第5話 大危険突乳



「うおおおおお、親方ーっ!天使が空から落ちてきたーっ!!」


 そう言いながら、金髪モヒカンのバカは、文字通りの馬鹿力を発揮して、僕をお姫様抱っこしながら、屋上中を走り回った。

 落ち着けよ、このバカ。つかこの人、あんまり体力ない不良なハズなんだけどね。

 って思ってたら案の定、僕を下ろしてぜーぜー、肩で息してるわ。いったい、何がしたいんだろ?この人。


 うわっ、いきなり両肩がっちり掴まれたよ。顔をぐっと覗きこまれる。


「んん!?葉月さん??」 

 

 何かキタロー君が目を白黒させてるんだけど。僕とねえちゃんと間違えてる?確かに姉弟なんだから面影はあるはずだけど。


「いや、違うっ、あの人はもっとこう、目付き悪いし、髪も癖っ毛だし、胸もこんなにないし、尻ももっとでかいし、恐ろしいオーラ出してるし……」


 おいおい、どさくさに紛れてめっちゃねえちゃんディスってるけど、後で知られたらぶん殴られるよ?


「しかしっ似てんなっ?おめーもしかして葉月さんの親戚かなんかか?おっぱいパねぇな」


「あ、えーっと、僕、葉月ねぇちゃんの母親の旦那の奥さんの娘です」


 グルッと回っただけで、結局葉月ねぇちゃんの妹って言ってるんだけど、この人だったら誤魔化せるよね?


「そーか、やっぱ葉月さんの親戚か、パねぇな、おっぱい」

 ほらね、単純な頭で助かったよ。


「そのジャージ、二年か?おっぱいぱねぇな」

 ウチの学校、ジャージは学年ごとに色分けしてるんだよね。二年は赤ジャージなんだ。

 つか、どんだけおっぱい見てんだよ?

 パねぇ、パねぇうるせーわ。


「あ、いえ。見学です」

 何かズレた返事しちゃったけど、ホントの組は言えないもんなぁ。まずいな~、ボロが出ないウチに退散しないと。


「あの、僕もう行かなきゃ」

 キタロー君の手をスルリとすり抜けて、入口へ向かう。


「ちょ、待てよ?」

 待たねーよ。某木村さんみたく言うなよ。似てもよ。


 僕は屋上入口のドアから中に入ろうとして、そのまま固まった。階段の踊場辺りに中八木と大窪がいるじゃん!?

 うわー、中も入れないよ。絶対絶命のピーンチ!これじゃ、前門の狼、肛門のマラだよ。ん?なんか違うな。


「水希君、あっちの建物に逃げましょう」

 ポコさん(仮)がまた胸の谷間から顔出して、新館の方を指差した。

 確かに新館へは渡り廊下で繋がってるけど、それ一階下だからかなり高さあるよ?


「だいじょーぶ、任せて下さい」  

 ええ、マジで?めっちゃ怖いんだけど。

 でもちょっと面白そーだからやっちゃおう。

 

 僕は渡り廊下の方向に走り出した。そのままスピード落とさず、加速していく。


「おおぃ、おま、あぶねーぞ!?」


 後ろからキタロー君の声がしたけど、そのままスルーして、屋上の柵を飛び超える。

 超える瞬間、ポコさん(仮)が僕の右手首と屋上の柵を自分の体で繋いだ。僕は空中で身をひねり、後ろ向きに渡り廊下へと落ちていく。くんっと手首に巻き付いたポコさん(仮)が、バンジージャンプのゴムのようにぼよ~んと伸び、落下速度を緩めてくれた。

 僕はふわりと渡り廊下に着地する。伸びたポコさん(仮)も、僕の手首にもどってきた。

 

