第8話  戦場は今夜



   【モモ香ver】


 


 うう、太陽がめちゃ眩しい。


 いつの間にか寝ちゃってたのか。むっくり起きたらちゃぶ台の上がえらい事になってた。ビールの空き缶やら、焼酎のバカでかい瓶やら、日本酒の紙パックやらが溢れてた。どこのバカだよ?、こんなに呑んだの。

 いや、あたしだけどさ。

 まあ、えらい事なのはちゃぶ台の上だけじゃなくて、部屋の中全部なんだよね。そこら辺に脱ぎっぱの服やら、食べ掛けのお菓子やら、ゲームのソフトやらが散乱してる。ここがゴミで埋まるのは時間の問題だね、うん。


 ちょっと前まではこんなんじゃなかったんだけどなぁ。前ってのはそう、戦隊ヒーローやってた頃ね。

 

 あたし一応、戦隊ヒーローの紅一点、(別名お色気担当)のピンクやってたんだ。


 着ぐるみショーじゃないよ?本物の戦隊ヒーロー。そんなの本当にいるの?って思うでしょ?いるんだなぁ、それが。

 流石に巨大合体ロボはなかったよ。あんなの、メーカーがオモチャ売りたいだけの存在じゃない?だいたいなんで何体も増えてくのさ?必要ないじゃん、あんなメーカーの欲の塊。

 まあ、パワードスーツは着てたけどね。特殊繊維だかなんだか知らないけどさ、どっかのちょっとズレた科学者が開発した謎の動力で動くってゆー怪しさ満点のやつ。

 しかも、あたしのスーツだけおかしかったんだよね。スカートみたいなヒラヒラが付いてるのはわかるよ。一応、女の子だしね。でもさあ、胸元ガバッと谷間が見えるまで開ける必要ある?キャバ嬢じゃないんだから。曲がりなりにも、弾丸弾くスーツなのに、胸元開けちゃってどーすんの?そこに当たったら死ぬよ?抗議したら、当たらんよーにしろ、だって。

 もっとも、拳銃撃ってくるよーな敵はいなかったけどね。

 悪の組織もさあ、バカばっかだったもん。

 

 あんな組織じゃ、カスミも苦労したと思うよ?あの娘、いきなり幹部にさせられて、ドエロい衣装着せられて。まあ、笑えたけどね。

 結局壊滅させちゃったけどさ、あいつら何がしたかったんだろーね?爪だか瓜だか知らないけど。


 お陰でこっちの存在意義もなくなっちゃって、解散になっちゃった。なんかアレだね、真理?ってやつだね。

 悪の組織がいなかったら、正義の組織も必要ないんだよ。


 まあ、退職金それなりに出たからさ、今こうしてだらけた生活ができてる訳だけど。


 


 やけに外が明るいと思ったら、もう昼過ぎか。うーん、シャワーでも浴びるかな。いつまでもTシャツにパンツいっちょじゃまずいよね。

 思い立ったらもう、その場で全部脱いじゃって、真っ裸で浴室向かうのは悪い癖だなぁ。どうせ誰に見られる訳でもないしね。こんな自堕落な生活してる割には、案外まだ身体のライン崩れてないんだよね。鏡を見るたび、そう思う。こんなエロい身体してんのに、周りにロクな男がいないのはホント不幸過ぎる。戦隊の頃なんてさ、レッドは格闘バカだし、ブルーはヤリチンだし、イエローとグリーンに至っては、ガチホモだったもんね。






 寝覚めのシャワーは気持ちいいな。


 多少アルコール残った状態でさ、シャワー浴びてると、なんかエロい気分になるのはあたしだけかな?ボディシャンプーで身体洗ってると、チ○ビがツンツンしてくるんだよね。欲情しちゃってるのかなぁ?浴場だけに。うわぁオヤジじゃないんだから。


「……………」


 はっ、ヤバいヤバい、無心でおっぱい揉んでたよ。ってまあいいか、減るもんじゃないしね。よし、どうせなら集中して揉もう。


 モミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミ……  


『……おい』

  

