第12話 おパイの胸囲



 【モモ香ver】



 あたしはまだ意識が曖昧なまま、今の状態を楽しんでいた。


 腕の中のカスミが微妙に動くと肌が擦れて少し熱と湿気を帯びる気がする。

 ずっと動かずにいるとまるで溶けて混ざりあったみたいな一体感を感じて安らぐんだけど、触れたり離れたりと互いの肌を感じるように動くのも、とっても気持ちが良かったりする。今カスミはあたしの胸に顔を埋めるようにして、寝息を立てていた。互いの足を相手の足の間に入れて絡めているから、密着度がすごく高い。どちらも一糸纏わぬ姿だから尚更だ。

 カスミが目覚めつつあるのか、時折手や足を動かす。あたしの肌を確かめるように。その感触をぼんやりと、同時にうっとりと感じていた。




「な、な、な、なっ⁉」


 突然、抱いていたカスミの感触が消える。そしてひどく焦ったカスミの声が聞こえた。

 次の瞬間には、布団が剥ぎ取られ、真っ裸のあたしが晒された。


「う…ん、なに?まだ暗いじゃん?」

 あたしは眠い目をこすりながら、上半身を起こす。

 目の前には、布団を裸の身体に巻き付けて、ワナワナと震えてるカスミがいた。


「な、な、何やってんですか、アンタ⁉」と、カスミが叫ぶ。


 なにって……なんだっけ?うーん、まだ頭がぼーっとしてる。

 どこまでやっちゃったかなぁ?って、取り敢えず、動揺しまくってる目の前のコイツを落ち着かせるか、うん。


 あたしは半目のまま、カスミの耳に口を寄せ、そっと囁いた。


「良かったよw?」


 そのままカスミの身体に覆いかぶさっていく。

 

 カスミの柔らかそうな唇にあたしの唇が重な……





 あれ?なんか景色が回ってる?


 と思ったらあたしが回ってた。背中からベッドの頭側の壁に激突する。


「あただだっ」

 安アパート全体が揺れたんじゃないかと思うほど、派手な音と衝撃が襲った。他の部屋の人達はたぶん、でっかい地震がきたと思った事だろう。


「おまっ、何、寝起きからいきなり巴投げかましてくれてんだよ⁉」

 背中をさすりながら抗議すると


「いやいやいや、何しよーとしたんですか‼つか、なにやってくれたんですか⁉」と、どえらい剣幕で返された。


「ンん?アンタ、昨日何したか覚えてないの?」


「全く覚えてないです。記憶飛んでますっ何したんですか⁉」


「ふふーんwww?」


「その意味ありげに笑うの、止めてもらえます⁉」


「アンタさあ……凄かったよ? ふげっ」


 いきなり枕が顔面に飛んできたよ。この女、案外凶暴だな?


「ちゃんと、わかるように説明して下さい!」


「ん、はいはい、んじゃ最初からね?まずあたしがアンタの#$%を○☓▽したら≮∇∂‰が□△◀♂になって、アンタが■☆♀して……」


「きゃー、きゃーきゃー‼」


 あれま、自分が説明しろって言ったクセに、耳塞いで真っ赤になって、足バタバタさせてるよ?

 

「なに伏せ字まみれの事を喋ってるんです⁉」


「そりゃ、コンプライアンスに引っ掛かるような事、やりまくったからでしょ?」

 まあ、大幅に盛ってるけどさwww?


