Kyrie 2

「太陽の活動が活発になり、次々と降り注ぐ宇宙線により地上の文明は壊滅状態となった。そこで人類は必然的に地中深くへ建造物を作り、そこに居住するようになった。それが、私たちの棲む詰所ステーションだ。詰所ステーションはそれぞれ、地上にかつて存在していた大都市を中心として、その名を残したまま作られている。ここ東東京詰所イースト・トウキョウ・ステーションも、元は中央東京詰所セントラル・トウキョウ・ステーションと併せて、つい数年前まで、東京詰所トウキョウ・ステーションとして機能していた。このように詰所ステーションも居住者の都合や我々の組織とともに分化や統合を積み重ね変動する。

 話を戻そう。宇宙線によって人類は地上で生き続けることがほぼ不可能になったが、逆に宇宙線によって活性化する生物がいた。では、これについて……サエグサ、説明してもらえるか?」


 彼女たちを送り出したエレベータは、地上近くまでやってくるとゆっくりと停止し、扉を開いた。セリナは新兵たちを外へと促す。といってもここはまだ地上ではない。放射線が最低限に防護されている最後の空間で、地下五メートルほどの場所である。ここから無骨な螺旋階段を使って地上に向かう間に、覚悟を決めなくてはならない。もちろん、本来の目的は施設の入り口を隠すことで、格好の餌食となることを防ぐためである。

 殿のハルカが降りると、エレベータはゆっくりと扉を閉ざした。拒絶するかのようにぴったりと合わさった扉は、いつ見ても気持ちのいいものではない。

「行くぞ」

 セリナの緊張した声が遠くから聞こえる。彼女が先頭となって、一列に無骨で頼りない螺旋階段を上る。程なくして上の方が明るくなった。地上が人間にとって危険な場所となっても、太陽は何物をも平等に照らしている。

 小さな穴から、ハルカが這い出ると、新兵たちの苦痛に歪む顔が見えた。中には泣き出している子までいる。

「これが、太陽だ」

 セリナは厳然とした口調でそう告げた。

 ハルカは新兵たちの姿を見て、どこか不思議な懐かしさを覚えた。最初に地上に出た時、一番大きな悲鳴をあげて号泣したのが、今目の前で自分たちを率いている女だとは、誰も思わないだろう。

 よく見ると、新兵たちの中でもすぐに適応して、真っ白だった腕から薄い膜のように鱗が生えてきている者もいる。ハルカはそんな彼女たちにどこか既視感に近い懐かしさを覚えた。

「わかっているはずだ。我々の敵は、太陽これではない」

 セリナはそう言って、未だに蒼く澄んでいる空を指さした。

「あれだ」

 その先にある敵の姿を視認しているのは自分とセリナだけだろうと、ハルカは思った。恐らく、ほとんどの者にはただの黒い点にしか見えないだろう。

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