 はぁぅん?誰か何か言った?モミモミモミモミ……


『いつまで揉んでる?』


 なんだろ?幻覚?いや幻聴かなモミモミモミモミ……


『いい加減止めろ』


 いや、今いいとこ…だからね、もう…ちょっと…後に…して…モミモミモミモミ……


「うぐっ」

 いやいやいや、イッた訳じゃないよ?なんか突然アゴに衝撃食らって、目の前が一瞬真っ暗になった。何が起こったんだろ?つか、もうちょいだったのにぃ。

 ふと鏡見て、唖然としてしまう。思わず目玉が飛び出そうになった。


「お、お、おっぱい垂れてるやん⁉」


 えらいこっちゃ、あんなに形のよかったおっぱいが、びょ〜んと垂れてるやん?しかも、右側だけ。


 と、その垂れてたおっぱいが、突然重力に逆らうようにぐりんと上向きになった。なに、このシュールな状況。今、あたしの目の前にチクビがあるんだけど?ちよっと口を突き出せば、自分のチクビが吸えそうなんだけど?吸っていいの?いや、良くないわっ!


『我は貴様のおっぱいである』


「はあ?」

 なんかチクビが喋ってるよ。よく見ると、チクビの先っぽが口みたいに割れてるし。


『我、今目覚めたり』


 いや、目覚めなくていいよ。なんなの?バカなの?


「アンタなんなの?」

 

『我は貴様のおっぱいである』


「それさっきの聞いたよ。妖怪かなんか?」


『用はある』


  ちげーよ、用かい?とか聞いてねーよ。バカか?こいつ。

 ってか、さっきイキそーな時にアッパーかましてくれやがったのはこいつか。


「ちょっとアンタ、何してくれてんのよ?もうちょいでイケそーだったのに」


『うん?行くとは何処にだ?』


 うわぁ、ベタなボケかましてきやがったな。


「オーガズムだよ」


『有機栽培か?』


「オーガニックじゃねーわ。茄子とか入れんのかよ?」

 み○すり半劇場か?

 ってか、なんでアタシ自分のおっぱいと喧嘩してんの?


「だいたいアンタなんで喋ってんのよ?」


『チクビでだ』


「そのチクビがなんで喋ってんだって聞いてんの!普通のチクビは喋んないよ?」


『知らん。さっき目覚めたばかりだ』


 目覚めんなよ。ずっと寝てろよ。


「で?何がしたい訳?」


『この世界の覇権を取れと、本能が訴えている』


 覇権だあ?おっぱいが?なんちゅう無謀なおっぱいだよ。派遣すらムリだろ?


