第19話 生徒会長のお仕事


 クルミさんと会った翌日、さっそくわたしは生徒会長の仕事を押し付けられた。


 そして、わたしは先生に渡された書類に目を通す。というか予算少なっ。こんな低賃金でどうやれと? 宝石作って売るなんてそんな危険犯したくないよ?

 とりあえず図書館のテーブルが壊れたというのと、男子寮の一部の部屋の扉の修復は優先かな? 割れた窓ガラスはダンボールか何かでふさいでもらうとしよう。


 わたしは生徒会室で着々と必要なことと不必要なことを別けていく。授業をサボって。というか授業はテストが出来れば何も言われないので、問題ない。授業内容なんて全部ナタリーが4歳ぐらいの時に教えてくれたから。

 これが英才教育というやつか……!


「学園新聞って無駄遣いもいいところだよ……」


 学園新聞というものの過去資料を見てみると領主様の息子サイコー! という内容しかなかった。どうみてもゴミ。こんなので予算の半分とか使われてたらマジで終わる。なに呑気にカラー写真なんて貼ってんの? こっちにはそんな金ないんだよ?


「身分差別が酷過ぎる……」


 生徒会長の過去の資料と一般人の副会長が纏めた資料を見てみるとその差は一目瞭然。お金持ちの奴らが揉み消して、関係ない一般人に罪を擦り付けてる。反対に一般人の問題に関してはより大きく事が書かれている。

 所詮は領主の息子というわけね……こうなると領主の方からも何かありそう。「なんでウチの息子が生徒会長じゃないんだ!!」とか言ってお金減らされそう。


「差別を無くすにはどうしたら……」


 わたしは頭を抱えて悩む。こちらはシンプルにお金がない。お金を掛けずに一般人との差別を無くす方法を考えなければ……!

 とりあえず全校生徒が130人ぐらい。そのうちの金持ち軍団は13人……


「やっぱりわたし1人じゃ纏まらない……なんで副会長も会計も居ないの!?」


 副会長は居るにはいるが、冒険者なので昼間は出稼ぎに行ってるので基本的に居ない。会計はそもそも存在しない。広報はあるけど、そもそも新聞を発行する気はないので、要らない。


「クルミさんなら何か知ってるかな?」


 あの人確か地球では生徒会をやってたはず。もしかしたら何か情報が手に入るかもしれない。

 わたしはそう考え、クルミさんのいる図書館へと向かった。


「わぁ……!」


 思ってたよりも大きく、たくさんの本が並んでいて声が漏れる。

 少し探すとクルミさんは半分壊れたテーブルで本を読んでいた。


「あ、あのクルミさん……」

「フェノンくんか。昨日の話だな? まあ、座りたまえ」

「う、うん……」


 クルミさんが膝をポンポンと叩いて待っているので、クルミさんの膝の上にちょこんと座った。


「私は数日前にこの世界とは違う世界から来たのだよ」


 クルミさんはここに来るまでの経緯を前世のわたしが脱糞した話も含めて全て話した。幸い、わたしはクルミさんに背を向けていたので、涙目になっていることに気づかれなかった。


 どうやらクルミさんは他のクラスメイトたちと一緒にわたしのお漏らしを境目にこの世界に転移してしまったらしい。

 そしてリアとわたしを除いた全員が王城に転移させられ、勇者様とか言われてたらしいのだが、どうも王家たちとクルミさんとは相性が悪く、王都から追い出されてしまったらしい。でも国境を越えるためのお金を持ってなかったので、国から1番遠いこの街まで貨物馬車に紛れてやって来たらしい。

 クルミさんは勇者としての力を領主に見せつけてこの学園に住む許可を奪ったらしい。

 お金は詳しくは教えてくれなかったが、収入源を手に入れたらしく、いまはここで文字を読む練習をしてるんだとか。


「というわけだ。フェノンくん、ここの魔道具と魔法具の違いを教えてほしい」


 話を終えるなり、さっそく聞いてくるクルミさん。わたしはそれに優しく答える。


「魔道具は地脈を使わずに自分の魔力で動かす道具です。反対に魔法具は地脈を使って動かす道具のことです。簡単言えば自力か他力かというだけですね」

「なるほど、そういうことか。ありがとう。ところで何か悩みがありそうだが、相談に乗れるかわからないが出来る限りは努力するぞ?」


 何故かわたしの表情を一瞬で読み取るクルミさん。少しばかり肩がビクついた。


「実はですね……」


 わたしは生徒会長で、お金と差別に悩んでることを話した。


「差別といえばやはり制服だな。これは身分差が生じないから非常に便利だ。もしお金がないなら集めることをおすすめするよ。私からは以上だ。

 ここから先は自分で考えたまえ」


 肝心なところを教えてくれないクルミさん。こっちはお金が欲しいのに……

 1度生徒会室に戻って資料や校則を再確認する。

 学園の図書館は学園に所属している者のみ利用可能。部外者が学園に入る場合は身分証の提示が必要……身分証?


