第7話 仲間

「あなた達は一体、何者ですか・・・・?」第一声は美穂のこの質問から始まった。


 特工科の研究室に五人の婦人警官が並んでいる。美穂は特工科の教室に戻ってすぐに、ナオミから美穂の体に戻っていた。


 カプセルの中にナオミの体が保管されている。それはまるで気持ちよく眠っていいるかのようであった。

 ムツミ・ミコトは以前違う場所で会ったが、他の女性たちは美穂が初めて見る顔ぶればかりであった。

「ナオミ・・・・・・、いや美穂ちゃん、人の事を聞く前に先に自分の紹介せなあかんねんで」ムツミが言葉を返した。さきほどまで、人形のように固まった状態であったがすっかり回復したようであった。

「うっ・・・・・すいません、私は、大久保 美穂といいます。この度は助けて頂いてありがとうございました」美穂は深いお辞儀をした。

 美穂を見て彼女達は一様に微笑んだ。


 五人の少女達は自分達の事をバーニと名乗り、それぞれが異なった能力を持ち仲間同士で長所と短所を補い合って活動をするそうだ。


 まず初めに前に出たのは赤い髪の幼さの残る可愛い少女ミコトであった。人の頭の中を読んだり、記憶を操作する能力を持っている。彼女に掛かればどんな人でも心を操られてしまうそうである。


 緑の髪で大阪弁を話す少女はムツミ。全身が武器になっており、指先からレーザーガン、掌から衝撃波など、体中の様々な箇所に色々な武器が隠されており、攻撃が可能との事。本来は惑星開拓などで掘削や爆破が必要な時に使う能力であったそうだ。彼女の全身が武器の塊なのである。


 白銀の髪で名家の令嬢のような少女はシオリ。普段は見えないように隠しているが彼女は大きな翼を開いて空を飛ぶ事が出来る。武器は弓矢。彼女はメンバーを引率するリーダーであり、バーニの頭脳のような役割を担っているそうだ。様々な計画の立案が彼女の仕事である。


 青い髪で水を自在に操っていた少女はイツミ。水中での活動が得意。水を自在に操る事ができて水圧を上げて攻撃をする事が出来るそうだ。空中の水素などを結合させて水を作る能力もあり地球上では、ほぼ無限に近い水を手から出現させることが可能である。


黄色い髪でさばさばしたボーイッシュな雰囲気の少女はフタバ。イツミとは対照的に炎を自由に操る能力を持つ。対局にある能力の二人であるが彼女達が対になって行う炎と水の攻撃が強力なのだそうだ。また、彼女はバーニの中で一番の怪力の持ち主大きな車くらいなら一人で持ち上げる事ができるということである。


 5人の少女はそれぞれ甲乙付けがたい超美人で、アイドルだと言っても十分、通用する位の美貌を備えていた。 

 美穂もナオミの体であれば対抗できるが、今の体では足元にも及ばないと感じた。本当に神様を呪いたい気分になった。

「お前たち・・・・・、まだ、活動していたのか・・・・・・」北島教官が驚愕の表情を浮かべて少女たちと対峙している。それは畏怖にも似た表情であった。 


「なんや、今の言い方!ウチら生きていたら、あかんみたいな言い方やな!」ムツミは、飴玉をコロコロ口の中で転がしながら北島教官の言葉に食って掛かるように突っ込みを入れた。


「いやっ、そういう訳では・・・・・・」北島教官は言葉を詰まらせた。気まずい空気が部屋の中を流れる。


 ガチャと音をさせて、部屋の扉が開いた。入室してきたのは野澤女史であった。

 野澤は少女達の姿を見たかと思うと、持っていた書類を床に落とした。少しの沈黙の後、床に散乱した書類をムツミが拾い手渡した。

「久しぶりやな」ムツミがニコリとほほ笑んだ。

「あ、ええ、そうね。申し訳ありません・・・・・・、ちょっと、気分が悪くなったので・・・・・・失礼します」野澤は、少し気分がすぐれないという事で部屋を退出した。その行動を見てムツミはフンッと鼻を鳴らした。


