第十一話

「つまりあれ? 石だけじゃなく祀ってあった小屋『ごと』こっち流れてきてて、あの着物はその小屋を起因に出てきてるって言いたいのキミは?」


「確証はないですけど」


 橋の真ん中から袂へ。

 車一台くらいなら邪魔にならない道の脇に止めてあるジープから鞄を引っ張り出し、須藤さんは乗らず運転席の扉を閉める。


「んで」


 ファスナーを走らせ出してきたのはあの夜見せてくれた資料。


「この屋根が舟代わりになってどんぶらこどんぶらこ下の小屋と石を沈めたまま運んで来たと」


「それなら距離と時間が合うんじゃないかなって」


 見ているのは白黒写真。

 先日引き上げた石と、舟のような形をした屋根の小屋が写る一枚。


「あー、これなら橋裏の鉄筋に引っかかっててもおかしくないな」


 まじまじ写真を見てぶつぶつ言う須藤さんの隣に並ぶよう歩き、河川敷へ。


「どうですかね私の考え?」


「うん、いい線いってると思う。ただ」


「ただ?」


 資料の入ったファイルを仕舞う。

 目の前には人工の入り江に停めたままのボート。


「それ口にしたってことは思いつきとかじゃなくなにかしら心当たりが他にあったからだとキミの性格踏まえて思ったんだけど、そこら辺はどう?」


 近付いて行き出航準備。


「そんな大それたものは無いですけど」


 ボートは三分の一ほど引き上げられた状態で入り江に放置されていた。


「しめ縄あったじゃないですか? 須藤さんが石に巻いているのと幽霊の両手首に巻いているのが似てるって言っていた」


「うんうん」


 ボートを押し再び水面に滑り浮かべながら話す。


「似物の特徴と照らし合わせて考えると、石に巻かれていた位置があそこなら多分頭か胴体に現れる」


 しめ縄は石にぐるっと巻き付くように装飾されていた。

 それが人に似せるとは言え手首に移るのはちょっと違和感があったし、何より。


「仮に私達の知らない法則が働いて手首に現れたとして、両手首には現れないと思うんですよね」


 巻きが一つなら現れるのも片手首に一つ。

 両手首では特徴が増えていることになる。

 完全に水面へ出たボートを二人四本の腕で引き留めながら続ける。


「だから原因はあの舟みたいな屋根の小屋かもって思ったのね」


「そういうことです」


 恐らく須藤さんも思い浮かべているであろう白黒写真を思い出す。

 石を祀る小屋。


「両端にあるから、それが特徴として両手首に現れた」


 その特徴的な屋根には確かに、石を繋ぎ止めているようしめ縄が巻かれた箇所が二つ存在していた。


「あと気のせいかと思って言わなかったんですが、あの夜下からだけでなく上からも音がしたんですよ。こうっ、木が崩れるような音が」


「いや言ってよそこは」


「すみません」


 ボートが流れていくのを掴んで止めている須藤さんの脇を通って乗り込む。


「まぁアタシもまた能力使って出た距離が前と同じだったのを石の欠片か何かに反応しただけだろでスルーして言わなかったけっどねっ!」


「それ先言って下さっうわっ!?」


「ごめんごめん」


 言わなかったことに対してか飛び乗って来たことに対してか。

 二回言ったからどちらもに対してか。

 短い謝罪と共にモーターに付いた取っ手が引かれエンジンに火が灯る。


「それで、勢いにつられてボート乗ったけど今からどうすんの?」


「それは勿論」


 走り出す駆動音に紛れる声を聞き逃さぬよう受け取り。


「自分の仮説が当たっているかどうか。当たっているなら回収しに行くんですよ」


 自分の考えを述べて。


「いつの間にかノリノリで仕切ってる乙木野のそういうとこ好きって言ったけど、たまに暑苦しいよ」


「何か言いました?」


「いやなにも」


 面舵いっぱーいとヒモを張った時に利用した支柱を指差した。

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