「図書館を街の人達にも有料で使えるようにすればいけるかな? 少し調べてみようかな?」


 思い立ったらすぐに行動。わたしは学園を出て街の人たちに図書館を使いたいかどうかを聞いてまわった。

 すると思ったよりも多くの冒険者や商人たちがお金を払ってもいいから使いたいと答えた。


「よし、これならいける……!」


 わたしは軽い足取りで学園へと戻って行った。

 そして、聞き込みから学園に戻るなり、わたしはすぐに先生の元に向かった。


「図書館を有料にして一般市民にも入館させるか……生徒たちはどうするんだ? 有料にされたら困るんじゃないのか?」

「大丈夫です。生徒には身分証明書があります」


 わたしはそう言いながら入学式の日にもらった1枚のカードを見せる。例の出席確認を取るヤツ。


「それを使うわけか……確かにそれには顔写真もあるし良いかもな。暇だから書類は作って置く。お前は残った仕事をしろ」


 その言葉を聞いた瞬間、わたしの先生に対する目線は一気に底冷えたものへと変わっていった。


「先生、暇なんですか? 暇なのにわたしに全部押しつけたんですか?」

「いや、これはその……アアトォ!! さっきのテストの返却が残ってたー!! 答案用紙を返却しないとなー!」


 見苦しい言い訳をしながら先生は逃げていった。そして取り残されたわたしは諦めて生徒会室に戻って行った。


「ルールが変わればその詳細も教えないといけないから学園と図書館の掲示板に貼るとして、身分証明書の更新も必要だからそこはお金取って、再発行みたいにすればいいから、あとは掲示板に貼る紙の作成だね」


 まことに残念ながらわたしにそういった書類作成の知識はない。ここはリアにでもやらせよう。元を正せば全部リアのせいだし。

 すると生徒会室の扉が開いた。


「フェノン! お昼にしよーぜ!!」

「リア!!」


 生徒会室に入ってきたリアとエリー。本当にタイミングが良くて助かる。

 わたしは聞き込みのついでに買ってきたおにぎりを取り出して食べる。リアとエリーは購買でパンを買ってきたみたいで、それを口に運んでいた。

 食べる際についでに今日あったことを話した。


「つまりフェノンじゃ書類が作れないから作ってくれということでいいのか?」

「うん、広報の奴らマジ使えないから」


 端の方でダメージをもろに受けてるのがわかる広報部の生徒たち。

 だって試しにやらせて見たけど、「領主の息子サイコー!」としか書かないから必要なことも伝わらない。ハッキリ言って邪魔だと思う。本人たち曰く元生徒会長へんたいに洗脳されたらしい。


「それで本当に制服作るのか? デザインは?」

「高校のデザインをパクって色を変えてあとは微調整」

「まあ、安定だな。フェノンのことだから変なデザインにするかと思った」


 まるでわたしが変なセンスを持ったヤバいヤツみたいなことを本気で言ってくるリアとそれに頷くエリー。


「わたしをなんだと思って……まあ、そっちは頼んだよ」

「ああ、任せろ!」

「私も出来るだけ力になるからね?」


 エリーが手伝ってくれるのはありがたい。リアだけだと何を仕出かすかわからないから助かる。

 お昼休みが終わって教室に戻った二人。それと同時書類が完成したらしく、それを持ってきた先生。


「うん、お金の経緯もこれで大丈夫。サインするんでしたっけ?」

「ああ」


 生徒会長の枠にサインして校長先生の許可を貰ったあとで返却するように頼んだ。その書類は校長先生を通った後、領主に行くらしい。その間にわたしが少しおじゃまさせてもらう。


「とりあえず制服のデザインでも考えようかな?」


 わたしは裏紙に元となる制服のデザインを描いて、色を考える。ブレザータイプだとどうしても黒っぽくなってしまう。とりあえずスカートは短くしたい。理由はリアのミニスカートが見たいから。


「スカートは白でいいかな? 逆にズボンは黒にして……」


 試行錯誤すること二時間ぐらい。遂に完成した。

 男子は黒いズボンに白のブレザー、赤のネクタイ。セーターは黒。

 女子は白いスカートに白のブレザー、リボンは赤か青で、セーターとベストはベージュ。女子はセーターかベストの着用を必須とした。


 白の理由は生徒会長のみが羽織れるクソダサい柄のマントみたいなのがあって、それが白いから白。これで学園内を通してもらって、領主に渡す時にスカート丈は膝より10cm以上短くするというものを加筆する。

 この学園の女子はみんな短いスカートしか履かないのでリアと一部以外からの反対意見は出ないだろうし、どうせ領主も変態だろうから通らないわけがない。


「過半数って強いわぁー」

「そ、そうか。フェノンフェリナスの趣味がガッツリ入った制服だな。そもそも制服なんて王都の一部でしか存在しないのに何で採用するんだよ」

「先生、わたしの趣味はありません。あるのはわたしの欲望だけです」

「もっとダメなやつじゃねーか!! でも確かにアイツは女子の癖にズボンだからな……」


 先生の顔は少し変態染みているような感じになっていた。恐らくミニスカートのリアを妄想してるのだろう。


「先生、あとはこれと一緒に領主に出してください」

「校長先生ならこんなことしなくても許可出すと思うぞ? 校長先生、いつも街から離れてるからいつでもサイン出来るように自動サイン魔法具なんてもの作って校長室に置いてあるからな」


 なぜかそんなことをペラペラと喋る先生。それは先に言って欲しかった。というか自動でサインしちゃダメでしょ……


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