第15話

「すぴー……ん、んぐぁ?」

 なんというモンスターの寝相なのだ。

 というか、モンスターも普通に寝るものなんだな……

 魔法効果で、とかではなくごく普通に。


「まぁ、そういうゲームもあるっちゃあるよな……」

 寝ているモンスターとエンカウントして先制を取られてしまう主人公たち。

 うん、まぁ確かにそういうゲームもプレイしたことはある……


「なぁ、寝ている内に倒しちまおうぜ」

「そうですよ、こんな凶暴なモンスター、駆逐するに限りますっ」

 御者のおっちゃんは極端だけど、アランが言う通りさっさと倒すべきだろう。

 気がかりなのは、奥の部屋にもう一つの寝息の発生源があることなのだが……

 まぁ起きてきたところで、問題は無いだろう。


「いくぞっ……」

 慎重に長剣を喉元に突き立てるアラン。

 一気に力を加えると、オークは大きな叫び声と共に絶命した。

「ぶぉっ⁈」

 その声に驚いた奥のオークが起きてしまったようだ。

 だが、屋敷の構造的にはそこが最後の部屋。

 この一体を始末したら、もうこの廃墟にはおそらく一体もいなくなるだろう。


「来るぞっ、おっさんは離れてろっ」

 アランが構えると、僕も剣を持って戦闘に備える。

 今更なのだが、僕って短剣なんだよな。

 初期装備のまま、といえばそれだけが理由なのだけど、軽いし扱いやすいし子供だからその方が合っているのだろうし……


「ぐぉぉ……ぐがぁ……」

 ガンッガンッ、と壁に何かが当たる音がする。

 通路の先から見えたオークの手にはこん棒が握られており、それが狭い部屋の壁にぶつかっているのだ。

 ん? こん棒を持っているのはまぁ分かる。

 しかし、パッと見でどこかに違和感を感じてしまうのだ。


 大きさ……は、やや大きい。

 口に生えている牙がオークには無かった。

 そして下半身に着けている装備はおそらく金属製。


「アラン、ボジョレっ! ダメだ、二人とも逃げてっ!!」

 以前出会ったはぐれ者とは違う気がする。

 こいつは多分エリアボス。

 名前を付けるのならオークキングとか、そんな名前に違いない。

【BOSS:オーク2とエンカウントしました】

 ……

 うん、きっと期待を越えてくると思っていたよ。

 いやいや、そんなことより早く戦う準備をしなくっちゃ……


 僕は二人よりも前に出て、手を大きく広げる。

 きっと言葉だけでは退こうとはしないだろうから、身体で阻止する方がいいと考えたのだ。

「うがぁぁぁ!!」

 ボスは棍棒を大きく振りかぶり、強く地面を叩きつけた。

「や、やばっ⁉」


 まさか衝撃波が飛んでくるとは思わなかった。

 細い通路で逃げ道もなく、僕の身体に衝撃が走る。

「大丈夫かスノウっ!」

 すぐにアランが僕を抱きかかえ、御者のおっちゃんと共に下の階へ避難した。

 防御力がわずかにでもあって助かった。

 残りHPはわずかだが、死ななければ回復はするだろう。


 二階から、キィン……キィンと剣の当たる音がする。

 棍棒で防がれているのか、それとも防具に当たる音か。

 結構な頻度で聞こえることから、ボジョレが優勢というわけでもなさそうだ。

「ぼ、僕が行くよ……」

 少しばかし身体が痛いけれど、ボジョレだけでは勝てそうにはない。

 市販のポーションを初めて試してみたのだが、これは気休め程度の回復薬のようだ。

 安かったものな……


「ダメだっ、ここはボジョレに任せるんだ!」

 どうしてこの男は、こういう時だけはカッコいいセリフを吐けるのだろうか?

 廃墟に来てから『俺はスノウの荷物持ちだから』なんてことばかり言っていたくせに。

「いいかよく聞け……」

 アランが真剣な表情で僕に向かって言う。

「う、うん……」


 ごくっ、と唾をのんでしまう。

 一体この男は僕に何を言わんとするのか……

「お前が……お前がケガをすると俺たちがアイズに殺されるんだ!

 すでに一撃もらってしまったが、今なら半殺しで済まされるだろう。

 頼むから俺たちがアイズに殺される未来だけは……」


 『くっ……』なんて言いながら、ほろりと涙を流すアランだが、さすがにちょっとどうかしてると思ってしまった。

「じ、じゃあ行ってくるよ……止めても無駄だからね……」

 呆れて僕は二階へ上がる。

「待ってくれスノウー!」


 そこまで冗談を言える余裕があるのは、まださっきのボスを普通のオークだと思っているからなのだろう……

 二階に上がった僕が見たのは、何度も棍棒で殴られて胸を抑えながら戦うボジョレの姿だった。


 追いかけて上がってくるアランも、さすがにその姿を見て冗談は言えなくなったようだ。

「お、おいボジョレ……さっさと倒しちまえよそんな雑魚……」

 雑魚なんかじゃないんだよアラン。

 こいつは、全身全霊をかけて戦わなくてはいけないほどの実力を持った、この廃墟のボスなんだ……

 そりゃあ見た目はオークとあまり大差は無いように感じるかもしれないけれど……


「うわぁぁぁぁ、でぇりゃぁぁ!!」

 勢いよくボスの頭に飛びかかる僕。

 接近してしまえば衝撃波など怖くはない。

 何度も何度も斬りつけるのだが、さすがはボスだけあって体力が多い。

「お、俺も戦うぞっ!」

 アランが一歩前に出る。

 だが、近くに来られては邪魔でしかない。

 攻撃を避ける時に障害物はなるべくいてほしくないのだ。


「来ないでっ! もうすぐ倒せるから大丈夫!!」

 実際のところ、ボスのHPがどれだけ減ったのかはわからない。

『あとどのくらいだ……』『まだ倒れないのか……』

 そんなことを思いながら、ひたすらに攻撃を繰り返したのだった。


【スノウはレベル27に上がった】

【BOSS初討伐報酬:知恵の指輪】

【エリア殲滅報酬:ミスリルソード】

【スノウはスキル:解析1を習得】


「っとに、見た目が同じとかずるいよなぁ」

「……全然違ったと思うけど?」

 馬車に揺られながら、アランはぼやく。

 やはり普通のオークと同じだとばかり思っていたそうだ。


「そうですよ、どう考えても普通のオークじゃ……痛ったたた……

 おっさん、揺らさないでくれよっ」

「そりゃ無理だよあんちゃん。

 早く街に帰って医者に見せるべきだぁ、全速力で帰るからなぁ」

 揺れるたびに『痛い痛い』と叫ぶボジョレ。

 僕の方は痛みも引いて、どうにかアランの半殺しは免れたようだが……


「この剣……どうやって持って帰ろうかな……」

 微妙に大きすぎて空間収納に入らないミスリルソード。

 使いたいのだけど、アイズが許してくれるかどうか。

 帰り道、僕はオークから入手した皮を何度も空間収納に出し入れして、少しでもレベルが上がらないかと期待したのだった。

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