scene4.7

「白鷹! かおるは?」

 勇太は中世夢ヶ原の出口辺りで空を見つけた。

 走り続けたためか、空は少しだけ息を切らしている。

「すまん。さっきの人波で見失った。このあたりには居ない」

「わかった。それなら――」

「鏡川さん!」

 後ろからの声に振り向けば、百万石灯がこちらに向かって走ってくる。恐らく騒ぎを聞きつけたのだろう。

「犬山さんは――」

「すまん。百万石。事情を説明してる余裕はない。かおるがどっか行っちまったから探さないといけない」

「そんな……」

 灯は片手で手を押え、心配そうにあたりを見渡した。

 勇太もつられるようにして見渡せば、大きな駐車場が眼に映る。そこにある駐輪場に視線を向けてみるが、かおるがここまで漕いできた自転車はそのままになっていた。……遠くまでは行ってないようだ。

「ごめん。百万石。撮影は中止だ。かおるを見つけるの手伝ってくれ」

「もちろんです。お手伝いします!」

 灯が頷けば、空はポケットから原付のキーを取り出す。

「よし。なら俺と百万石は原付で探すぞ。遠くまで行ってないと思うけど一応だ。勇太は近場を頼む」

「わかった」

 その言葉を合図にするようにして、3人は駆け出した。

 勇太は駐車所から捜索しはじめる。車の影になっている場所や、併設されている飲食店の建物の裏側を見てみるが、それらしき姿はない。

 ……なら。夢ヶ原の外か。

 勇太は駐車場を突っ切り、そのまま公道へ向かう。

 ふと東の空を見上げてみれば、分厚い灰色の雲に覆われ始めていた。湿気と冷気を含んだ一陣の風が頬を撫でる。

「……くっそ。また迷子かよ」

 勇太はポツリと呟き、速度を上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る