第18話 とある×出会い①

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——凄い。いっぱいの声が耳の中に入ってくる。


ただの高校生だったはずなのに、今、私はステージに立とうとしている。

私の歌を楽しみにしてくれる人が沢山いて、そのみんなが私に会いに来てくれた。

不思議と緊張はしていない。

心臓がとくん、とくんと動く音が頭の中にまで響き渡って、それに合わせる様に体も軽くなっていく。隣に誰も居なくても、私にはあの子が見える。

私の世界を変えてくれたあの子がいるから、心強くてリラックス出来てる。

『トア。準備はいい?』

右耳にはイアモニをつけて、左耳のイヤフォンからはアルの声が聞こえてくる。

「——うん。大丈夫だよ。」

アルの声を聞くと、どうしてだかなんでも出来そうな気がする。

ゆっくりと深呼吸をして、私は目を開けた。


『行こう!!』


そうして、幕は上がる。私達の歴史が新しく動くその瞬間、私は思い出していた。


——私がアルと出会った時の事を。



時は遡る事、私が中学生の時。

中学三年生で受験を控えていた私は、周りの張り詰めた空気に飲まれていた。

教室内はどこか重く、冷たい空気が流れている。

家に帰っても、毎日のように勉強、勉強、勉強。

息が出来なくなるような日々の中、私は息抜きに友達とカラオケに行った。

「おたの歌、めっちゃ綺麗じゃん!ねえ、歌ってみたとか動画出してみないのー?絶対人気になるよ!」

友達の、そんな何気ない一言が全ての始まりだった。

お父さんのパソコンと、お小遣いで買った安いマイク。

ネットで調べた知識だけで歌を撮って、動画を上げた。

週に一度、なんの加工もしていない歌をネットに上げ続けていた。

けれど、全く動画は伸びなかった。再生回数は数百回。

歌を上げる人なんて沢山いるのに、その中で自分が星のように輝く事など出来るわけもない。

受験も、もうすぐで本番だ。なら、こんな遊びもここまでにしよう。

次に出す歌で、こんな子供じみた事はやめて、受験に専念するんだ。



そう思っていたその時だった。



私のSNSに一通のメールが届いたのは。

『初めまして、私はアルって名前で活動している者です。』

凄く驚いた。アルといえば、私も知っている超大物歌い手。

チャンネルの登録者数は九十万人。歌の動画を出せば再生回数百万回は当たり前。

歌以外にも、トークをしている動画も良く出している。

元気でポップで、The女の子みたいな明るい声。

いつもポジティブで、コメント欄ではいつもアルの歌に感激したファン達の言葉で溢れかえっていた。

私でも知る、有名な歌い手。たまに地上波とかにも声で出演したりしてるし……。

そんなアルが、私にメールをくれた。

『私、貴方の歌を聞いた時からファンになったんです。実は今度、ユニットを組んで活動してみようって話になって……私は貴方と一緒にユニットを組んでみたいんです。』

そのメールに返事をした瞬間、私の世界は大きく色を変えていった。

遠くに輝く眩い太陽のようなアルが、私に声をかけてくれた。私の歌を好きだと言ってくれた。

こんな奇跡は二度と無いだろう。このチャンスを逃したら私はきっとまた、息が詰まるような日々に戻る。そんなのは嫌だ。

私はすぐにそのメールに返事をした。それが全ての始まりだった。


『——是非、参加させて下さい。』


こうして、私達は出会った。

私の活動名でもある『トア』と『アル』を組み合わせて出来たのが『toalu』。

「安直すぎるかな」と私が尋ねたら、「そんな事ない!めちゃめちゃ素敵!」のアルが背中を押してくれた。

アルのネームバリューもあり、toaluは瞬く間に人気に火がついた。

私の個人チャンネルもどんどん登録者数が増えていき、過去に歌った動画は全て再生回数五十万回を突破した。

toaluとして活動を初めてから半年程で私は高校生になった。

隣町の私立高校に通う事になった私は、それまでとは比べ物にならないほど多忙で、前も後ろも分からなくなるくらいただ、走り続けた。

学校に電車で通って、授業を受けて、toaluのトアとして歌も歌って。

訳も分からなくなるくらい、私はただ毎日を生き続けて。

——気が付けば、何もかも考える事をやめていた。


『じゃあ次の歌う曲は、リクエストの多かったあの歌でいい?』


アルとのやり取りは基本的にメールか、電話だけ。

私達はお互い顔を見た事も無い。

「うん、それでいいよ。」

『トア、ここの所元気無いよー?最近疲れてるの?』

知り合ってまだ日も浅いというのに、どうしてだかアルには私の全てがお見通しだった。

「疲れてるのかな、私。なんだろうね、最近一日が過ぎるのが凄く早くて……。頭が追いつけてないって感じる。」

『疲れてるの、それ!ちゃんと休んでる?無理してると後々響くからね、しっかり寝なさいよ!』

「アル、お母さんみたいな事言ってる。」

『なら、お母さんの言うことはちゃんと聞きなさい!お尻ペンペンするわよ!』

アルはいつも元気で、私を励ましてくれる。

こういう風に冗談を言ったり、たまには褒めてくれたり。


「じゃあ、いつか会った時は覚悟しておく。」


そんな、何気ない言葉だったけれど。

その『いつか』はこの先やってくるのだろうか。

私はアルに会ってみたい。きちんと顔を見て色々な話をしたい。

アルと電話をした後はいつだって、『アルはどんな顔で笑うのだろう』と想像してしまう。

けれど、アルからその話を持ち出さない限り、私から話すつもりは無い。

だからもし、アルに会える時が来たなら、その時は……。


疲れきった頭の中でそんな妄想には花を咲かせている時だった。

不意に何かを思い出したかの様に、アルが声を上げる。

「あ、そういえばさ。私達、——メジャーデビューする事になったから。」

さらりと、何気なくアルはその言葉を口にする。


「……え?」


もしかしてやっぱり私疲れてる?なんか今、アルの口からとんでもない言葉が出たような……。

私の聞き間違え?今メジャーデビューって……いや、まさかそんなはず——

「だーかーらーメジャーデビューだってば。私達、デビューするの!CD出すの、色んなところで歌も歌えるの!」

「……うそ、だよね?」

「こんな時に冗談言ってどうするのよ、本当の話。」

「だ、だって……え?言われなかったよそんな事……。」

言われた事が未だに信じられない私に、アルは「だから今言ったでしょ」とため息を着いた。

「……本当?」

私のその言葉に、一つも間を置く事無くアルは即答する。


「——本当。」


高校生になって約三ヶ月。もうすぐで夏休みがやってくる。

高校最初の夏はどうやら少しだけ、想定していたものとは違うらしい。

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