「世界征服でもしようっての?」    


『セーラー服に興味などない』    


「おっぱいの分際で細かくボケんなよ。その制服じゃねーわ」


 まじ、自分のおっぱいじゃなきゃぶん殴ってるトコなんだけど。


『貴様は我と一心同体。こんな所で堕落している場合ではない』


 同体だけど一心じゃないじゃん?おっぱいが本体に説教すんなっつーの。


「貴様って呼ばないでよ。なんでおっぱいが上からなんだよ」


『ならなんと呼べばよい?』


「モモ香でいいよ。おっぱいに呼び捨てにされんのもしゃくだけど」


『よし、モモ香よ。我の呼び名も決めてくれ』


「ホント、偉そうだな。なら、ビーチくんで」


『ほう、なんか爽やかだな?』


「そーでもないよ。ビーチクだし」


『よし、名前が決まった所で作戦会議だ』


「世界征服の?だからやらないってば。だいだいあたし、正義の味方側だっんだよ?それがなんで悪の組織に落ちぶれなきゃいけないのさ?」


『それが、運命さだめだ』


「都合良くまとめないでよ。せめてメリットでも提示しなさいよ?」


『報酬的なアレか?この身体をある程度イジれるぞ?』


「なにそれ?怖いんだけど。どこを……あっあぁうっ⁉」


 いきなり子宮の奥がずんっときた。背筋に電気が走るよーな、凝縮された超快感に襲われる。思わずヘナヘナと風呂場の床にしゃがみ込んでしまった。


『どうだ?気持ち良いだろう?この程度なら簡単に、いででででてっ』

 思いっきりチクビをひねってやった。あたし自身も痛いけど。


「こーゆーの求めてないから。二度とやるなよ?」


『お、お前、さっき自分でやってたじゃないか?』


「オナニーとレイプは違うんだよ!勝手にイカすな!」


『むう、良くわからんヤツだな。ならよし、そうだ。アルコールを取ってみろ?』


「酒?ふうん?」

 ザッと体を拭いて、スッポンポンのまま、風呂場から出た。冷蔵庫からビールを取り出し、一口飲む。


「⁉」

 何コレ?めちゃくちゃ美味い。顔がぽっと火照ってくる。え?ビール一口しか飲んでないのに?


『味覚とアルコール摂取度合いを少し変えてやった。どうだ、美味かろう?

すぐ酔えるようにも設定してある』


「確かに……。これ、ハマリそう」


『どうだ、協力する気になったか?』


 うーん、確かにやっすい酒が美味くなって、少しで酔えるってのは魅力だよなぁ、呑むしか楽しみが無い身としては。って言ってて悲しくなるけど。


「んじゃあ、お試しって事で、ちよっとだけ協力してやってもいいよ?」


『……なんか言い方が気に入らんが、まあいいだろう』


「で、まず何すんのさ?」


『手駒が欲しい。誰か適当なヤツいないか?』


 手下かあ。すぐ思い当たるのは昔の仲間だけどさ。

 レッドは正義感強いから無理だな。ブルーは色仕掛けでイケそうだけど、コッチが嫌だし、あんなヤリチン。イエローはガチホモ過ぎて生理的にムリ、マジムリ。グリーンもゲイだけど、役者やり始めて忙しいらしいし。


 だいだい皆、ちよっと前までヒーローやってたのに、こんなバカな事に付き合うとは思えないしなぁ。


 あ、そ~言えば、悪の女幹部やってたうってつけのヤツがいるじゃん?面倒見良すぎて、押しに弱くて、強引に頼んだら断われないヤツが。


「丁度いい人材いるからさ、今から呼ぼうか?」


『うむ、頼む』


 やっばエラソーだな、コイツ。


「アンタさあ、ちゃんと普通のおっぱいに戻りなさいよ?あと、勝手に出てこない事」


『心配せずとも、普段は普通のおっぱいだ。出てくる時は一応、断りを入れよう』


「一応ね。まあ、いいけど」

 

 あたしはゴミの山を掻き分けてスマホを探し出し、カスミにかけた。






「あ、カスミ?ヤバいんだけど。なんか、今おっぱいが喋ってんだよね」







   【水希ver】





 えーっと、今3時くらいかなぁ?

 結局学校には戻らずに、このまま帰る事にしたよ。賢者タイムは過ぎたけどさ、今男に戻ったって、帰ったらまた女に戻らないと、ねぇちゃんがうるさいもんね。そう何度も変態してたら、身体がもたないよ。


「水希くん水希くん」


 ポコさん(仮)が胸の谷間から顔を出してきた。ってかそこ、いつの間に君の居場所になったの?


「なに?」


「さっきから付けられてますよ?」


「えっ、ホントww」


「なに嬉しそーにしてるんです?」


「だって、マンガみたいなシチュエーションじゃん?MIBかな?」


「流石にそれは早いでしょ?似てますけどね」


 僕は道路の端っこに立ち止まり、カバンの中を何か探すふりをしながらチラッと見た。

 ホントだ。黒服に真っ黒サングラスのいかにもな二人が明らかにキョドってる。


「MIBにしては安っぽいなぁ。もろ日本人だしさ。帝愛の人じゃないの?ざわざわ言ってそーな雰囲気だし」


「キンキンに冷えてる人ですか?」


「うん、冷えてるのはビールだけどね」


 明らかに僕をつけてるよね。うーん、どうしてやろうww


「水希くん、悪巧みしてる時の顔、葉月さんにそっくりですよ?」


 え、そーなの?













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