第41話 宝石少女恋愛シリーズ


 相談相手を探すために屋敷内を彷徨いているとクルミさんが現れた。


「私に恋愛相談かい? 乗ってあげようじゃないか」

「結構です」


 クルミさんを無視して車イスで真横を通過すると、いきなりクルミさんがわたしを抱き上げた。


「まあ、待とうじゃないか。これでも私の意見は参考になるぞ?」

「…………」


 とりあえず聞くだけ聞くことにした。

 するとクルミさんはわたしを連れて自分の部屋に入り、わたしをベッドの上に座らせた。


「フェノンくんは吊り橋効果というのを知ってるかい?」

「怖い時にしがみついて恋しちゃうやつでしょ?」

「大体あってるが……まあいいだろう」


 わたしは首を傾げた。

 けどそれって女の子にしか効かないやつじゃないの? 男に効くの?


「本当は怖いのにドキドキしてるけど、近くにいる人にドキドキしてると勘違いすることだな。男女ともに効果があることは既に証明されている。これを使うのだよ」


 わたしは吊り橋効果とやらを完璧に理解したので、クルミさんの話に続けて話す。


「ってことはさっきのナタリーみたいに包丁を突きつければそのドキドキが恋愛に代わると……」

「それをやったら君の恋はそこで終わりだ」

「デスヨネー」


 ナタリーダメダメじゃん。何が「もっと攻めるべきです!」だ。包丁なんて突きつけて良いと思ってるの?


「そこで私の考えた作戦はこうだ」


 2日目の夜は王城で肝試し大会が行われる予定がある。周囲の人間たちの中に彼と組む人は居ないのでわたしと二人きりになる。

 この時に敢えてわたしが車イスを使わないことで彼にしがみつくことができる。あとは彼が怯えてくれれば出来上がり。とのこと。

 これは採用したいのだが、わたしにそんな誘う勇気はない!! というかむしろそんな勇気がある人が知りたい!!


「誘うことぐらい任せたまえ。3人で行こうと誘ったあとで私が逃げればいいのさ」

「じゃあ、お願いします……」

「ところでフェノンくん、このクラスのホモ率は随分高いな」


 わたしは無言で車イスに乗ってそのまま部屋を出て扉を閉めた。

 クルミさんもああいう所が無ければ頼りがいもあって助かるのに……

 廊下を再びさ迷うと今度は美紀ちゃんが通り過ぎて行ったのを見かけたので、わたしは美紀ちゃんを追いかけて袖を掴んだ。


「フェノンさん? どうしました?」

「少し相談が……」


 わたしは美紀ちゃんに連れられて美紀ちゃんの部屋に入った。

 さすがは副担任。部屋の扱い方が生徒とはレベルが違ってかなりワイルドだ。踏み込む隙もない。これは侵入者対策なのだろう。


「ご、ごめんなさい。こんなに散らかして……」

「いえ大丈夫です。あの、先生は恋愛とかどうしてるんですか……?」


 その言葉をわたしが放つと美紀ちゃんの動きがおかしくなった。

 そしてポロポロと涙が溢れてきた。


「なんで……なんでなのよぉーー!!! 私だってちゃんと努力して合コン頑張ったのにぃーー!!!」


 美紀ちゃんはいきなり酒に酔ったみたいに涙を流してわたしに今までの合コン歴や男性歴を全て吐き出した。

 この人に相談するのは合ってたのか間違ってたのか、わたしにはわからない。

 わたしは美紀ちゃんを慰めて泣き止むのを待った。


「ねえどうして私じゃダメなの!? 教えてよ!!」

「部屋が汚いからじゃないですか? 脱いだ服だってその辺に散らばってますし、完全に部屋が汚いせいですよ」


 美紀ちゃんは子どもっぽい所が少しあるけど、身長的に見れば別に一部の層に人気があるはず。

 オマケに性格も優しくて親しみやすい。生徒たちからの人気も絶大だし、他のことも最低限は出来る。つまり部屋が汚いのが原因だと思う。

 既にこの部屋だけで足場が消えるぐらいなのだから美紀ちゃんの家はわたしたちの想像を絶するものなのだろう。


「……そうよね。部屋が汚いのね」


 この先生浮き沈みが激しいけど何か危ない薬品に手を染めてないよね?


「ごめんね。それで恋愛相談だよね」


 美紀ちゃんの恋愛相談は「気持ちが1番。思った通りに伝えるのが1番良いよ」という模範的かつ道徳的なものだった。

 わたしとしてはどうしたら彼がわたしを押し倒……ダメ。考えるだけで勝手に妄想しちゃう。


「合コン失敗女にはこれしか言えない……ごめんね。フェノンさん……」

「あ、ありがとうございました」


 わたしは美紀ちゃんの部屋を出た。

 するとクルミさんが何か写真を持ってきた。


「フェノンくんとフェノンくんのお父さんの写真だ見比べてみたまえ」


 クルミさんから写真を受けとって、写真を見るとそこにはわたしとお母様のツーショットとお父様とお母様と『その他多くの女性』が写っている写真があった。

 そしてそこに映ったお父様を見てわたしはクルミさんをジッと見つめた。


「こんなお父様からここまで可愛いフェノンくんが生まれるとはな。まるで月と脱糞だ」

「正確には脱糞と脱糞ですけどね」


 なぜわたしが両方とも脱糞だと言い切れるかというとその写真に写ってるお父様はどうみてもだったからだ。


「それで真実を知ったフェノンくんはどう思った?」

「どうって……」


 確かに親友という枠はTSモノの創作物では重宝される。

 しかし、現実はどうだ。

 親友はわたしよりも先に異世界転移して特典のチート能力でお母様やその他多くの可愛い女性をはべらせてハーレムを形成してるだけでなく、ヒト族なのにも関わらず魔王になって魔族たちを率いるリーダーとなっている。

 さらに言えばわたしのお父様でもある。

 わたしはコレを親友と呼んでいいのだろうか?