「十年ほど、氷点下の氷の中で眠っておりましたが、この通り元気にさせていただいております」シオリは先ほどの北島教官の質問に答えるように言った。北島教官は無言のままであった。「時間は掛かりましたが、自己修復して戻ってまいりました」言葉から何か事故でもあったのだろうかと美穂は訝しんだ。


「それでは先程の事件は、まさか・・・・・・あいつが」北島教官は何か思い当たる節があるようであった。

「そうよ。あれは一騎の仕業よ」シオリが言葉を続けた。

「一騎も生きているのか、でも、なぜ一騎があのようなことを・・・・・・?」北島教官は大きく目を見開いていた。

「十年前の事故も一騎の仕業だ!俺たちが、北極に落下した未確認物体を調査しにいった隙に、研究所を爆破した・・・・・・!」フタバは男のような激しい口調で吼えた。その拳で傍にある壁を叩いた。

「まさか・・・・・・!一騎は何の為に?」北島教官は信じられないといった顔で聞く。

「私達の本当の体を抹殺して、自分の仲間に取り込む為よ」青い髪の少女イツミ。彼女は比較的冷静のようであった。

「一騎は人間に復讐する為に、自己の力を強化しようとしている。まず組織作り、それを強化する為に私達を自分の配下に置こうとしたの。でも、私達はそれを拒否した」シオリは目を足元に落とした。


「未確認物体の情報自体が一騎の捏造ねつぞうだったのよ。そんなもの初めから北極にはなかったわ」ミコトはセクシーなバーニ達の中で一人だけ幼児体系であった。彼女は下から見上げて言葉を口にした。

「自分の最大の敵になるであろうと予測される私達を北極の氷の中に永久に閉じ込めようとした。でも、一騎の策略に気が付いた私達は奴と戦って一緒に北極の氷の中に閉じ込めた」シオリが補足する。彼女はメンバーのまとめ役のリーダーのようであった。

 ムツミはポケットに手を差し込み、新しい飴取出して口の中に放り込んだ。

「それが、このところの温暖化により通常解けるはずの無い氷まで解けて、私たちと一騎は長い眠りを経て日本に帰ってきたのよ」イツミは椅子に腰かけて足を組む。

「そうか・・・・・・しかし、なぜ一騎はあの施設を襲ったのだ?」北島教官が身を乗り出して質問した。

「私たちを作成した時の設計図を探していたようよ。あそこのホストコンピューターを検索したあとがあったから・・・・・・」シオリは目を閉じて呟いた。

「ウチらが逆らったから、別にバーニを作って自分の仲間を増やす気やったんや」ムツミは関西弁で怒りを露わにしている。

「なるほどな・・・・・・しかし、それは不可能だ」北島教官は何かを自慢するように言葉を発した。なぜか心なし胸を張っているようにも見える。

「そう、設計図はもともと無い。設計図は北島教官!貴方と貴方のお父様の頭の中だからですね」シオリは北島教官を指差した。

「そうだ。設計図などもともと無い。いや、私や父には必要が無い!すべて頭に記憶しているからな!」北島教官は誇らしげに言う。それを見てバーニ達は顔を見合わせて少し呆れているように見えた。


「でも、間違いもあったやろ?」ムツミは相変わらず飴玉を転がしている。その言葉は何か意味深に聞こえた。

「そっ、そのようだな・・・・・・」北島は眼鏡を外し野澤の方に目配せをした。彼女はその視線を逸らすように下を向いた。

「ところで、今回は学校でカムフラージュしてるって訳ね」ミコトは可愛らしい声で話題を変える。「私たちの時は、宇宙開発研究所みたいな所だったのに、今回は凄く砕けた感じよね」ミコトは後ろに手を組むと首を傾げて微笑んだ。

