第16話 神崎茜と赤坂航平の過去①

 幼馴染の茜とまさかの再会をはたした翌日。珍しく優花が始業ギリギリに来た。肩で息をしているのを見ると、相当急いで来たようだ。


「ギリギリなんて珍しいな。何かあったのか?」

「ううん。ちょっと近所の人とぶつかっちゃって。それでその人と話してたらいつの間にか時間が…あはは…」

「ぶつかったって、怪我はないのか?」

「私も相手の人も怪我はないよ」

「そっか…よかった…」


 怪我がないのは本当によかった。一安心し授業の準備に取り掛かろうとしたところ…


「心配してくれて…ありがと」


 …その恥ずかしがった顔での不意打ちは本当にずるいと思う。可愛い。うん。




 昼休みまで授業がつつがなく進行…はしなかったが、俺は特になんの問題もなく授業を終え、昼休み、今日は久しぶりに優花と弁当を食べることができる。


「ここでこうやって2人でゆっくり食べるもの久しぶりだな」

「そうね…」


 優花は浮かない顔をしている。何かあったのだろうか。


「航平君。神崎茜さんって知ってる?」

「…優花。どこでその名前を?」


 なぜ優花が茜のことを?松田が喋ったのか?


「朝ぶつかった相手。それが神崎茜さん」

「そういうことか…って、なんで名前を?」

「ぶつかった後、話して仲良くなったのよ」


 …嘘だろ。茜と優花が知り合いに…?まずい。最悪の形だ。


「いいか。茜には俺と優花は無関係だってことにしておけ」

「…どうして?」

「それは…今は言えない」


 これは俺と茜、松田達の問題だ。優花を巻き込むべきではない。


「何で教えてくれないのよ。それに、もう彼女だって言ってるわよ…」

「…なん…だって?じゃあ茜はもう知ってるのか…?」

「え、ええ。まずかったかしら?」

「ああ…いいか優花。茜はな…」


 俺はここで一泊置くと、茜の目をはっきりと見て言った。




「俺の好きだったり仲良かった人達を、殺したんだよ」




 そう言った瞬間、俺の頭の中に今まで朧気だった過去の記憶が蘇ってきた。


 俺は中学2年生の時、ある女子と仲良くなった。氷堂凛。それがその女子の名前だ。水色のキレイな髪と少しキレ長な目が特徴だった。俺は凛のことが好きだったし、凛も俺のことが好きだった…と思う。俺は文化祭の日、凛に告白した。


「凛…俺と付き合ってくれ!」

「えっ…こちらこそ…よろしく…」


 こうしてOKをもらい、付き合い始めたのだ。こうして俺の勝ち組人生が始まるか…と思った1ヶ月後。突然凛は死んだ。原因はいじめによる自殺とされている。

 そして、そのいじめの主な実行役だった女子は転校を余儀なくされたが、そのいじめのグループの裏には神崎茜がいたのだった。


 さらに、中学2年生の冬。バスケの大会の後、1人の後輩、白河遥という後輩と仲良くなった。凛のことを引きずっていた俺は決して遥と付き合う関係にはならないようにしていたので、仲のいい友達と言った感じだ。しかしその遥も俺と出会って3ヶ月後、死んだ。死因は海で浮き輪が壊れて溺死だそうだ。そしてその遊びに行ったグループの中にも神崎茜がいた。そして神崎茜は浮き輪を持ってくる担当だった。


 さらに中学3年生の春には長谷川美咲という同級生と仲良くなった。美咲は公明正大な委員長でよくゲームを持ってきたりしている男子を摘発したりしているやつだった。その美咲は盗難事件の犯人として退学させられた。その盗難の告発、証言したのも神崎茜だった。


 最後に中学3年生の秋の時期。菅原智恵という同級生と付き合うことになった。智恵は下校中に病院帰りの神崎茜が乗っていたタクシーに轢かれて死んだ。


 そして俺はその冬。神崎茜に監禁されたのだ。その時は東京に出ていてたまたま帰ってきた松田に助けられ、その松田に連れられ東京に行き今に至る。




 ………このままでは優花も…俺の手の届かないところで死ぬのか?ただその時を怯えて過ごすしかないのか?クソッ!どうすれば!昨日茜に会った時、怖くて拒絶できなかった俺に何ができる!


「あの…航平君?殺したって…」

「本当のことだ。あと、今日の放課後から一緒に帰ろう。話さなきゃならないことも沢山あるし、それに…最近一緒に帰れてなかったしな…」

「う、うん…」

「俺はちょっと急用があるから先に戻るけど、決して茜に連絡を取るんじゃないぞ」


 俺が屋上のドアを開けたちょうどその時優花のケータイが鳴る。なんか嫌な予感がして優花の方を見ると


「…神崎さんから」

「スピーカーにして出てくれ」

「…わかった」


「もしもし神崎さん?どうしたの?」

『朝ぶりだね優花!茜でいいって言ってるじゃーん!堅いんだから!』

「あはは…慣れなくて…」

『それはそうと、今昼休みかな?』

「ええ、今昼休みよ」

『授業中だったらどうしようって思ったよ。今は彼氏とお弁当かな?』

「そ、そうね…」

『それで要件なんだけど、今夜会えないかな?』

「会うって…どこで?」

『山村公園!もしかして遠い?』

「いや…そこまで遠くないけど…電話でよくない?」


 山村公園?確かあそこには川が流れてるし車の通りも夜は多い…もしかして!?


『だって会って話ししたいし大事な…

「おい茜!」

『うお、こうくん?どしたのいきなり大声出して…』

「どうしたのだと…?今まで色んなことやっていてよくそんなことが言えるな!」

『な、なんでこうくんが怒鳴るの…?そんなに優花ちゃんに会ってほしくないの…?』

「会って欲しくないに決まってるだろ!お前は…俺の人間関係を何度ぶち壊せば気が済むんだ!優花は今は俺の彼女だ!だからこそ、金輪際優花には関わるな!」

『えっ…いきなり何言って…

「いいか。俺はお前を一生許すことはない。だけどな、優花に手を出してみろ?その時は…お前を殺す」


 そう言って電話を切る。驚いた顔をしている優花にスマホを返すと


「いきなり怒鳴ってごめん。用事あるから戻る」

「う、うん…」


 俺は今度こそ屋上のドアを開けて階段を降りる。まだ昼休みは時間がある。とりあえず松田に会おう。松田には話しておけば何か手が打てるかもしれない。そう思い松田のケータイに電話をかけるが、反応がない。クソッ!こんなときに!



 色々歩き回るものの松田は見つからない。職員室にも教室にも食堂にもいなかった。松田を探して廊下を歩いていると、斎藤さんを見つけた。


「なあ斎藤さん」

「どうしたの…えと、赤坂君?」

「そうだ。松田見てない?」

「いや、見てないかな。教室とかは?」

「見たけどいなかった。呼び止めて悪かったな」

「あ、待って…」

「ん?」


 斎藤さんは俺の肩に手を置きながら呼び止める。振り向くと額を触られた


「あ、いや、服と髪にごみが…」

「マジか…ありがとう。それじゃ」


 俺は斎藤さんと別れ松田を探す。あいつ!あの時はベストタイミングだったのに、普段は全然欲しい時にいないんだな!

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