コーラの瓶

誰かが僕を見ている。

荒れ地を挟んだ向こう側に

小屋のようなものが立っていて

その前に立つ男がこっちを見ている。

男は瓶に入った飲み物を飲んでいる。

見覚えがあるようで

見覚えがない。

おい、どっちなんだ。

僕は自分に聞いてみる。

コカコーラだろうか。

「ペプシじゃない」

「コカコーラはもっとくびれている」

僕は後ろを振り返る。

誰もいない。

聞いたことのある声だったのに。

小屋から女が出て来て、男と話をしている。

そしてやはり僕を見ている。

男が手渡した、コーラを飲みながら。

「僕も飲みたいな、コーラ」

どんな味がしたのか、すっかり忘れてしまった。

女がコーラの瓶を僕の方に突き出している。

彼女が飲んでいるものとは別の瓶だ。

僕の声が聞こえたのだろうか。

僕は必死に手を伸ばす。

目の前がぼんやりぼやけてして、真っ白になる。

僕はベッドから体を起こした。

ここはどこなんだろう。

「ここはモーテル」

僕の隣に寝ている若い女が言った。

「誰?」

女が僕に笑いかける。

「忘れちゃった」

「僕は君を知らない」

「覚えてないの、昨夜のこと」

女は笑みを浮かべて僕に顔を近づける。

「昨夜何があった」

「何もなかったわ」

「でも」

僕は下着姿の女を見た。

「昨日も、今ぐらい興味持ってくれてたらねえ」

「一晩中車を飛ばして、明け方にここに入ったの。砂漠の朝焼け覚えてない」

そうだ、オレンジ色がやけに綺麗だった。

「思い出したみたいね」

「あたしはレイン」

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