「色々事情があってね・・・・・・国からの予算は認められているが、大っぴらには表にだせないのだよ」北島教官は先ほど外した眼鏡のレンズを丁寧に拭いた。

「木の葉を隠すなら、森の中ね・・・・・・ 私たちも、こちらを拠点にさせて頂いてもよろしくて」シオリは、どこかの令嬢のような口調で北島に迫った。

「それは、仕方が無いだろう。その代わりお前たちにもバーニとして仕事をしてもらうぞ」磨き上げたレンズの具合を確認してから外していた眼鏡を再び両耳に掛けた。

「学生の身分もお願いしますね」ミコトが要望を追加した。

「わかった、編入手続きをしておく。この特工科の生徒としてな」北島教官は部屋を出て行こうとする。

「あんた、小学生の部に行かなアカンのとちゃうんか?」ムツミは横目でニヤリと笑いながらミコトの顔を見下ろす。

「あーん!!」可愛らしいミコトの顔が一瞬にして鬼のような形相に変わった。


 「大久保君にはしばらく伏せておいてくれ」北島教官は去り際に他のメンバーに聞こえない位小さな声でムツミに耳打ちした。

「解っているって・・・・・・、でもいつまでもそんな事誤魔化せへんで・・・・・・」ムツミは目を瞑りながら小さく頷いた。


「なあ、美穂ちゃん!」ムツミが美穂の肩に手を回して話しかけてきた。「ウチら校内を案内してや!」先ほどまでの話し合いと違いかなり砕けた感じだ。

「でも・・・・・・ その格好では・・・・・・」ムツミ達は婦人警官の服装のままである。

「あなたの制服をイメージすれば良いのね」五人が一斉に自分の肩を握った。

「まぶしい!」その瞬間五色の光が室内を照らしつくした。

 イツミとシオリは、美穂と同じ制服。 

 とても似合っているのだが、着こなしが格好良すぎて美穂と同じ制服とは思えない。 

 ミコトは婦人警官の制服の時と同じく、中学生が背伸びしている感じ、これはこれでマニア心をくすぐりそうである。


 ムツミは、スカートの丈が足首まであるそれはセーラ服であった。昔、生息したスケバンと呼ばれる人種のような姿である。

「ちょっと、そんな風紀を乱すような格好は良くないわ!ねっ美穂お姉ちゃん!」ミコトが可愛く微笑みかけてくる。

「そうですね・・・・・・ そのスカートはちょっと・・・・・・」さすがに今の時代にこのようなスケバンは存在しないであろう。

「そんなん、ちんちくりんの服着た奴に言われたくないわ!」ムツミの言葉が美穂の言葉を遮りミコトを攻撃する。


 ブチッ!