「やりまくった覚えないです‼私をハメようとしてるでしょ⁉」


「ハメようとしてるっつーか、既にハメちゃったっつーか…うわっ、あぶねっ」


 顔面に飛んできたグーパンを咄嗟によけた。


「おま、乙女の顔面にグーパン入れよーとすんじゃないよ!?」


処女おとめのアソコに何か入れよーとした人に言われたくないです!」


 あ、ごもっともです。つか未経験だったのね。


「だいたい、どこまでヤっちゃったんですか!てか、どこまでヤッたらヤッた事になるんですか、この場合⁉」


「うーん、イクくとこまでイっちゃった的な?」


「なにドヤ顔で言ってんですか!全然上手くないです!それに、そんな実感もないです!」


「ああ、記憶ないままやっちゃったのが残念なんだ?もっかいやる?」


「やらないですっ!」


「んな、いろいろ丸出しで言われてもね」


 って言ったらやっと気付いたみたい。暴れてるからとっくに巻いてた布団は落ちてすっぽんぽんなんだよね。それはこっちもだけど。

 ありゃ、すっぽんぽんのまま、なんか探し始めたよ。


「下着どこやったんです⁉私の」


「あ、洗濯して干してあるよ?」

 って言ったら、カスミが目を剥いた。


「はあ⁉普段一週間置きにしか洗濯しない人が、なにやってくれてんです⁉」


 おいおい、失敬だな。四日に一回は洗濯機回してるぞ?ただ、昨日洗濯したのはあんまし覚えてないけど。無意識にちゃぶ台の上もきれいに片付けたみたいなんだよね。最近ようやく、やれば出来る子になったみたい。


「いいじゃん、乾くまでいれば。うぅ、さぶっ」

 5月とはいえ、夜明け前はまだ冷えるんだよね。おまけに真っ裸だし。

 あたしはまた布団に潜り込んだ。

 なんか、カスミが恨めしそうにこっち見てるよ。


「ほら、寒いでしょ?入りなさい」

 流石に寒さに耐えきれなかったのか、しぶしぶ布団に入ってきた。

 

「ちょっ、くっつかないで下さい」


「バカ、暖めてやってんの。暖かいでしょ?」


「……はい」


 なんだ、結局元の体勢に戻ったじゃん。


「モモ姉さんってそういう趣味の人だったんですか?」


 カスミが上目遣いに聞いてくる。


「うん、まぁ、どっちもいける、みたいな?」


「うわぁ、いい加減ですね?」


 いや、悪かったね、いい加減で。


「でも……世界征服は手伝いませんよ?」


 さぁ、それはどうだろう?


 まあ、それは置いといて、


 今は夜が明けるまで、この感触を堪能しよう、うん。












  【ビーチくんver】




 我輩はおっぱいである。名をビーチくんと言う。


 やれやれ、娘共がかなり揉めてた様だな?モモ香が投げ飛ばされた辺りで我も覚醒してしまったわ。しかし、あのカスミという娘、なかなかやるではないか。是非、我が配下に欲しいものだ。聞けばその昔、世界征服を目論む悪の組織の幹部だったというではないか。おあつらえ向きとはこの事だ。

 これでまた世界征服が近付いたな。


 そうそう、実は昨晩、我は新たな力を発見した。

 聞いて驚くがいい、モモ香が意識を失っている時、我はモモ香の身体を自由に操れる事が判明したのだ。

 それに気付いた時、我は思わず狂喜乱舞してしまったわ。

 我は自由を得たのである。


 モモ香の意識がない時限定とはいえ、これは大きい。

 我は早速、寝たモモ香に変わって、身体を支配した。

 そして気になっていたちゃぶ台の上を片付けてやったわ。わはははははっ。


 あと、その辺に脱ぎ散らかしてた下着なんかも洗濯機に入れて洗ってやったぞ?勿論、傷まぬよう、洗濯ネットに入れて、だ。流しの食器も洗って、洗濯モノ干したらもう、スッキリだ。ワハハハハハ。

 明日はゴミ出しの日だからな。きっちり分別してまとめといてやったわ、フハハハハハハハ。

  

 ああ、自由とは素晴らしい。

 世界征服ももうすぐだ。

 フハハハハハハハハハ。









 【水希ver】



 朝、ねぇちゃんの機嫌が超悪かったんで早目に出てきたよ。

 なんか水希の時と優月の時と、露骨に態度が違うもんね。男の水希だと肩身が狭いよ。中身一緒だってわかってんのかなぁ?僕的には、なんら変わらないんだけどね。ただチ○コが付いてるか、付いてないかってだけじゃん?


