マーダー×マーダー

黒井へいほ

プロローグ

 二人はエレベーターを降り、長い通路を進む。広い廊下には透明な壁の牢が並んでおり、中に居る囚人は、まるで水族館に展示されている魚のようだった。

 ブルリと皆月の体が震える。


「彼専用に特殊な造りをしていましてね。奥へ向かうほど温度が下がります」


 答えた男の名は上杉 鳴。人当たりの良い顔、スラリと伸びた身長、整った身なり。非常に女性からの人気が高い男だ。

 共にいる女性の名は皆月。目が隠れるほどに長い前髪、痩せているでもなく太っているでもなく、身長は高いでもなく低いでもない。誰もが普通だと言うであろう、一般的な体格をしていた。


 上杉は異能殺人対策課に所属しており、皆月はその補佐を務めている。

 現在、二人が歩いている場所は異能殺人者、通称マーダーを閉じ込めている施設だ。

 マーダーとは人を殺した際に異能へ目覚めた者の名称だが、覚醒条件は詳しく分かっていない。素質があったからとも、殺人という異常な行為でなにかがズレてしまったからとも言われていた。


 マーダーはそんな厳重注意な存在だが、彼らに協力を申し出ることもある。

 今回、上杉の目的も、とあるマーダーへの協力要請だった。


 通路の一番先。行き止まりへ辿り着くと、そこには水の中へ沈められている透明な牢獄があった。

 皆月の吐く息は白い。気温は10℃を切っているようだ。

 牢の中には一人の男。囚人番号61532。明日、刑が執行される予定の死刑囚だ。

 男はくすんだ金色の髪をしており、壁にもたれたまま座っていた。


「こんにちは。異能殺人対策課の上杉と申します」


 男は上を見た体勢のまま薄く目を開く。……爛々と輝いているような赤い瞳に射すくめられ、皆月は目を逸らした。

 しかし、別に皆月を見ていたわけではなかったのだろう。男は気にした様子も見せずに言った。


「……煙草くれ」

「こちらの要求を飲んでくれるのでしたら、いくらでも」


 チッ、と男が舌打ちをする。帰れと言わなかったところから、話を聞くつもりはあるのだろう。少なくとも、上杉はそう判断していた。

 上杉は淡々と要求を告げる。


「各国でマーダーが増えていることは知っていますね? 日に日に犯罪も増えておりまして、人手が足りずに困っています。ですので――」

「手伝えと?」


 上杉が笑顔で頷くと、男は鼻を鳴らした。


「てめぇらが捕まえたマーダーを犬にして、他のマーダーを始末させてるのは有名な話だ。まぁ、そりゃそうだよな。マーダーの相手をマーダーにさせるってのは、これ以上無いほどに効率的な方法だ」