 何かが千切れるような音がした。ミコトの様子が変化していく。

「あんだと!ゴラァ!もう一回言ってみろ!」怒涛のような声が響く。声の主は・・・・・ミコトだった。その顔はいつもと違い鬼のような形相だった。

 この子は怒らせてはいけない存在だとこの時、美穂は確信した。

「おう!いつでも、やったるでえ!」ムツミが袖を捲くりあげながら応戦した。蝶のように舞い華麗なシャドーボクシングを見せた。

「おんどりゃ!この、くそアマが!」そこにはもう天使のような少女は存在しなかった。

「やめなさい!あなた達!」シオリの言葉で、場の空気が変わった。振り上げた拳を二人ともゆっくりと下ろした。どうやらシオリには二人とも頭が上がらないようであった。

「ところで、フタバ。あなたの格好は、なんですの?」シオリが口にした言葉にみんなの視線が一気にフタバに集中した。


 それは真っ黒の・・・・・・、学ランだった。

「いや、俺はこっちのほうがいいかなと思ったんだけど・・・・・・、だめかな?」

「だめ!」五人が一斉に駄目出しをする。 


 フタバは不服そうな顔をした。


 二人が正常な制服に変わったあと、校内を案内することになった。校内はすべての授業は終了しており既に放課後となっている。

 この5人を連れて校内を歩いていると、回りの視線が痛いほど飛んでくる。

 見たことの無いトップモデル級の少女達5人が防工の制服を着て歩いているのだから、注目するなという方が無理な話だ。生徒の中には携帯電話で写真を撮る生徒までいる。

 ちなみに、校内への携帯電話も持ち込みは校則違反である。一人、場違いな雰囲気を味わいながら美穂は皆を案内した。ドーンと突き出たムツミの素晴らしい胸が眼に入る。


「はぁ~・・・・・」自分の胸を見ながら美穂は深いため息をついてしまった。


「美穂さん、どうかなさって?」シオリは美穂の様子を敏感に感じ取って聞いた。

「いいえ!なんでもありません。あっはははは・・・・・・」美穂はシオリの問いかけを笑いで誤魔化した。


 何気なく遠くを見ると、廊下の遥か前方から見慣れた顔が走ってきた。

「み~ほ~」それは狩屋有紀だった。「おひさ~!」彼女は美穂に飛びついてきたかと思ったら、またいつものように胸を揉みだした。


「あっ・・・・・ ちょっと、やめてよ!!みんなの前で!!!」激しく揉まれ美穂の顔が赤くなる。

「秘技!乱れモミ!」有紀は更に激しく胸を揉みまくる。

「あっ・・・・・・ああ!」美穂は思わず卑猥な声を出してしまった。


 おおっと、周りから歓声があがっている。

「なっ、なにをしてるんだ!嫁入り前の娘が!」フタバが慌てた口調で怒った。

「まあまあ、スキンシップやがな!なぁ」ムツミがフタバを制止する。

「そうでーす!」有紀は悪びれる風も無く返答した。

「ほんなら、私のも揉んでええで!」ムツミは有紀に向けて胸を突き出した。やはり、つんと上を向いた見事なバストだ!


「えっ・・・・・・ いいんすかっ?」有紀は生唾をゴクリと飲みながら聞いた。

「もちろん!これも仲良くなる為のスキンシップやもん」ムツミは、早くと言わんばかりにプルプル胸を振って急かした。

「それでは、ご遠慮なく!」有紀はムツミの大きなバストを遠慮がちに揉んだ。

「あっ・・・・・・!」ムツミの色っぽい声が響いた。 


「こっこれは、すごい!」有紀は助平な親父のような声を上げた。

「あっ、あんたかなりのテクニシャンやなぁ・・・・・・」ムツミは頬を赤らめて感想を述べた。

更に歓声の音量が大きくなり「私も!私も!」と学生たちが群がってきた。

「俺も!俺も!」その中に紛れて男子達の姿もあった。廊下はどこかのイベント会場のようになった。シオリ達は呆れた様子でその場を眺めていた。

 なんとか、パニックは治まり校内案内の続きを継続する。有紀も一緒に同行することになった。

「先輩達は、前から防高においでだったのですか?」有紀が質問を投げかけてきた。


「私たちは、5人で海外留学していたの。留学期間が終了したので、今日から特工科へ復学することになったのよ。久しぶりだから大久保さんに色々教えてもらっているの」シオリがそれらしい言い訳で答えた。

「へー、いーな!美穂はこんなに素敵な先輩と後輩ができて・・・・・・、私も特工科に移りたいな!」止めておいたほうがいいと思います。と美穂は言いそうになった。


 ミコトは幼く見えるので後輩ということになったようだ。

 必然的に、シオリ、ムツミ、フタバ、イツミは三年生、ミコトは一年生ということになったようだ。ちなみにナオミは美穂と同じ二年生の設定となる。

 クラブ活動が見てみたいとのリクエストがあったので、いくつかのクラブを見学してみることとなった。


 防高は前にも言ったが、文武両道に主眼を置き、優秀な自衛官を輩出することを目的に設立さえた国立高校である。各部活とも優秀な選手が大勢在籍している。

 シオリの希望により、弓道部を見学することになった。

 男子、女子の部員が的を狙い、弓を放っている。少し練習の風景を眺めたあと。

「私も少し、参加させて頂いてもよろしくて」シオリが弓の腕を披露してくれる事になった。

「更衣室を教えてください」更衣室の場所を確認するとシオリは着替えに向かった。

(着替えもっていたのかな・・・・)しかし、その心配は無用であった。


 更衣室の扉の隙間から神々しい光が見えたと思ったら、中から白い道着・袴・胸当てを装備したシオリが登場した。

(うっ、美しすぎる・・・・・・ ) 弓道部員たちも唖然とした表情で釘付け状態になっていた。

 シオリさんは射的場に立つと弓道の作法のようなものを行ってから矢を構えた。的までの距離は三十メートルほどだろうか。

 