「無茶したなぁ、ポコさん(仮)。麦わらの人みたいじゃんww」


「ワタシが被るのは麦わらじゃなくて、ゴムゴムのうすうすですけどね」


 生々しいよ。セクハラ親父かっつーの。


 僕らはそのまま新館に走り込んだ。

 ここは確か、図書室とかあったハズ。

 あ、あった。鍵も掛かってない、ラッキー。


 図書室の引き戸をそっと開けた。

 そんなに広くはない部屋に本棚が何列か並び、入口付近にカウンターがあった。


 誰もいないと思ったけど、カウンターに一人だけ、女の子がいる。図書委員かな?昼休みにも本の貸し出しとかの業務やってるみたいだ。


「えーと、入っていい?」

 僕はとりあえずカウンターの女の子に声を掛けた。

 女の子がこっちを向いてうなずく。


「お邪魔します」

 図書室の中は僕と図書委員の彼女だけで、めちゃくちゃ静まりかえってた。マンガだったら、しーんって擬音が聞こえてきそうだよ。


 彼女は僕を一度チラッと見ただけで、後はずっと本を読んでる。


 あれ?この子どっかで見たことあるな?


 肩まで伸びた艶やかな黒髪に、切れ長の目、ぷっくりとした唇、スタイルもかなり良さそうなんだけど、どこか近寄り難い雰囲気をかもしだしてる美少女。


 あぁ、この子、同じクラスのミステリアス美少女の、小野さんだよ。クラスの中じゃほとんど目立たないし、誰かと喋ってるとか見た事ないんだよね。いつも1人で本読んでる感じ。それは皆からハブられてるんじゃなくて、近寄り難い雰囲気で、孤高の人って思われてる感じなんだよね。だから、ミステリアス美少女って呼ばれたりしてるんだよ。もちろん、僕も話した事ないんだよね。


 この子、昼休みいつも居ないなって思ってたら、こんなトコにいたんだ? 

 まあ、図書委員には違いないんだろーけどさ。


 とか考えてたら、廊下からバタバタ足音が聞こえた。あちゃー、なんか聞こえてくる声、大窪と中八木だよ?

 どっか隠れるトコないかキョロキョロしてたら、小野さんと目があった。


「ごめん、かくまってくんないかな?」

 僕がそう言うと、小野さんはちょっと困った顔をして、無言でカウンターを指差した。こん中入れって事かな?僕はグルッと回り込んでカウンター内の小野さんのすぐ横に身体を潜ませた。ここなら表からは全く見えない。でも、小野さんの生足がめっちゃ近いな。そのスベスベな艶っぽさに僕はドキリとしてしまう。


 ほぼ、隠れたと同時くらいに引戸が開き、誰かが入ってくる気配がした。


「あれ?小野さん図書委員だったの?」

 この声は大窪だな。小野さんがこくんとうなずいてるのが下から見えた。


「あのさ、ジャージの可愛い女の子が来なかった?」

 

       「誰もこなかったよ」

 消えそうな小声で小野さんが返事した。声も凄く可愛いんだね、小野さんって。


「そっかぁ」

 小野さんの雰囲気に、大窪もそれ以上踏み込めないような感じだ。


「中もいないよ」

 大窪が小野さんと話てる間に、中八木がぐるっと確認したみたいだ。


「ごめん、邪魔したね」

 二人はそう言って出て行った。


「ふう、ありがとう、小野さん」

 と、僕が言うと小野さんは可愛く首を傾げた。


「……貴女に名前言ったっけ?」

 

「あ、いや、さっきのヤツが呼んでたじゃん」


「あぁ、そうね」

  ってか小野さん、普通の音量出せるじゃない。


 取り敢えず、狭いカウンターから出よう、って思ったら何故か体が動かない。え?なんで?


 その時、また廊下を慌ただしく走る足音がしたかと思うと、入口がガラッと開いた。


「確かコッチに来たよーな、げえっ」

 

 うわ、今度はキタロー君かよ。何故か、えづいてすぐまた閉めちゃったけど。

 たぶん、アレだね。あの人、活字が苦手だから、本が並んでるの見ただけで頭痛くなるんだよ。前にそう言ってたもん。だから、ここにいればあの人、入って来れないから暫くは安心だね。天然の結界みたいなもんだよ。


 それはいいとして、体に力が入らないのは何でだろう?