「では」

「断る。オレの信条は、好きに生きて、好きに寝て、好きに食って、好きに殺して、無様に死ぬ、だ。誰かの言いなりになるつもりはねぇ」


 こう言われてしまえば致し方ない。皆月はすでに説得を諦めていたが、上杉は依然として笑みを崩していなかった。

 話は終わったはずだ。しかし、男は舌打ちをし、立ち上がった。


「……と、言いたいところだけどな。二つ条件を飲むなら考えてやらないこともない」

「条件とは?」

「――オレを倒したあいつ・・・と、片目が紫色をしたやつともう一回戦わせろ」


 男の提案に皆月は――長い前髪で見えてはいないが――ギョッと目を見開く。


「分かりました」


 そして、逡巡なく上杉が首肯したことで、もう一度目を見開いた。この男は相手の許可もなく、なにを勝手に受け入れているのだ、と。

 しかし、二人にそんな皆月の想いは届かない。なんせ、地味な彼女の姿は、目の端にしか映っていない。記憶の片隅にギリギリ残している程度の扱いだった。


「それで、もう一つは?」


 上杉の問いに、男はニヤリと笑う。


「――煙草くれ」


 こうして元世界最強のマーダーは、首輪付きの"犬"となった。



 上杉が車の運転をしている中。皆月は何度となく目を通した資料を見直していた。


「元世界最強のマーダー。二つ名は『アッシュ・ロード』。名前は――」

レッド・・・だ。気安く呼ぶなよチンチクリン」


 別に忘れていたわけではないと、皆月はムッとした表情を見せる。

 だが男の、レッドの機嫌を悪くしたいわけではない。不満を隠し、表情を正した。


 現在、レッドの両腕と両足、首には枷がされている。許可を出さなければ、腕を開くこともできない状態だ。

 首の枷と胸に埋め込まれたチップからは微弱な電気が流れており、異能の力が使えないように封じられている。つまり、今のレッドは凡人以下の能力しか無く、煙草を吸うことくらいしかできなかった。


 しかし、煙草を吸えることでご満悦なのだろう。レッドはとても気分が良さそうに、窓を全開にして煙草を吸っていた。

 皆月は小声で上杉に聞く。


「……上杉さん。あの、あれって大丈夫ですか?」

「そうですね。煙草を吸うペースが速いので、どこかで買い足した方が良いかもしれません」

「そうじゃなくて! 窓の話です!」


 ハッと、皆月は口を押さえる。つい、声を荒げてしまったからだ。

 そうなれば、当然のことだが聞こえてしまっている。気まずそうにバックミラーを覗き込むと、目の合ったレッドが肩を竦めた。


「そんなに心配すんな。オレを捕まえたってことは、あいつも犬だってことだろ? 逃げるより尻尾を振っていたほうが、確実に再会できて、殺し合えるからな」


 その時を楽しみにしているのだろう。歪に笑うレッドを見て、皆月は頭を抱える。上杉は、クスクスと笑っていた。


「……で、どこに向かってんだ?」


 レッドの言葉に、上杉が答える。


「試験ですよ。あなたの有用性を上に報告しないとなりませんので」

「ハッ、面倒なこったなぁ。監視者ウォッチマンってのも大変なもんだ」


 ウォッチマンとは、雇ったマーダーを監視する者であり、なにかあった場合には全ての責任を負う者である。この場合は、上杉がレッドのウォッチマンとなっていた。

 この話は秘匿されていることなのだが、蛇の道は蛇と言う。どこかで情報が洩れていたのだろう。レッドほどのマーダーとなれば、ウォッチマンの存在を知っていたとしても不思議では無かった。