 


 通学路でお馴染みのコンビニを見渡したけど、今日はキタローくん、いないみたいだね。流石に毎朝アイス食べてたらドン引きだよ。




「水希、お前昨日さっさと帰りやがって」


 突然後ろから背中をどんっと叩かれた。誰かと思ったら、大窪と中八木だった。


「はよー、ごめん、急にお腹痛くなっちゃってさ」


 そんな感じで誤魔化す。


「そりゃまあいいけど。昨日俺ら、あれからめっちゃ可愛い娘見つけてさぁ?」そこそこイケメンの大窪が興奮気味に言った。ぽっちゃりの中八木もそれに続く。


「そうそう、すっげーキョヌーでよ?お前見なかった?赤ジャージのキョヌー娘?」


 なに、コイツら?おっぱいばっか見てんのかなぁまったく。


「見てないよ。てか、そんなにおっぱい気になるわけ?」


 僕が興味なさげに言うと、二人は呆れたように顔を見合わせた。


「なに、お前おっぱい興味ねーの?」

「水希はさあ、お子ちゃまだからじゃね?も少し大人になったらおっぱいの良さがわかるよ」


 中八木がバカにしたように言ってきたけどさ、僕はお前らより遥かにおっぱい知ってるからね?つか、実際付けてたもんね。はっきり言ってあんなの重たいだけだよ?走ると回るしさ?おっぱいのデカさなんて本人的には何の意味もないんだよ?


「なあなあ、ウチのクラスでさ、一番おっぱいデカイ子、誰だと思う?」


 また、大窪がバカな事言い出したよ。それに中八木もすぐ乗っかるんだよね。


「木下さんじゃね?あと白川さんとか。宮下さんも有りそうだな?」


 コイツら、ホントに胸しか見てないんじゃないの?


「水希は?お子ちゃま的にどのおっぱいが好みだwww?」


 お子ちゃまってゆーなよ。


「小野さんとか?」


「おおっ、お前いいとこついてくんなー。小野さんってさ、隠れ巨乳だと前々から思ってたんよね、俺」


「あのミステリアス美女かぁ。でも彼女、ハードル高えぞ?声掛けるだけで緊張するもん」


「だよなー。昨日も赤ジャージの娘探してる時に小野さんにも聞いたけどさー、取り付く島もない感じだったよなあ」


 ふうん、皆仲良くなりたがってるのに、躊躇してるみたいだね。踏み込んでみると、案外面白い子なんだけどなぁ。


「おい、水希。アレ」


 大窪が僕の腕をチョンチョンと叩いてきた。アレ見ろって目で訴えてくる。

 視線の先には、校門でヤンキー座りして、登校して来る生徒達をびびらせている金髪モヒカンがいた。


「おーっ、待ってたぞ、弟」

 僕に気付いた金髪モヒカンのキタローくんが手を振りながら大声で呼んでる。相変わらずヤンキー座りのママで。


「おはよーキタローくん。じゃあね」


 挨拶だけして横を通り過ぎようとすると、


「いや、まてまてまてまて、またんかーい」

 慌てたように、呼び止めてきた。ヤンキー座りのままで。


 だからさ、ずっとヤンキー座りしてるから、痺れて咄嗟に立てないんだよ。

この人、いったいいつになったら学習すんのかな?


「何、キタローくん?あ、先に行っといていーよ?」

 キタローくんに返事しつつ、二人には先に行ってもらった。


「おう、弟。まあ、座れや?」


 何、自分ちのリビングみたいに、言ってんだよ?ここ、校門の真ん中じゃん?みんなに迷惑だし、恥ずかしいよ。

 つか案の定、体育教師が竹刀持ってこっち来ようとしてるし。


「ここ邪魔だよ?移動しようよ?」


「そうか、うん」


「……」


「……」



「……いや、何してんの?」




         「足痺れてっから待って」





 ほんとにバカだな、この人






















 


 


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