第20話 とある×出会い②

活動を初めて半年と少し。私の所属するユニット『toalu』はまさかのメジャーデビューを果たす事となった。

しかも、深夜に放送されるドラマの主題歌に抜擢され、宣伝もかなり手が込んでいる。

そのおかげもあってネットでは私達の曲がバズり、その振り付けを踊ってくれている動画も次々にアップされていた。

一分弱の動画は既に数千件以上アップされており、中には有名なインフルエンサーも多く居た。

そのおかげもあってか、デイリーチャートでは初登場三位という快挙も成し遂げた。

「すごーい!まさかここまで色んな人に聞いて貰えるなんて思っても無かったよー!!!」

浮かれた声で、‪アルは嬉しそうにはしゃぐ。

それは私も同じ気持ちだった。

何より、私一人じゃこんなに沢山の人に歌声を届ける事は出来なかったと思う。

私をスカウトしてくれたアルへの感謝はいつだって増していく一方だ。

「そういえばこの前マネージャーさんから、ファーストライブの話が出てたね。」

と、アルが不意にそんな話を持ち出す。

「って言っても、私達顔隠してるからライブとか出来ないよね?」

ネットでバズり、今大注目の歌い手アイドルとして私達は様々なメディアで取り上げられている。

toaluが段々と世間に知られるようになっていく中、遂にファーストライブの開催が決定した。

そんな中、アルと打ち合わせをしていると、私は不意に疑問になった事がある。

そう、私達は素顔を隠して活動をしている。だからライブなんかで顔を出す事に多少なりとも抵抗があった。

何より私は現役の高校生。高校にこの事がバレたら騒ぎ所の話ではない。最悪退学だって……。

「勿論、その点は抜かりありません!今から送るデータ見て見て。」

その言葉に従うように、私はパソコン上に現れたデータをクリックしてみる。

液晶画面に映し出されていたのは、青い髪に月の瞳をした女の子の3Dアバターだった。

「これは……?」

「直接顔を出さなくても、これならアバターを使ってライブをする事が出来るでしょ?」

それは、今ある最新鋭の技術を詰め込んだものだった。

私達の動きが反映され、この3Dのアバターが同じ動きをする。しかもほぼリアルタイムで。

「これならネットを繋いで、私とトアが同じステージに立っているように見せられるでしょ!」

アルの自慢な声がイアホン越しに聞こえてくる。

凄く楽しそうな声に、私は思わずそれを尋ねてしまった。


「——アルは、私と一緒に歌ってくれないの?」


アルの声が一瞬、トゲに刺さったみたいに小さな声が漏れた。

「私はずっとトアと一緒に歌ってきたじゃない。」

「そう、じゃない……。アルは、私と一緒の場所で歌ってくれないの?」

「……それ、は……。」

アルがその答えを詰まらせている。いつもはあんなに気さくな彼女が、戸惑っている。多分困っている。

顔を見ていなくても、それは直ぐに分かった。

そして、彼女がその理由を言わないのでは無く、『言えない』のだとも、何となく悟った。


「——いつか、いつかは……会える、よね?」


私のその質問に、アルが答える事は無かった。

私はそれ以上アルの事について尋ねることもしなくなった。

私とアルはネットを通じて出会って、ネットを通じて色々な話をした。

だから今、アルがリアルの話を隠している事を私は悪い事だとは思わない。

一緒にユニットを組んで、デビューをして。その間アルはずっと、アルのままだった。

だからリアルがどうであれ、私の中でアルはこれから先もアルのままだ。

それでも、アルが私に隠し事をし続けるというのなら、その理由は単純だろう。


それはただ、私が彼女の隣に立つ資格がないから。

一緒に歌を歌って、一緒にステージに立って、一緒に笑い合える。

そんな『いつか』は絶対にやってくると、私は信じている。

だから、その日のために私は少しでも強くなろう。立派な人になろう。

そして、その日が来たのなら。アルに会えたなら。


それから私達はスタッフの方を含めて入念な打ち合わせを重ねた。

『ここの照明は……』

『この時の演出は——』

『折角3Dライブなんですから、ここは……』

私やアルよりも周りの人達の方がとても真剣で、私はその空気に気圧されていた。

その道を進んできたプロの手を借りるというのは、とても心強い。

「トアさん、少し合わせてみましょうか。」

「あ、はい!」

アルとは通信を繋いで、スタッフさんの指示で合わせる。

「アル、ここのセトリ逆にしてみない?」

『いいね、それ!ならここの繋ぎはもう少しシリアスな感じにしてもらおうか。』

アルと私、そして大勢のスタッフさん達。

こうして何度も何度も皆で色々な事を話し合いながら、ライブを完成系に近づけていく。


——そうして、いつの間にかまた少しだけ時間は流れて行った。



『トア。準備はいい?』


ゆっくりと、その時は近付いてくる。

アルが耳元で話しかけてくれるから、不思議と緊張はしていない。

それどころか、凄く楽しみで心臓が高鳴っている。

少し前だったら、緊張で体が震えて絶対に逃げ出したいって考えていた。

こんな事を思えるようになったのは、アルと出会ってから。

アルと出会って二年。色々な事があって、でもその全てが不思議と楽しくて。私はアルと出会えて良かったって思っている。

今は、それだけで十分。あとは……そうだな。

優太、来てくれているかな。あの頃に比べたら凄く笑顔が増え気がする。よく喋るようになったし。

アルがいて、優太がいて、私を待ってくれているファンの人達がいる。


『——行こう!!』


歓声が上がる。大きな重圧感のある音が空間を支配していく。

今私の隣にはアルがいて、客席には優太がいて。

姿は見えなくても、私を支えてくれている。


「うん。私達のステージに。」


これが、私がアルと出会ってからの記憶。

何だかんだ、長いようで凄くあっという間だった。

でも、toaluはここから始まっていく。


——これは、いずれ日本一の頂点へと上り詰める二人のアイドルの、とある奇跡の物語。

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