 上杉は、トントンと首を指で突く。


「なにかあった際は首輪を起動し爆発させます。身元不明の頭の無い死体ができあがり、回収班が処理する運びとなっています」

「どうせ死刑されるところだったんだ。脅しにもならねぇよ」


 ケタケタと笑いながら、レッドは新たな煙草へ火を点ける。この男、酸素を吸う時間よりも、煙を吸っている時間のほうが長いように思える。

 しかも、車内が妙に熱い。窓は全開で開いているのにと、皆月はハンカチで額を拭った。


「オレの体は体温調整がちょいと苦手でな。煙草を吸ってねぇと、体温が上がっちまうんだよ」

「煙草を吸っていないとというか、煙を吐き出すのに合わせて放熱を行っているんですよね。煙草を吸わずに放熱できないんですか?」

「できねぇから困ってんだろ。煙草で行えるのも不思議だが、たぶん煙草との相性がいいんだろうな。別にオレは困ってねぇからいいさ」


 こっちは迷惑です、煙たいです、と言いたい気持ちを皆月はグッと押し殺した。



 ――時刻は夜。

 車が止められたのは、人けの無い港だった。

 三人が車から降りる。上杉と皆月はスーツ姿だったが、レッドはオレンジの囚人服なため、一人異様に目立っていた。


「……ふぅん」


 周囲を見回したレッドが意味ありげな声を出す。

 皆月はそれを不思議に思ったが、追求しようとも思わなかった。単純に、レッドと関わりたくないという気持ちが先行したからかもしれない。


 いくつかの大きな閉じられた倉庫。無数に立ち並ぶコンテナ。よくある港へ連れて来られたことには、当然意味がある。

 バチリと音が鳴り、レッドの拘束が解かれた。


「この辺りにマーダーが潜んでいます。できれば殺さずに捕獲してください」

「それがテスト内容か?」


 上杉は首肯し、通信装置を渡した。車内で事前に説明をしておいた耳の中へ入れるタイプと、首へ貼り付けるタイプだ。


「一応言っておきますが――」

「くどい。逃げねぇと言ってるだろうが」

「失礼しました」


 上杉は恭しく頭を下げていたが、レッドは目も暮れずに歩き始めた。まるで、マーダーの潜んでいる場所が分かっているかのような、確かな足取りで。

 どうなるものかと皆月が腕を組んでいると、背中を叩かれた。


「早く追ってください」

「え? ……え!? わたしも行くんですか!?」

「当たり前じゃないですか。仕事ですからね」


 今回は自分の出番は無いと思っていたのだろう。皆月は唖然とする。

 しかし、命令されれば逆らえない。皆月は苦渋の表情のまま、レッドの後を追うしかなかった。


 しばし走ると、レッドの姿はすぐに見つかった。目立つオレンジの囚人服を着ているのだから当然だろう。声を掛けようと思ったが、逡巡する。


 ――邪魔者扱いされるかもしれない。


 皆月はそう思っていたのだが、レッドはチラリと見ただけでなにも言わない。そもそも彼は皆月に全く興味が無い。言葉を交わす必要性すら感じていなかった。

 僅かな沈黙。迷うことなく進むレッドへ、先に口を開いたのは皆月だった。


「あの、居場所分かっているんですか?」

「おおよそはな」


 レッドは前のコンテナへ手で触れ――横に飛んだ。


「え?」


 その行動の意味が分からず、皆月は目を瞬かせる。

 次の瞬間、巨人に殴られたかのようにコンテナが吹き飛び、茫然としていた皆月の姿が消え、辺りに砂埃が舞った。


「死んだか」


 別に、守るように言われていたわけでもない。いや、例え言われていたとしても、あの程度のことで死ぬようなやつならば、いずれ死んでいただけのことだ。

 死というものに慣れているレッドからすれば、出会って数時間のチンチクリンが死んだだけのことだった。


 それよりも、今優先すべきは敵対しているマーダーの処理だ。超パワーか、風を操る能力か。未だどのような異能かは分からないが、そちらを警戒しなければならない。

