たっ君と風さん

井上 流想

1話完結

「風さん風さん、どこにいるの?」


ヒュウ~


たっ君の前髪がフワッと浮きました。


「こんにちは、風さん。風さん今日は何するの?」


風はヒュウ~と吹いてタンポポの綿毛を飛ばせて見せました。


「うわ~風さんは引っ越し屋さんだね~」


風は得意気な顔をしました。


「風さん今度は何するの?」


風はヒュウ~と吹いて船の帆を押して見せました。


「うわ~風さん力持ちだね~」


風は自慢げな顔をしました。


「お~い風さ~ん いつもお世話になってま~す」

向こうからたくさんの渡り鳥がやって来ました。


「僕たちは何千キロも移動しなくちゃいけないんだけど、風さんに乗っているときは楽に飛べるんだよ。おかげで肩もこらなくてすむんだ。」


「へ~ 風さんそんなこともしていたんだね!」


風は少し照れて赤くなりました。


「風さん次は何するの?」


風はヒュウ~と吹いてうなぎ屋さんのおいしい匂いを遠くまで運びました。


すると、その匂いに引き付けられた人が列を作り始めました。


「さっきまで誰もいなかったのに!風さんの宣伝のおかげだね!」


風は誇らしげな顔をしました。


「風さん次は何するの?」


風はヒュウ~と吹いて洗濯物をあっという間に乾かしました。


風は家の中に入ると、またヒュウ~と吹いてほこりを外に追い払いました。


お手伝いをしてくれた風に女の子がお礼を言うと、

風はちょっと調子に乗って女の子のスカートをチラッとめくりました。


「キャー エッチ!」


風はヒュッヒュッと笑いながら舌を出して逃げて行きました。


調子に乗った風は町に戻るとひそひそ話をしている大人に近づいて、ヒュウ~と吹きかけました。


すると噂は風にのって隣町まで広めてしまいました。


「風さんがこんな人だったなんて知らなかったよ!」


たっ君は初めて風さんに失望しました。


風はしゅんと落ち込んでしまい、吹くのを止めてしまいました。


すると、

風がないので渡り鳥は目的地に着けず、

洗濯物はいつまでたっても乾きません。


うなぎ屋さんの売り上げも落ちてしまいました。

みんな困り顔です。


仲直りをしようと呼んでみますが、風は現れません。


たっ君は風さんと一緒に過ごした日々を思い出していました。


ブランコに乗っているたっ君の背中を風さんが押してくれたこと


凧揚げをしているたっ君に風さんが仲間を呼んできてくれたこと


熱いラーメンを食べる隣で風さんがふうふうしてくれたこと


たっ君は風さんに会いたくて寂しくて、悲しくなって泣き始めてしまいました。


すると、


風がヒュウ~とたっ君の涙を吹き飛ばしました。


「風さん!」






町にはうなぎ屋の行列ができ、船の汽笛が鳴り響きました。



                       

おわり






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たっ君と風さん 井上 流想 @inoue-rousseau

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