第20話 恥ずかしい娘、フェノンちゃん


 あれから数日後、領主からの許可が降りたので、制服を作るための生地を選びに仕立て屋さんに来ていた。

 とりあえず今日は生地を選んで、わたしの制服を頼むことにした。わたしには生地なんてあまりわからないので、クルミさんにも一緒に来てもらった。クルミさんとリアはあまり会わせたくないので、代わりに屋敷からナタリーを連れて来た。


「本当にメイドがいるとは……」

「はい、ナタリーと申します。クルミさん、今日はよろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしく頼む」


 ナタリーとクルミさんは挨拶を済ませて仕立て屋さんに入る。休日なのにも関わらず、人はそんなに居なかった。


「そういえばナタリーさんは『はい』と言えるのだな」

「く、クルミさん!」


 わたしは若干顔を赤くしながら、クルミさんの袖を掴む。


「はい、言えますよ? 言えない恥ずかしい娘はフェノン様だけです」

「っ!?」


 ナタリーからの不意打ちを受けたわたしはその場で泣き崩れた。するとナタリーはわたしを抱き上げ、頭を撫でてくる。


「泣いてはいけませんよ。フェノン様は学園のトップなんですから」

「うん……」

「こんな感じにすれば大抵理解して泣き止んでくれますのでぜひ参考にしてください」

「うむ、わかった」


 わたしはナタリーに冷たい目線を送って睨む。けど、いまのわたしは涙目なので、ナタリーとクルミさんはかわいらしいものを見たレベルでニヤニヤとしているだけだった。


「この生地でしたらスカートになりそうですね。ちょうど白いので、いいかもしれませんよ?」

「わたしはわかんないからナタリーたちで選んでくれない?」

「真っ白いスカートでは見栄えしないだろ。スカートの下の方に細い黒い線を入れて見てはどうだ?」

「それもいいかもね」


 それから制服のデザインも少し足すことを考えて、再び生地を選んだ。

 そして、店員さんに持っていくとサイズを測ることになったのだが……


「フェノン様、私が測ってあげますので早く全部脱いでください」


 ナタリーが元生徒会長アイツが言ってたことと同じようなこと言ってて若干引いた。


「制服が作れないんですから早くしてください」


 ナタリーが試着室に入ってきてカーテンを閉めるとわたしの袴をあっという間に脱がしていく。

 そしてパンツ1枚となったわたしはメジャーを巻かれてサイズを測られた。


「フェノン様、終わりましたよ。では伝えて来ますので、先に外に行っててください」

「うん、わかった」


 残りはナタリーに任せてクルミさんとお店の外で待つ。


「あそこの喫茶店で何か食べていかないか?」


 クルミさんが指さしたのは街にある普通の喫茶店だった。わたしも喫茶店には行ったことがなかったので、ちょっと興味がある。


「うん、いいですよ」

「返事は『うん』ではなくて『はい』だ」

「あい」

「プッ!」


 前回無反応だった癖にいきなり吹き出したクルミさん。「はい」と上手く言えなかったわたしは耳まで真っ赤になっている。


「すまんすまん。よーしよしよしよし」


 先ほどナタリーに入れ知恵された通りにわたしを抱き上げて頭を撫でてくるクルミさん。少しばかり気持ちいい。


「べ、別に撫でればいいというわけじゃありませんから!」

「そんな嬉しそうな顔されながら言われても説得力に欠けるのだが……」


 そんなやり取りをしているとなんだか満足そうな顔をしたナタリーがお店から出てきた。


「ナタリー? どうしたの?」

「いえ? なんでもありませんよ?」


 ナタリーの顔が凄いニヤけていて、むしろなんでもないという方が難しかった。

 話を聞こうとしたらクルミさんが喫茶店に行こうと言い出したので、とりあえず喫茶店に入った。


「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」


 さりげない笑顔で接客する店員さん。その服装は何故かバニーガールだった。

 するとナタリーがわたしの目を両手で覆ってふさいできた。クルミさんはわたしを抱っこしていたけど、何故か片手でわたしの顔を自分の胸に埋めようとしてきた。


「ここはやめましょう」

「そうだな」


 そして何故かそのまま退店して、別の喫茶店に入った。


「フェノン様、ああいうお店には入ってはいけませんからね?」

「うん? うん……」


 喫茶店のティーセットで満足したところで夕方になったので、ナタリーと別れてクルミさんと学園に戻った。

 何故かクルミさんはずっとわたしを抱っこしていて離してくれない。


「あの、そろそろおろしてください……」

「ダメだ。フェノンくんは羞恥という感情に弱すぎる。そんなフェノンくんがとてもかわいいから生徒会長は実は甘えん坊だということを全校生徒に布教する」

「え"っ!? あの、ちょっとやめてください。冗談ですよね? ちょっとおろしてください! だめ! 早くおろしてぇ! みんな見てるから!! おろしてぇぇぇぇ!!!」


 クルミさんはそれでも最後までおろしてくれなかった。

 生徒会室には都合よく誰も居なかったので、いつも作業してるデスクの下でしくしくと泣いた。


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