 シオリが矢を放った。


 矢は予想通り的のど真ん中に命中した。見学の生徒達の歓声が上がったが、顧問の先生が静粛にとのジェスチャーをした。続けて二射目。 一射目と同じ軌道を描き、一射目の矢の矢羽の真ん中に命中し半分に裂きながら的にめり込んだ。同じ事が、三射目、四射目と続くと声を発する者はいなくなった。

 弓を打ち終わると、シオリは腰に両拳を当てながらゆっくりお辞儀をした。

「そろそろ、行きましょうか」シオリの言葉で現実に引き戻された。


 美穂たちは、執拗に入部を勧める顧問をかわして次の部活へ向かった。


 激しくボールを打ち合う音がする。

 コートの中を激しく駆け抜けるカモシカのように美しい足。右へ左へとボールが飛んでくる方向にステップしていく。その動きは、まるでボールの飛んでくる場所がすべて分かっているかのようだ。


 心地よく焼けた褐色の肌が健康な色気を漂わせている。

適度にラリーを続けたあと、弾丸のようにボールを打ち返した。

 テニスラケットを握りしめた男子が激しい弾丸を受けきれずに体ごと後方に飛ばされる。

「フタバさん凄い! 」

「サーティーンラブ! 」

 コートの中には、テニスウェアを見事に着こなしたフタバがラケットを構えている。

さきほど、吹き飛ばされた男子が立ち上がり構えた。

 フタバは新しいボールを受け取ると、二・三度地面にバウンドさせたあと、高く上空に投げた。ボールが頂点に達したところで、フタバもジャンプしボールをサーブした。

 皆は宙を舞うフタバの周りを蝶々が舞っているような気がした。

 放たれたボールは激しいスピードでネットを越えていった。

 男子は全く反応できず、ボールは地面をバウンドした。

「フォーティーンラブ! 勝者 特工科、フタバさん!」審判が名乗りを上げた。

 ちなみに、敗れた男子はインターハイ出場選手である。


「おー、これこそ私が夢見た、男子も羨むパワーテニスだ!」グレーの上下ジャージを着た部活顧問が絶叫する。

「わー! かっこいいー!」試合が終わりコートに流れ込む生徒たちに部活顧問は踏みつけられた。

「なはははは!」フタバは天秤のようにラケットを肩に背負いながら豪快に笑っていた。

「次に行きましょう」シオリの言葉で一行は次の部活へと向かった。


 すでに、美穂たちの歩く後は、パレード状態となっている。男子・女子を問わずハーメルンの笛吹きに出てくる子供達状態である。


「ここは・・・・・」ミコトが、ある部活に興味を示した。

「あぁ、ここは盤上遊戯部よ。将棋・チェスなどのボードゲームを研究するクラブで、全国大会にも何人もの生徒を輩出しているの。学生チャンピオンもいたはずよ」防高はスポーツだけではなく、文科系の部活も活発である。

