Kyrie 11
ほどなくして、エレナとフミコは訓練場へと続く古びた連絡坑を渡っていた。
「私と訓練しても、つまらないんじゃない? 相性も悪いし」
フミコは後ろをついて行くエレナにそう問いかけたが、返事はかえってこない。
「オリガとすればいいのに。あなたの隊の副長だし、その……仲がいいのでしょう?」
第三部隊の副長、オリガ・イワノーヴナ軍曹は、エレナと同じでモスクワ
「でも……オリガは私と戦ってくれないから」
なるほど。そうかもしれない。
みたいな、そういう妙な拘りがありそうだ、とフミコは思った。
「そう……やっぱり私しかいないということ」
「
がらんとした空洞に、柔らかな月の光が降り注いでいる。無数の鉄骨とコンクリートが彼女たちの行く手を阻んだが、
しばらく行くと、瓦礫の山の中に、ぽっかりと円形に空いた空間があった。二人はそこにゆっくりと降り立った。生えてきた尾から各々の武器を取り出し、お互いに向き合う。
エレナは得物の
数回、呼吸の音がわずかに聞こえた後、エレナが駆け出し、一気に距離を詰めフミコに迫った。先手を打った渾身の突きはものの見事に空を切り、フミコの背後にあったコンクリートを派手に破壊し吹き飛ばした。
空中に身を投げ上空をとったフミコは、攻撃の余波で飛んできたコンクリートを器用に両足で受け止め、エレナへ蹴り落としていく。かつて途方もない重さの土の圧力に耐え、住民を守り続けてきた分厚いコンクリートは、二メートルに迫る長さの、鋼鉄以上の硬度を持つ
エレナは空中に飛び上がった。フミコが蹴った最後のコンクリートの端から、錆びた鉄のワイヤが飛び出している。
めざとく見つけたエレナは、鉄筋コンクリートを強打した。鉄筋コンクリート片は猛烈な速度でフミコへと向かっていく。
がしゃん。
コンクリートに巻き込まれ、フミコは姿を消した。
しまった、とエレナは焦る。瓦礫に隠れながら死角から仕掛ける隙を作ってしまった。
コンクリートが落下した方向に
がらがら。
近くに瓦礫が落ちている音を聞いて、エレナはフミコが空中にいると悟った。
すぐに飛び上がると、上方から崩落してきた瓦礫に紛れているフミコが視界に入る。
「見つけた!」
猛スピードで空中を一直線に駆け距離を詰めるエレナ。
それでもフミコは全く焦らずに、瓦礫を蹴って紛れながらエレナに向けて巨大なコンクリート片を蹴り落とし続けた。
また隠れられる。
すでに、フミコの戦い方はよく知っていた。しかし、このままではコンクリートに衝突して訓練どころではない。
「はっ!」
彼女は
その裏に隠れていたフミコは、瞬時に瓦礫の破片を蹴り上げエレナの視界を遮った隙に、真横に回り込んだ。
回り込んだことはわかっている。あとは、攻撃の瞬間を見計らって、カウンターを打ち込むだけだ。
今度こそ、勝ってみせる!
フミコの薙刀が届く前に、エレナに不敵な笑みが浮かんだ。
「ウラァ!」
エレナは空中で全身を翻し、振り下ろした
これで、エレナは初めてフミコに勝ったはずだった。
だが。
「っ?」
フミコの
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
驚いたエレナは、首元に覚えのある冷たさを感じて愕然とした。
「勝負、ついたわね」
彼女の喉元に薙刀を突きつけながら、フミコは努めて柔らかい声でそう言った。
「もう一回!」
「やめておきなさい。あなた、私に勝ったことないじゃない」
極めて冷静に、努めて優しく、フミコは諭した。
「十分な休養をとらないと、守れるものも守れなくなるわ。あなたも、部隊長なのだから」
フミコの言葉に、エレナはゆっくりと頷くしかなかった。
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