白い桜

雨世界

1 応援すること。されること。

 白い桜


 プロローグ


 卒業おめでとう。……もう、大人だね。


 本編


 応援すること。されること。


 県立薄墨高校


 卒業式


 卒業生 灰田白 高校三年生


 私の通っていた県立薄墨高校の校庭には、立派な白い桜の花を咲かせる、大きな(樹齢何百年とかいうすごく古い)桜の木があった。

 毎年、薄墨高校を卒業していく卒業生たちはその白い桜の木の前で、卒業写真を取ることが、伝統行事のようになっていたから、私もみんなと一緒に、その白い桜の木の前で卒業式の卒業写真を撮った。


 みんなで笑って撮った卒業写真。


 白い桜の花びらの舞う、風の強い、三月の日の晴れた日の思い出の写真。

 そんな写真を見ると、なんだか自然と泣き出してしまいそうになる。

(それは私が年をとったからなのかもしれない)


 昔は、(少なくともほんの数年前までは)そんな風にして、ずっと昔の写真を見て、泣きそうになったりすることは、あんまりなかったと思う。(あんまり、よく覚えてないけど……)

 今日、私のずっと、(……本当に)ずっと後輩にあたる薄墨高校の卒業生たち(すごく仲の良さそうな、女子生徒の三人組だった)と川沿いの土手の上にある、道の上ですれ違った。(私が三年間、薄墨高校に通った通学路の道だ)


 彼女たちは、本当に幸せそうな顔をしていた。

 本当に嬉しそうな顔をしていた。


 本当に、……本当に、きらきらと美しく綺麗に輝いて見えた。


 そんな彼女たちとすれ違ったあとで、……自然と、自分の卒業式の日のことを思い出した。


 それから私は、さようなら。……あのころの私。


 と、心の中でそう言った。


 あのころの、(両手の中にある卒業証書の入った立派な筒を、なんだか持て余している、少し困った顔をしている)高校生の私に、さようならを言った。(言えた)

 ずっと言えなかったけど、今になってようやくさようならを言うことができた。私はようやく、今になって、きっとあのころの私を、高校三年生の私を、本当に(なんとか、無事に、平穏に)卒業することができたんだと思った。(大人になるには、すごく、すごく時間がかかるものなのだ。それを私は、大人になってから、初めて知った)


 それから私は家に帰った。


 一人暮らしをしているアパートの部屋に。


 私以外に、誰もいない部屋の中に。


 ただいま。


 と私は言った。


 すると、おかえり、と言って、今の私が、部屋に帰ってきた私を満面の笑顔で迎え入れてくれた。(今の私は、ものの少ないからっぽの部屋の中で雑誌を読んでいたようだった)

 私は、そんな今の私を部屋の中に見つけて、ちょっとだけびっくりしたあとで、そんな優しい今の私に、こんにちは、……今の私。 

 とにっこりと笑って、挨拶をした。

 すると、今の私は、ちょっと驚いた顔をしたあとで、私に、こんにちは、やっと私に気がついてくれたね。嬉しい。とやっぱり満面の笑顔で言ってくれた。


 私が締め切っていた部屋の窓を開けると、部屋の中に白い花びらが数枚舞い込んできた。


 ふと、気がつくと、今の私は、消えていた。


 そこには、読みかけの雑誌が一冊、窓から吹き込む風に、静かに自然と、ぱらぱらとめくれていた。


 三月の日。


 今日はそんなことがあった。


 なんだか、ちょっとだけ悲しい気持ちになった。


 いつの間にか、私は泣いていた。


 泣いてもいい日なんだと思った。


(……だって、今日は私の卒業式の日なのだから)


 白い桜 終わり

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