 レッドが目を凝らしていると、後方から咳き込む声が聞こえた。


「ゴホッゴホッ……。き、気付いていたなら教えてくださいよ!」

「そんな義理はねぇ」

「この……人殺し!」

「……いや、オレはマーダーだからな?」


 今さらそのような事実確認をされてもと、レッドは眉根を寄せる。変なやつだな、というのが率直な感想だった。

 首元のパッドに触れ、上杉へ連絡をする。


「おい、見つけたぞ。能力を使わせろ」

『え? あの最強のマーダーと言われているレッドさんが、三下相手に能力無しじゃ勝てないんですか?』

「上等だ! このままやってやらぁ!」


 瞬間湯沸かし器どころではない。一秒でレッドの頭は煮え立っていた。

 怒りのままにレッドは駆け出す。先からは、工事にでも使っていたのだろう、鉄筋が矢のように飛んできていた。

 だが、レッドは持ち前の身体能力で、その全てを紙一重で躱す。


「正面からとか死にたいんですか!?」


 同じように、レッドの後ろへ続く皆月も躱している。

 見た目は地味で情けないことばかり言うが身体能力は高い。

 そのことに、レッドは驚きを隠せなかった。


 しかし、そんなことを考えるのは後だ。コンテナの影へと一時避難する。少し遅れ、先ほどまで居た辺りに鉄筋が落ちて来た。

 レッドは明らかに事前に察知している。それには皆月も気付いていたため、その理由を知ろうと聞い

た。


「どうして分かるんですか!?」

「そろそろ死ぬと思うから教えてやるが、能力ってのには、熱かったり寒かったり、まぁ色々となにかしらの予兆がある」


 その温度変化をレッドは感じ取っている。例えばコンテナに触れたときも、本来ならば冷たいはずなのにほんのりと温かかった。だから、能力だと察して離れたのだ。

 しかし、能力の使用は分かっても、このままではジリ貧である。相手の飛び道具が尽きる前に、レッドたちの命運が尽きるだろう。


 渋い顔のまま、レッドは上杉へ通信を行った。


「……チッ。おい! 能力を使わせろ!」

『必要無いのでは?』

「前言撤回だ! 使わせないと倒すのが朝になるぞ!」


 あくまで倒せないことを認めないのは、レッドのプライドの高さを現しているだろう。

 だが上杉としても、レッドに死なれては困る。未だ上からレッドの能力の使用許可は下りていないが、始末書を数枚書く程度ならば安いだろうと諦めることにした。


『リミッターを一部解除しました』

「こ、この後に及んで一部ですか!?」


 命が懸かっている側からすればたまらない。皆月が抗議するのも当然だったが、レッドは満足そうに笑った。

 激しい音が聞こえ、正面からコンテナが横っ飛びに向かって来る。すでに避ける時間は無く、皆月は悲鳴を上げた。


「――十分だ・・・


 地面を撫でるように、レッドが左腕を動かす。それに合わせて生じた炎が奔り、接触したコンテナが弾けた・・・


 唖然としている皆月を残し、レッドは足を進ませる。

 先にいる敵対しているマーダーは、次々と手近な物を掴んでは放って抵抗をする。だがレッドの周囲で揺らぐ炎を越えることはできず、足止めにすらならなかった。


 勝ち目が無いことを悟ったのだろう。背を向けて逃げ出そうとする。英断だ。

 しかし、その判断は遅すぎた。男の後方には、行き先を塞ぐように炎の壁が屹立していた。


 こうなれば逃げ道は一つしかない。唾を飲み込んだ男は、意を決してレッドへ走り出した。

 だが、敢えて接近戦に付き合ってやる義理などは無い。レッドは軽く宙を撫で、炎を奔らせる。ただそれだけで、男の体は炎に包まれた。


「アアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ギャハハハハハハハハハハハハハッ! いい声で鳴くじゃねぇか! いいぞ、そのまま死ねぇ!」


