Ⅴ Responsorium
Responsorium 1
そうか、既にホウリュウ大佐は攻撃を開始していて、彼らはこちらへ戻ってくる途中なのだと確信した。気がつけば、ハルカは翼をはためかせ低空飛行で
気温が徐々に上がり熱気を感じる中で、この先には炎上した
「コギソさん……」
紅色に明るく、めらめらと炎がうごめいている反対側のすぐ近くで、守衛の制服を着た大男を抱きしめているコギソ・フミコが、ハルカの声に気がついて視線を向ける。
ばたり。
ハルカが話そうと思っていた守衛長は、フミコが手を離すとあっさりと倒れ込んで、動かなくなってしまっていた。
「ハルカ……」
フミコの薙刀は紅く染まっている。彼女の斑のない紫色の瞳から輝きは既に消えており、抑え込まれている涙は溢れそうになりながらも、未だに頬を伝うことを許されていない。
ハルカはゆっくりと周囲を見回した。絶命した数人の「V」が横たわっている。全て、首や胸に深い切り傷があった。フミコの手で殺されたことを示す、何よりの証拠だった。
「どうして……」
ハルカは、ただそれを口にするのが精一杯だった。
「私たちは、もう人間ではない。人間に協力する理由なんて、何ひとつない」
フミコは核心の部分をあえて避けているように見えた。
「確かに、わたし——僕も、人間に協力する理由はもうありません。けれど、どうしてわざわざ大佐と、第二部隊の人たちを殺したのですか」
「ハルカ。——私たちは、本来存在してはいけないモノなのよ。
「僕とコギソさんだけが、唯一『
「……そう」
「愛するヒトの為に生きるのがヒトではないのですか? 僕はともかく——コギソさんは少なくとも、今までヒトとして生きられたのではないのですか?」
フミコは、その言葉に悲しげに微笑んだ。
「……貴方の言うことも、間違ってはいないと思うわ。それに、貴方も私と同じように、ひとつの愛の形を貫いているという意味では、ヒトに近いのかもしれない。けれど、私は——この人を止められなかった」
それは、自嘲するようだった。
「そう、止められなかった。レイは、『零式』に対抗しない人間を排除するために、
ハルカは愕然とした。ホウリュウ大佐がそこまで憎しみを積み重ねていたことに、全く気がつかなかったのだ。気が付かないように設定されていたのだ。
「憎しみは新たな憎しみを生む。であれば、ここで全て潰してしまった方がいい。彼は冷静な顔でそう言った。——だから私も答えを出した。——それが、私の背負うべき罪と、下されるべき罰」
フミコはそう言って、薙刀を構えた。
「私は——このまま人間と『V』を、全て滅ぼす」
決意と怒りに震える彼女の姿を、ハルカは初めて見た。
「人間はもう、滅びるしかない。生きながらえることは出来ず、ドラゴンを撲滅できないまま死んでいく。だから、せめて、苦しまないように、醜い最期を迎えないように、私が滅ぼす。そう、決めたの」
フミコの胸元から首にかけて、漆黒の鱗が覆っている。
それが、彼女の決意の決め手になったのだとハルカは悟った。
「ヒトとして残された時間は少ないけれど、私は全力で、ヒトであるうちに人間を滅ぼしたいの。——恐らく、貴方は邪魔をするでしょうけれど」
「ええ、僕は貴女を止めなければならない。——いや、殺さなくてはならない」
ハルカは尾から静かに剣を抜いた。その切っ先は、フミコの胸に向けられる。
「人間が滅びる滅びないは、僕もどうでもいい。けれど、人間を滅ぼす存在となった貴女は、人間に仇なす限り……アヤノにとって、そしてそれは当然僕にとって、ドラゴンと同じです。——コギソ・フミコ曹長、討伐させていただきます」
ハルカの剣とフミコの薙刀は互いに異様な光を放ち交錯する。
そして、二つの影は瞬時に接近し、衝突した。
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