第3話

【第3章~思い付き~】

大学院の修士課程を出た後、私は非正規社員として働いている。恋愛や結婚など無縁だ。


だから、私は某人数の多いアイドルグループの握手会に頻繁に参加し、擬似恋愛をしている。まあ、それはここでは深く話さないが…


しかし、無駄に格差社会に関する本は読みあさったりしていたため、多少の知識はあった。


その中で、私が特に興味を持ったのは雇用形態や年収と結婚率の関係だった。男性の結婚率は年収や雇用形態に比例するというもので、非正規社員の男性ほど結婚するのは厳しいという見解が多くの専門家から出されている。


しかし、私は専門家の見解など机上のデータだけで、社会学では欠かせないフィールドワークを通して、非正規社員が結婚することが厳しい現状を調査した人はいないのではないかと考えていた。


そんな時、私は大学時代の友人Aに突然、六本木の居酒屋に呼び出された。


ちょうど2018年12月24日だった。年の瀬に、しかも、クリスマス・イブ。


宗教意識の乏しい日本では聖なる夜が、淫乱なカップルたちの性なる夜になり、休憩所で大暴れしている頃だろう。


Aと待ち合わせた居酒屋に行くと、彼は失恋した話をし始めた。


失恋は辛いだろう。しかし…恋愛や結婚とは無縁の私になぜ相談をしたのか。相談する相手を完全に間違っていると思った。


私は「よし、一緒に握手会に行こうか!」と言ったが、結局は街コンや婚活パーティーに参加することになった。


その時、ふと思い付いた。


「非正規社員が雇用形態を隠して高スペック男子を気取ったら、ワンチャン彼女できるんじゃね?」


「たしか、恋愛や結婚は年収や雇用形態と関係があるみたいな統計データがあったよな?それをフィールドワークで確かめたら面白いんじゃないかな」


「確かに、非正規社員ってことをカミングアウトした女性とは全員上手くいかなかったよな」


そこで、私は「非正規社員の男性が雇用形態を隠したら彼女ができるのか」という実験を行うことになったのだ。


実験は2019年2月から始まることになる。場所は東京・丸の内。

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