『変態にエネルギー相当使いますからねぇ。今日2回目でしよ?その上、走り回ったし』

 と、ポコさん(仮)がこっそり教えてくれた。つまり、お腹減って動けないって事か。そう自覚したとたん、お腹がぐぅ〜っと鳴った。

 まいったな、パンはもう売り切れちゃってるだろーし。


 すると小野さんが何やらカバンから出してきて、僕の前のカウンターに置いた。

 なんとかカウンターの下から出て椅子に座って見たら、それは小さなお弁当箱だった。


「食べる?」 

 小野さんは小さくそれだけ言う。

 

「いいの?」

 可愛らしい包みを開け、蓋を取ると、いかにも手作りな、美味しそうな弁当が出てきた。うわっ、めっちゃ食べたいけど、これ小野さんのお昼ご飯だしなぁ。


「じゃあ、ちょっとだけもらっていい?」

 遠慮しながら聞くと、小野さんは箸を取り出して卵焼きをつまみ、そのまま僕の口元にもってきた。えぇ、結構大胆なんだなぁ。まぁ僕は今女の子だけどさ。


「いただきます」 

 パクっと食べる。うん、すごくうんまい。


「これ小野さんが作ったの?」


「そうだよ」

 小野さんは同じ箸で自分も食べながら、唐揚げやらおにぎりやら、僕の口に放り込んでくる。これ完全に間接キッスだけどいいのかなぁ?女の子同士ってこんなもんなの?なんかペットにエサあげてるよーな気もしないでもないけど。


「小野さんって料理上手だね」

 わりと絶え間なくおかず放り込んでくる間をぬって、なんとか喋る。


「そう?ありがと」

 ニコッと笑う小野さん。うわっズキュンときたよ。小野さんの笑顔初めて見たかも。こんなに魅力的に笑うんだね。




 二人で食べたから、お弁当あっという間になくなっちゃったよ。僕、半分以上食べちゃったけどよかったのかなぁ?  


「ご馳走さま。すんげー美味しかったよ。でも僕かなり食べちゃって、小野さんは良かったの?」


「わたし、そんなに食べないから。作るのは好きだから、作り過ぎちゃうんだ」


 そう言って小野さんは水筒を差しだしてくる。でも、この水筒、直飲みタイプだよ?


「いいの?」

 そう聞くと小野さんは、まず自分が直接飲み、


「貴女は気にするの?」

 って言って、また差し出してきた。

 いや、さっきも同じ箸で食べたし、僕は全然気にしないんだけど、小野さんってなんか不思議な人だなぁ。


 僕が水筒受け取って直飲みすると、小野さんがじっと見てる。ちょっと恥ずかしいんだけど。


「貴女、自分の事、僕って呼ぶのね?」

 

「え、あ、うん。おかしい?」

 あー、いつもの調子で喋っちゃったけど、まずかったかなぁ?


「いいえ、すごく可愛らしいし、似合ってるわ」

 と言って、笑顔を見せる小野さん。なんだろう?妖艶な香りがする。つか、ぶっちゃけ、エロい。


 ん?


 なんか、胸の辺りがもぞもぞする。



『ってか、ポコさん(仮)なにしてんの?』


 横向いて胸元にこそっとささやいた。


『すいません、でっかくなっちゃいました』


 マギ○真司の耳みたいに言うなよ。おっぱいの谷間の異物感がパないわ。


『彼女、エロいですねぇ。なんかちょっと普通じゃないですよ?』


 だよね?僕もそんな気がビンビンする。やっぱりミステリアス美少女ってのはあってたんだね。いったい何者なんだろ?


「ねぇ、どうかした?水希くん?」


「あ、いや、なんでもないよ」

 って咄嗟に答えたけど……


……ん?



 



僕が呆然と振り向くと小野さんは薄く笑った。白い歯が眩しい。 


「カマ掛けてみたんだけど。やっぱり貴女、水希くんだったのね」 


 やられたーっ!まずいよ。


 ってか、この人なんなん?















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る