第十二話

 夕日に照らされた橋の支柱。

 沿うように等間隔でつけられたハシゴを見上げる。


「昇んのこれ」


「昇ります」


 あからさまにゲンナリした様子の須藤さんを横目に立ち上がる。

 ボートと言う不安定な足場はそれだけで左右に揺れ。


「もう暗くなるし、別に今からじゃなく後日でもいいんじゃない?」


 勇んで出陣した二人のやる気を削ぐ。

 確かに時間を考えれば日を改めての方がいいだろう。

 まだ明るく日が長い季節とは言え既に日没。加えて橋がそのまま影となって中を薄暗くしている。

 須藤さんの言い分はもっとも。

 私もそれには同意。けれど。


「今夜の雨でまた増水して流されたりでもしたら後日も何も無いじゃないですか。今しか無いんですよ」


 西日の赤が空往く雲を朱に縁取る。

 晴れているけれど、すぐにまた天気は荒れてくる。

 確かめるのなら今しかなかった。


「アタシ的にはそのまま市外まで流れてくれれば手間が省けるんだけどね」


「そんな無責任なこと言わないで下さい」


「アタシの責任は市内限定なの」


 あの夜と同じく川の流れは穏やか。

 ボートは須藤さんがロープ代わりになることでその場に留まっている。

 昇るなら今だ。

 意を決してハシゴに手をかける。

 続く先を見上げる。


「…………」


 橋の中の暗がりの中。

 頑丈な鉄柵と南京錠が見えた。


「……上のあの鉄柵鍵かかってるんですかね」


「掛かってるよ」


「…………スペアとか持って」


「ないよ」


「探せないじゃないですか!?」


 せっかく意気揚々とハシゴの下に来たのに。

 これじゃあ空回りもいいところだ。


「だから今からじゃなくても後日でいいんじゃないって言ってるじゃん!!」


 私の悲鳴にも似た徒労感に負けず劣らずな声を上げて対抗する須藤さん。


「何で持ってないんですか!?」


「そんななんでもかんでも持ってるわけないだろ無茶言うな!!」


「いつも無茶苦茶なのにどうしてこんな時に限って無茶苦茶じゃないんですか!?」


「無茶苦茶なこと言ってんな!? キミ無茶苦茶なこと言ってんな!?」



 それからしばらく口論をして、結局その日はお流れに……なることはなく。


 鍵を持っている所と業者さんに連絡をして橋の中、鉄筋鉄骨が張り巡る裏側、落下防止用ネットに引っかかっているモノを見てもらった。


 ――――ガサッ…………


 勿論私達も下で待機しながら能力を使い捜索の手助けをし。


「すみませんもう少し前、前、右側……そうですそれ! 形的にそれです!」


 かくして石を祀っていたと思われる小屋は半壊状態で見つかり、舟形の屋根が手元に来る頃には夜となり。


 着物姿の幽霊が『いない』橋の上には、小雨がしとしとと降り始めていた。



「やっぱり人手あると楽ですね」


「それな」


 ついでにボートとヒモの回収も手伝ってもらった。

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