよ」

「死んだ?どうして?」

「いじめが原因とされてる。そのいじめグループの裏に茜がいるんだ」

「…そうなのね」


 俺は他の3人のことも話した。優花は怪訝な顔をしたり、むすっとしたり、それでもやはりいい顔はしないよな。俺は…東京に来て新しく生きる。過去に囚われない。そう決めたのにな…


「その後も、俺と仲良くなった女子は死んだり退学に追い込まれて来た。優花と付き合おうってなったのは凛と似てるからってだけなのかもな…恋愛感情とか、そういうのもう無くなっちまったんだよ…」

「…ごめん。辛いこと聞いて」

「いや、気にしないでくれ。勝手に喋ってるだけだ」


 俺は…優花を利用していただけなのか…可愛いとは思ったけど、好きだとかは今まで思わなかったな…むしろ、なんで凛に似てるんだってすら思いも…


「優花」

「なに?」


 俺は心を決めて、その言葉を言った。


「俺たちさ、別れよう」


「え?」

「俺は、優花を利用してただけだよ…凛と似てる優花になら恋愛感情持てるかもしれない。過去のことを忘れられるかもしれない。そう思ってた。期限つき、それも魅力的に聞こえたんだ」

「…」

「それで、やっぱり思ったんだ。俺は人を好きになれない。最低なやつだな、俺。ははっ」

「そ、そんなこと…

「無理にフォローしなくていい。俺らが別れれば、優花も茜に狙われない可能性も出てくるしな」


 そう言うと優花の家の近くに来た。優花を見ると、泣いている。


「ほら、優花。泣くなよ。それじゃあまた明日な。茜には気をつけろよ」

「ま、待って…

「俺みたいなやつに、告白してくれてありがとうな」


 そう言うと俺は優花の家から離れ、1人帰路についた。きっと、これでいいんだ。こうしなきゃ…いけなかったんだ。

 ふと前を見ると、フードを被った人が反対側から歩いてくる。この時間帯だと不審者にしか見えない。少し薄気味悪く感じたので少し体を端に寄せ…


「ふふっ。ご苦労様。こうくん♪」


  

 そんな声を聞いた瞬間、俺の意識は途絶えた…と思う。




 …あれ?俺いつの間に家に帰り着いたんだっけ?

 俺は気がつくと家のベッドで横になっていた。時間は夕方の6時。優花と学校を出たのが5時だから、ちょうど帰ってすぐ、なのか?


(優花、か。なんで俺は付き合ってたんだろう?自身に腹が立ってくる。凛に似てるだけのやつなのに…幸い、俺と優花が付き合ってたことは周りには知られていない。元カノと似たやつを彼女にしましたとか、言えないな。よかった)


 なんて思っていると、松田から電話がかかってきた。


『おい航平。お前も吉崎さんも無事か?」

「ああ、茜とも出会わなかったし、大丈夫だ」

『そうか…それならよかった。俺も途中までお前らの後ろにいたけど、怪しい奴はいなかったぜ』

「もしかしたら俺らをつけてたお前が怪しい奴に見えてたりしてな、はははっ」

『おいおい冗談きついぞ。そんなわけないだろ〜』


 お互いひとしきり笑った後


「今日はありがとな、助かったわ」

『ダチだろ!気にすんな!』

「明日からもしばらくたのむかもしれない。その時はよろしくな」

『任せろ!そんで、我が親友よ、国語の宿題を写させてはくれないか?』

「お前にとってのダチってのは宿題を写させてくれるやつかー。まぁ、今回くらいは良いか」


 これからも頼むかもしれないしな。先行投資だ。

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