 嗤うレッドの頭に、男を捕獲するなんて考えは残っていない。何度か上杉は訴えたが、届いていないと理解して諦めた。

 ……しかし、一人だけ諦めていない者がいた。


「ハハハハハハハハハッ……はぁ?」


 レッドの生じさせた炎が忽然と消えたのだ。まるで最初から、何も無かったかのように。

 本来ならば絶対にあり得ないことだが、この現象をレッドは知っていた。

 後方で前髪を上げ、片目を紫色に輝かせる女を見て、全てを悟る。


「……まさか、てめぇか・・・・

「……はい」


 元最強のマーダーを下した現最強のマーダー。

 皆月の姿を見て、レッドは嬉しそうに笑った。



 こうなることを上杉は知っていたのだろう。ギリギリ命を繋いだマーダーの回収が終わり、レッドの希望が叶えられることになった。


「だから、周囲に監視が大量にいたわけか」

「えぇ、そういうことです」


 この辺りは封鎖されているだけでなく、大量の人員と、ウォッチマンと犬が配備されている。それも全て、この二人が戦うかもしれないという可能性を考えてのことだった。


 当時、皆月は顔を隠していたため、レッドは紫の眼しか覚えていなかった。

 だが逆に、皆月は当然ながらレッドに気付いていた。できればこのイカれた男ともう一度戦いたくないからこそ、自分のことを隠そうとしていた。


 しかし、それも水泡に帰した。こうなれば、戦う以外に道は無い。……などと考えるのは戦闘狂だけである。あくまで一般的な常識を備えている皆月は、レッドへ懇願した。


「あの、再戦はちょっと……」

「うるせぇ! とっととやるぞ! 今度こそぶっ殺してやらぁ! ……と言いたいが、先に聞きたいことがある」

「答えたら無しにしてもらえたりは……?」

「あるわけねぇだろ」

「ですよね……」


 項垂れる皆月を気にせず、レッドが問う。


「あの時、どうしてオレを殺さなかった」


 これは、レッドにとっては最大の疑問であり、最大の屈辱でもあった。納得できる理由がなければ、その瞬間に憤慨するであろうと自覚しているだけに、この疑問は解消せねばならなかった。

 困った顔で皆月が言う。


「……できるだけ、殺したくないんですよね」


 その言葉に、怒りでは無く疑問が湧く。殺したくないマーダーなど、レッドはほとんど会ったことがない。確かにごく一部いたことは認めるが、こんな普通の、どこにでもいそうなマーダーは初めてだった。


 しかし、レッドはその考えを余計なものだと振り払った。

 元最強のマーダーとして、現最強のマーダーを殺す。強さだけが、レッドの矜持だった。


「行くぞ」

「分かりました」


 覚悟を決めたのだろう、皆月の顔つきが引き締まる。だがそれでも百戦錬磨のレッドからすれば、まだチワワが牙を剥いているような可愛らしいものだった。


 レッドが左腕で宙を撫で、炎が奔る。

 皆月の眼が光り、最初から無かったように炎が消えた。


 ここまでは前回と同じだ。レッドの予想では、皆月の能力は炎を封じる、もしくは能力を消す能力。

 そして前回の戦闘を繰り返すように、皆月がテーザーガンを抜く。能力を消され、テーザーガンで撃たれる。初見で防ぐことは不可能だろう。


 しかし、レッドは二回目だ。

 事前に確認していた地面の石を蹴り飛ばす。それは予定通りの軌道で飛び、皆月のテーザーガンへ当たった。

 軌道を逸らしてしまえば、その間に距離を詰めれば負けることは無い。他にテーザーガンがあったとしても、別の武器――例えばスタンロッド――を隠していたとしても、勝利は覆らない。


 ――勝った。


 レッドは勝利を確信し、皆月へ拳を振るった。



 次に気付いたとき、レッドは空を仰いでいた。餌を求める魚のように口をパクパクとさせ、酸素を取り込もうとする。背中に残る強い痛みで、自分が投げ落とされたのだと気付いた。

 皆月は、レッドの拳を避けて掴み、そのまま一本背負いで地面に叩きつけた。そして今、追撃をしようとマウントポジションをとっていた。


 しかし、少し耐えて息さえ整えば引っ繰り返せる。レッドは、そう疑わない。

 だが、その考えは一瞬で覆された。


「――ごめんなさい」


 謝罪の後に、皆月は拳を雨のように降り注がせた。それはレッドの意識が落ちても止まらず、上杉が止めなければ、本当にレッドは死んでいただろう。

 能力を消す能力と、人を超えた驚異的な身体能力。その二つを併せ持つ皆月は、最強のマーダーに相応しい力を備えていた。



 翌日、レッドは牢の中で目を覚ます。壁の向こうには皆月が正座していた。


「……てめぇなにしてんだ?」

「あの、やりすぎてしまったから謝ろうかと……」


 世界最強とまで言われたマーダーであるレッドが、完膚なきまでにやられたどころか同情されている。 しかも、こんなどこにでもいそうな小娘に。

 怒りは一瞬で全身を包んだが、拳で地面を強く叩き、大きく息を吐いた。


「オレの負けだ」

「え、あの、それじゃあこれからは仲良く――」

「次は勝つ」

「……えええええええええええ!?」


 元最強のマーダー、『アッシュロード』。

 現最強のマーダー、皆月。

 二人の戦いは、ここから始まった。

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