3−3

 ユーシスはラルフの手引きで城に侵入していた。

 アリーシアはグレンの元から自室へ戻ろうとしているところだった。塔を下りると中庭を横切り、中庭をぐるりと囲む回廊を歩く。

 考えるのは先程のグレンとのことだ。

 物思いにふけるアリーシアは、回廊の柱へ手をついた。

 そこで、ユーシスは暗がりから飛び出した。

 アリーシアの手を引き、回廊の柱へと押し付ける。

 ユーシスと共にいたラルフは驚きの声を上げた。

「ユーシス様! 手荒なことは……!」

「分かっている、だが」

「んんっ!」

 アリーシアは口元をユーシスの手で塞がれ、闇雲に腕を振り回した。その手のひらがユーシスの頬に軽く当たる。

 ユーシスは苦笑すると、アリーシアを自身の体で柱へと押し付けた。

 しーっとアリーシアの耳元で優しく囁く。

「怪我をさせるつもりはありません、アリーシア姫。ただ、お話を聞いていただきたい……そのつもりで、このラルフに案内をさせました」

 アリーシアは目だけでラルフを振り返った。

 ラルフはハラハラと成り行きを見守っていたが、そこだけは大きく頷く。一刻も早くアリーシアを開放してほしい、その一心だった。

「そのとおりです、アリーシア様。ユーシス様は、アリーシア様を呪いからお助けすると……」

 アリーシアは目の前のユーシスを見つめ返した。青い瞳は穏やかで、嘘をついているようには見えない。押さえつけられたまま、アリーシアはこくりと頷いた。

「信じていただけたようで良かった……」

 ユーシスはアリーシアを開放した。ゆっくりと身を離す。

 アリーシアはさっとその場から移動すると、ラルフの側へと逃げる。ラルフも、アリーシアの手を握り懸命に謝罪した。

「申し訳ありません、アリーシア様……」

「いいのよ。……けれど、あなたは誰? 何のためにこんなことを」

 アリーシアはラルフの手を握り返しながら、ユーシスを改めて振り返り詰問した。

 ユーシスはマントを手に、優雅にアリーシアへお辞儀した。

「アリーシア姫の故国アルゴンからの使者、ユーシスと申します。元はアルゴン国の東に位置するハイホン国の第4王子、今日はアリーシア様にお話をしたく遥々こちらまで……」

 ユーシスは最後まで自己紹介を終えることができなかった。

 轟音と、咆哮が3人の頭上から轟いた。

「アリーシアから離れろ!」

 竜の姿のグレンが、中庭へと舞い降りようとしていた。

 風が巻き起こり、周囲が闇に包まれる。

 漆黒竜が魔法を唱えて周囲を闇でおおおうとしていた。

「アリーシア姫、離れてください……!」 

 ユーシスがアリーシアを背後にかばった。

「グレン様! 止めてください、こちらは……っ!」

 アリーシアは混乱しながらも、二人から離れて声を上げた。しかし、なにかに掴まっていなければ倒れそうな風圧だった。

(ユーシス様が、アルゴン国の使者? 本当であれば、止めなければ!)

 怒れる漆黒竜は大きく口を開けて、その中に火球を生んでいた。

「大丈夫ですよ、アリーシア姫。こちらには、風のアベムがいる」

 アベム! とユーシスが叫ぶと、彼の肩に一陣の風と共に鷹の姿の精霊が現れた。

 アベムは翼を広げてユーシスの肩から飛び上がる。

 白銀の雪が黒い城内に、中庭中に舞った。

 光り輝く中から現れた姿は、鷹ではなかった。

「竜!?」

 アリーシアは驚いて声を上げる。

 吹き荒れる風の中から現れたのは、白銀の竜だった。

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