「親友とは呼べないかもしれないけど、家族と言えればそれでいいよ……」


 わたしは写真を見て少し笑っていた。

 いつかわたしもお母様やお父様、……アストとこうしてみんなで写真を撮ってみたい。


「フェノンくん、その夢が叶うには早く10歳にならないとな?」

「はうっ!? き、聞こえてました……?」


 わたしは顔を徐々に赤く染めながら恐る恐るクルミさんに聞いた。


「うむ、聞こえてたぞ。うっかり声に出さないように気を付けるのだな」

「んい……」


 いくら異世界だとはいえ、一応結婚するにはそれなりの年齢に達してなければならない。

 ちなみにこの国は10歳という規定がある。

 しかし、この世界の成人の年齢は15歳とされている。15歳未満で結婚する女性はそれなりの覚悟を持って結婚しろという意味を込めて結婚式の際には非常にきわどいウェディングドレスを着て結婚式をするらしい。

 実際に服を見たことはないけど、クルミさん曰く超ヤバいらしい。

 逆に興味を持ってしまう。そんなに際どいというのならリアに着せてみたいと思った━━━━




「お前人間じゃねぇぇ!!!」


 着せてみました。めっちゃエロい。

 背中は殆ど開いていて、おへそのライン丸見えだし、スカートも凄い短い。肩は全部露出していて、胸元にはハートの形の小さな穴があって、もういろいろとヤバい。

 こんなの即逮捕レベルである。


「お前も着ろぉぉぉ!!!」


 いきなり屋敷に呼び出されるなりナタリーたちに捕まって強制的に着替えさせられたリアが何か言っているが、わたしは着ない。


「着たらお嫁に行くの遅れちゃうからイヤ」

「そうですよリア様。フェノン様の嫁入りが遅れるのは大変なことなんですから辞めてください」

「あんな男らしいリアもお嫁に行っちゃうんだね~。子どもの成長が身に染みるよぉ~」


 わたしとナタリーはウェディングドレスを拒否し、ツバキさんはもうお嫁に行く娘を見送る感じで泣いてた。


「母さんまでやめろ!!」

「あのリアちゃんがお嫁に行くなんて……」

「エマさんまで!?」


 その後、リアはたまたま部屋の前を通りすがったクルミさんに捕獲され、クラスメイトたちに晒されていった。


「あの、ツバキさん……」

「どうしたの~?」


 せっかくなのでツバキさんにも恋愛相談してみることにした。

 というか他の人たちに相談したことがバカみたいに感じた。

 だってナイフと水着と肝試しに心だよ!? おかしくない!?


「フェノン、お母さんはやっぱり合コンが」

「おかあさまの意見はどうでもいいので黙っててください」


 わたしにはお母様が少し興奮してるように見えた。

 ツバキさんもお母様を見て笑うと、わたしと目を合わせるようにしゃがんで話した。


「フェノンちゃんはもっと自分に素直になるべきだよ~? アストくんに良い所だけ見せてるようじゃダメなんだよ~。ギャップ萌えって知ってる~?」


 わたしはギャップ萌えに関してはよくわからないので首を横に振った。


「男の子はね~? 女の子がダメだと思ってる所が逆にかわいいって思っちゃうんだよ~。それにありのままの自分を見せてればフェノンちゃん、結構可愛いからアストくんの方から告白してくれるよ~?」


 わたしはアストが夕焼けで誰も居ない見晴らしの良い場所で告白してくる妄想をして顔が赤くなり、両手で顔を覆った。


「そうかな……?」

「そうだよ~だから自信持って普段通りにしてれば大丈夫だよ~」

「うん、ありがとうございます! わたし頑張ってみます!」


 わたしはお礼を言って自分の部屋へと戻った。

 でも何もしないのも良くない気がする。今のわたしにもできること……部屋の中でできること━━━━


「あい……? あい! あい! ふあい!」


 1人で『はい』という返事が上手くできるように練習するわたし。その様子を扉に耳を押し当てて、盗み聞きしているメイドが一人。


「(フェノン様、必死に練習してるようですけど、誰も居ない部屋でそんなことやってたら頭のおかしい人に見えますよ……)」


 わたしが外にいるナタリーに気づいたのは入浴の時間を呼びに来るのが遅いと思って部屋の扉を開けた時だった。


「居るなら居るって言ってよぉ……」

「可愛かったので大丈夫ですよフェノン様!」


 顔を真っ赤に染めながら両手で顔を覆いその場に座り込んでいるわたしと、ひたすらわたしを褒め続けるナタリー。

 結局わたしがその場から動かなかったためナタリーがわたしをお風呂場まで誘拐していったのだった。

 明後日からはいよいよ2泊3日の校外学習。何か進展があることを必死に願って寝た。



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