第2話 御伽話か伝説か

 私の名前は、鷺沼将美(さぎぬま まさみ)。高校二年生。

 防衛戦隊ディフェンジャーという謎の正義の味方集団の黄色担当。……とは言っても仮だけど。

 お兄ちゃん的に表現すれば、カレーの大食い担当らしい。

 それを聞いたお父さんとお母さんにはウケていたけど、正直、私にはよく分からない。

 分からないと言えば、そもそもこの集団の存在意義がよく分からない。

 この集団について説明するには、先ず、うちの家、鷺沼家について説明しなきゃならないと思う。

 私の家、鷺沼家には代々伝わる笛がある。その笛と言うのは、嘘か誠か鬼を封印したという伝説がある胡散臭い物だったりする。

 鬼を封印した割には、名前がその反対の神を封印したって時点で、もう既に怪しさ満点なんだけど。

 しかも、実際のところそのそもそも笛は不良品で、穴すらなく、単なる棒っきれと言っても過言じゃない代物。詰まりは笛としての機能が無いって事。

 パッと見、ただの棒だったんだけど、その伝説は置いておいても、ご先祖様からの有り難い品だという事で、捨てられる事なく現在まで伝えられて来た品。

 その昔は家の神棚に奉られ、やれ戦だ戦争だ、なんて時には守り刀よろしく守り笛――なんてのがあればの話だけど――として、我がご先祖様達の命を守って来たと伝え聞いている。

 そんなご大層な笛なんだけど、ここだけの話、うちの家族的にはただの御伽話になっていた。

 大体、笛も、うちではなく本家の弘(ひろし)伯父さんの家で保管されていた。

 けれどこの謎の正義の味方集団の為に召集を掛けられた際に、問題が発生。

 本家には、そんな集団に参加出来るようなお気楽な人間なんかいなかった。……あ、これはお兄ちゃんの言葉を借りて言えばだけれど。

 伯父さんは正直、年齢的にも体力的にもあれだし、伯母さんも右に同じな感じ。一人娘の明美(あけみ)さんは、現在、結婚して海外赴任した旦那様について行ってしまっている為、NG。

 それでも、何だか大人達が言うには、鷺沼家に生まれた者としての義務は果たさなくちゃならない、ってな訳で、白羽の矢は見事お兄ちゃんに当たったのだ。

 最初はノリノリで引き受けたお兄ちゃんだったんだけど、謎の集団に参加して一ヶ月程経過した頃、就職活動があるとかであっさりリタイア。

 就職が内定したら直ぐにでも復帰してくれるという約束で、両親や伯父さん達からのプレッシャーの元、嫌々私がその任に着く羽目になったのだ。

 で、ここからが本題。

 何故、先祖伝来の笛を持っていただけの鷺沼家がこの謎の集団に召集を掛けられたのか?

 と言うか、この集団に召集を掛けられた人間は全て先祖伝来の笛――封神笛を所有していたのだ。

 ここからまた更に胡散臭い話になってしまうのだけれど、お兄ちゃんの話によると、この世には、私たちの住む世界の他にも別の世界があると言うのだ。別世界だとか異世界だかとかって言うあれ。

 御伽話の世界なんかでよくある『妖精の国』なんてのを想像して貰えると、分かり易いかもしれない。

 結論から言うと、封神笛は、この異世界である鏡異界(きょういかい)――鏡異界(むこう)の言葉をこっちの言葉に直訳するとこうなるらしい。元々は、鏡異界から私達の住む世界を指して言う言葉だったとか――から来た物らしい。と言うか、あっち製。

 封神笛は、そもそも鏡異界で語り継がれて来た伝説に関係する笛だったんだ。

『伝説の覇者の剣、蒼き世界の五つの音色揃いし時、その姿を現さん』

 何でもこの覇者の剣っていうのが、漫画なんかでよくある『世界征服』的な力があるらしく、その剣がこっちの世界の何処かに眠っているのだという。

 冗談みたいな話だし、鏡異界の人達にしても、その辺は単なる御伽話だと思っていたらしいんだけど……。

 そんな時、鏡異界で大変な事が起こったそうで。鏡異界を我が物にしようとする侵略者が現れたらしい。

 鏡異界は、資源も豊かで環境も良く、しかも今私達が生活している世界より遥かに文明が発達しているんだって。更に信じられないのは、あっちの世界では、こっちの世界で言うところの“魔法”のような物まで発達しているそうだ。

