第13話 フェノン、(精神的に)死す。


 リアと知り合ってから数日が経った日。今日もディアナに魔力操作の応用を習っていた。


「フェノン様、教えるのは今日で最後です。あとは自分で新しいのを編み出してみてください。最後に教えるのは『身体操作』です。ではあそこに低賃金フロウがいるので少しやってみますね」


 ディアナの魔力がフロウを包み込み、凄い侵食していることがよくわかった。

 ……ナニコレ? 大丈夫なの? めっちゃフロウ抵抗してるように見えるけど……? まあ、フロウだし大丈夫か。


「ではゴミフロウをよく見ていてください」


 するとフロウが空高くに浮いていった。そして勢い良く地面に落ちた。


「タイヤキッ!!!?」

「こんな感じです。やってみてください」


 相変わらずフロウの驚いた時のセリフが謎だけど、とりあえずやってみよ。

 わたしはフロウを魔力で包み込み、その身をあらぬ方向へ投げた。

 投げられたフロウは木の枝にぶつかり、そのまま木の本体にぶつかり、そして地面に落ちた。


「カン! コク! ノリ!?」

「「キモっ」」


 わたしとディアナの重なった罵倒。そしてわたしの視界の隅に入る怪しげなエルフの女性がこちらを羨ましそうに見ていた。


「ディアナ、帰ろ!」

「そうですね」


 怪しい女性は放置して、わたしとディアナは屋敷へと戻った。


「フェノン、ディアナ、どうしてフロウばっかり罵倒するの……もっと私にも強く当たってよ……」

「エマ様、そろそろ到着しますので、ご準備を」

「はいはい」


 部屋に戻ってベッドの上でゴロゴロとしていると扉がノックされ、ナタリーが入ってきた。


「フェノン様、お客様がお目見えですよ」

「おきゃくさま?」


 わたしに来るなんてだれだろ……?

 そんなことを考えてるとナタリーの後ろから服装だけがとてもボーイッシュな女の子が顔を出した。


「フェノン! 遊びに来たぞ!」

「リア! 久しぶり!」


 リアはわたしの部屋に興味津々で部屋中を見回していた。


「あまり見られると恥ずかしいんだけど……」

「ああ、悪い悪い。ところでアレって……」


 リアが指をさして聞いてくる。リアの指さした先には最近お母様が手に入れたとわたしにプレゼントしてくれた畳や障子などで作られた和風空間。


「フェノン様のお母様がフェノン様のために作った和国の文化を再現した部屋らしいです。着替えやおやつの時に利用しております」

「ナタリー、そこ使うからお茶とお菓子とお団子持ってきて」

「かしこまりました」


 わたしの代わりにナタリーが説明してくれた。そしてわたしはナタリーにお茶などを持ってくるように頼んだ。するとナタリーは部屋を出ていった。


「中に入っていいよ。わたしちょっとお手洗い行ってくるから」

「ああ、わかった」


 わたしはお手洗いを済ませ、部屋に戻る途中にナタリーと合流したので、そのまま二人で部屋に戻った。


「おまたせ、リア」

「いや、大丈夫だ」


 その時、わたしは何か引っ掛かったような気がした。

 何かおかしいような……気のせいかな? まあ、いいや。お団子食べよ。


「リア様のお母様から戴いたお茶を淹れてみました。りょくちゃ? というお茶らしいです。なんでもリア様が作ったお茶らしいですよ」


 リアがお茶を作った? わたしと同い年なのに? すごいなぁ……


「リアってすごいんだね! ナタリー、リアとゆっくり話してるから好きにしてていいよ」

「わかりました。何かあったら大声で呼んでくださいね」


 ナタリーが部屋を出ていくのを確認して緑茶を飲んでみると、まんま緑茶の味だった。


「おいしい……」

「だろ? 俺の故郷の味だ」


 ドヤ顔で自慢するリア。しかし、ここにもわたしは疑問を持った。


「……? リアってツバキさんとこの辺を移動してるだけじゃないの? 故郷なんてあったの?」

「……あっ」


 しまったという感じの顔をしていた。ここでわたしは全てを理解した。最初の違和感は和室で靴を脱いだこと。ナタリーもそうだったけど、普通なら土足で畳の上に座るはず。けど、リアにはそれがなかった。

 2つ目は緑茶。子どもがお茶を作るのは凄いと思うけど、天才と言われればそこまで。でもわたしが気になったのはお茶の名前と味。あそこまで的確に緑茶の味を出して、緑茶という名をつけるには少し無理があったからだった。

 そんなことを考えているとリアは決心がついたのか口を開いた。


「あのさフェノン、前世って信じてる?」

「ぜんせ? うん? まあ……」


 もうなんとなく察したから内容だけ聞かせてもらって不都合がなければわたしも打ち明けよ。


「俺さ、前世の記憶があるんだ。こことは全く違う世界で魔法もない世界。そんな世界で学校に通ってたんだ。何もないつまらない日常だった。でも、そんなある日授業中に俺の横でうんこ漏らしたやつがいたんだ。そいつ佐藤っていうんだけどさ、みんなで爆笑したんだ。

 けど、そこから先の記憶がないんだ。他のクラスメイトたちが倒れたのは覚えてるんだが、そこから先は覚えてない。たぶん死んだんだと俺は考えた」


 どうもすいませんでしたーーーー!!!!

 わたしが漏らしたせいでみんな巻き沿い喰らったんですねぇーーー!!! 絶対黙ってよぉーーー!!!


「そ、そうなんだ……た、大変だったんだね……」

「フェノン? 急にどうした? 様子がおかしいぞ」

「そ、そんなことないよ……」

「……俺、田中っていうんだよ。ボッチでほとんど授業サボってた田中だよ」


 その名前を聞いた瞬間に肩がビクついた。田中は当時わたしの隣の席にいたヤツだ。


「フェノン、お前まさか……」

「ち、違うよ!?」

「脱糞野郎」


 無意識に涙が溢れそうになるが、必死に堪えた。


「そ、そうか……悪かった。うん悪かった。ごめんな。これからはフェノンとリアとして仲良くしていこうぜ」


 わたしはリアに抱きしめられて頭を撫でられた。でもね、これ前世のイメージだとかなり酷い絵面になるよ。


「フェノン様? 入りますよ?」


 このタイミングでナタリーが入ってきた。そしてナタリーは泣いてるわたしを見て手に持っていたお盆を落とした。


「フェノン様? とりあえず殺しておきましょうか?」

「うん、お願い……」

「ちょっと待ってくれ!? あっ、ちょっと! 母さん助けてぇーーー!!!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る