 そこに目を付けた侵略者達も、この世界と鏡異界の関係のように、違う世界から来た人間達だという。

 どうやら彼等の世界は鏡異界並みに文明が発達したかわりに、自然環境の悪化を手に入れてしまったらしいのだ。

 地下で生活する事を余儀無くされた彼等の取った解決策が、新天地での生活だった。

 そして、侵略者が鏡異界に攻め込んで来た際、侵略者はこの伝説の事を知ってしまったらしいのだ。

 丁度その頃、鏡異界の学者達がこの伝説を裏付ける文献を見付けちゃったものだから、話が更にややこしくなっちゃったんだ。

 文献に因ると、この伝説の剣のお陰で鏡異界の歴史上、何度も争いが起きているという。

 その為、平和を願う彼等の先祖達が私達の住むこの世界に剣を隠してしまった、という所迄は、学者達が解読したんだって。

 侵略者=邪衆魔(じゃしゅうま)――鏡異界と同じく、鏡異界の言葉を直訳するとこんな感じになるらしい――は、その情報を元に、伝説の剣が眠っているとされる私達の世界にやって来たのだ。

 そんな彼等を追って、鏡異界の学者を含む数名が、この世界へやって来たのだ。

 実際、邪衆魔達より先に伝説の剣を押さえない限り、鏡異界はもとより、この世界すら危ないから、彼等が行動に移すのに躊躇しなかった。

 彼等は当然、邪衆魔達よりも先に剣を見付け出す旨、行動していたんだけど、その剣を探す過程に於いて、笛の存在に気付いたのだ。

 そう、それが私達が持っている笛、封神笛だったんだ。

 笛を見付けた鏡異界の人間達は、自分達にその笛が使えない事を直ぐに悟ると、更に文献を解読した。

 どうやら笛は剣を守る人間が持つ事により、その力が発動されると言うのだ。

 平たく言うと、笛をご先祖様から受け継いで来た人間にしか、笛を奏でられないし、笛を使いこなす事が出来ないという事らしい。

 また、笛の正当な所有者でなければ、剣を守る事も、見付け出す事も出来ないのだと。

 こうして、私達ディフェンジャーが召集される事になったんだ。

 因みにこの『防衛戦隊ディフェンジャー』って名前は、お兄ちゃんが付けたんだって。

『剣を守る者』=『ディフェンス』+『“レンジャー”の“ジャー”』という事らしい。

『ディフェンス』は兎も角、何で『レンジャー』なのかと尋ねると、「伝統だ」というよく分かんない返事が返って来た。

 因みに、『レンジャー』の他に『マン』という伝統もあると言っていた。益々、訳が分かんないのは私だけなのだろうか?

 ところでお兄ちゃん的には“マン”はどうでも良かったようで、“レンジャー”にするか“ジャー”にするかで、最後までかなり悩んだらしい。結局、ディフェンスとの組み合わせに於いてやむなく“ジャー”を取ったのだそうだ。

 と言うか、それ以前に何で五人いるのに名前が複数形じゃないんだ、って聞いたら「そういう物なんだ」と、一言で返されたけど。

 それにしてもグループ名が二つってどうなんだろう。それについても尋ねてみると、お兄ちゃんはこう言っていた。

「名前が二つあるのは昔からの慣わしだ。特に先の漢字四文字は重要事項で外せないな。○○戦隊は隊の活動内容及び性質を顕著に表していないといけない。かといって、堅い四文字熟語だと小さいお友達に親しまれないからな。その辺のバランスが難しいんだ」

 ……この名前の何処に四文字熟語があるんだろう? それに小さいお友達って誰?

 けれど、お兄ちゃんの力説を聞いていた大学教授をしているお父さんは、いたく感銘を受けていたみたい。

 その後、二人して何故か酒盛りに突入していた。

 ……大人って、ほんっと、分かんない。



     *



「ああ、もー食べられないロカよー」

 家に一個残っていたインスタントの袋入り麺に玉子を落とし、ロッカに丼を差し出して数分後、箸を器用に使って食べ切ったロッカは、満腹の溜め息を吐いていた。

 それにしてもよく食べるよね。どう考えてもロッカの体は手の平サイズなのに、自分よりも体積のあるラーメンを一人分悠々と食べてしまうだなんて……。


「さて、宿題でもするかな」

 ロッカが食べ終えた食器類を洗い終わると、私はそう口にしていた。

 昔からの鍵っ子の癖で、ついつい誰も聞いている人がいないのに口に出してしまう。

「将美、お腹減ってないロカか?」

 満腹だと言ったそばから、不穏な言葉を宣うロッカの台詞を聞かなかった事にして、鞄を持つと自分の部屋に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

防衛戦隊ディフェンジャー きり @kirinya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