「私・・・・・やってみていいかな?」ミコトが恥ずかしそうにお願いしてきた。

「よし、僕が相手をしてあげるよ!」さきほど、話した学生チャンピオンである。

「うん! ありがとう。お兄ちゃん!」天使のような笑顔で返事をした。

学生チャンピオンはテレながら、将棋の駒を並べ始めた。

「ちっ!」ムツミさんの舌打ちが聞こえたような気がした。


 時間は経過していく。


「王手!」可愛い声が部室に響く。

「むむむ・・・・・・まっ、参った・・・・・・」学生チャンピオンが項垂れる。

 これで、チャンピオンの五戦五敗であった。

 はじめこそは、手加減をして半分デレデレした顔で将棋板よりも、ミコトの顔を見ていたチャンピオンも一手進む毎に表情が険しくなっていった。


 一回負けた時は、笑いながら誤魔化そうとしていたが、その手は明らかにプルプル震えていた。

 考えてみれば、ミコトちゃんは相手の心が読めるのだから、次の一手、さらにその先も簡単に判るはずだ。そう考えるとチャンピオンが気の毒になってきた。


 その後、チェスの達人、オセロの猛者、双六の王様などが挑戦してきたが結果は同様だった。

「おー!すげー!」また生徒たちから歓声が上がった。

「マグレですよ。マグレ」ミコトは可愛く舌を出した。

「ちっ!」また、ムツミの舌打ちが聞こえた。

 ミコトが一瞬、キッとした目でムツミを見たような気がしたが、彼女はすぐに天使のような笑顔に戻った。


「次に行きましょう」三度シオリの声で一行は、盤上遊戯部の部室を後にした。


 再び、運動場へ・・・・。

「あれは、プールかしら?」イツミが聞いてきた。

「はい、水泳部が部活中です」美穂は比較的控えめなイツミが質問をしてきたので一瞬驚いた。そういえば彼女は水を自在に扱える能力を持っていることを思い出した。

「水泳か・・・・・私も泳いでみたいわ」軽く髪をかき揚げた。

「おー!」周りの観客から歓声が上がる。

「判りました。担任の先生に頼んでみます」

「水着に着替えておくからヨロシクねー!」イツミは、セクシーにウインクをした。

 何人かの観客はその場で失神したようだ。

「また、自信喪失者を増加させていくのね」何か悪いことをしているような罪悪感に襲われた。

 プールにはスクール水着を着た部員達が練習している。担任の先生に事情を話すと快く了承してくれた。

 有紀に伝えると、早速イツミを呼びに走っていった。

 周りを見渡すと、教室の窓、フェンスの上で観客が覗き込んでいる。

「なっ、なんだ!」担任の先生は奇声のような声を上げた。


イツミの登場であった。


「おー!」「キャー!」黄色い声と歓声が入れ混じった声がグランドを駆け抜けた。

「イッ、イツミさん!なんですか・・・・・・、それは?」

「えっ、セクシーでしょ!」イツミは唇に指をあて、セクシーなポーズをした。周りで鼻血を噴射させて倒れていく男子生徒が見えた。

「そっ・・・・・それは」私が指差した先にいるイツミさんの姿は・・・・・・ 。

水色のセクシーな水着。さらに透き通るような白い肌がエロスを際立たせている。

「僕たちを奴隷にしてくださーい!」叫ぶ男子生徒もいる。

「イツミさん・・・・・・なぜ、スクール水着じゃないのですか?」私は淡々と聞いた。

「えー!だって、絶対こっちのほうがセクシーでしょう?」水泳部の男子達が、なぜかみんな前屈みの状態になっていた。

「先生、すいません・・・・・・」振り向いて謝ると、担任は出血多量ですでに失神していた。

「さあ。泳ぐわよ!」イツミはいきなりプールに飛び込んだ。飛び込む姿は、キラキラと反射した光が輝きを放っていた。

 クロール・バタフライ・背泳ぎと美しい泳ぎを披露していく。その姿はまるで人魚を連想させるようだった。


「綺麗!」水泳部の部員達も見とれてしまったのと、自分の泳ぎを人に見せることが恥ずかしくなり、泳げなくなってしまった。

「あ~楽しかった!」プールサイドに両手をかけて、イツミは水上へ体を移動した。

 持ち上げられた体と一緒に当然濡れた瑞々しい二つの胸が激しく揺れた。

 また、数人の男子生徒が出血多量で保健室へ運ばれていった。

「次に行きましょう」もう、お決まりのようにシオリが呟いた。一行は再び旅に出た。


 校舎の中を一行は歩いていく。

 ムツミは、両手で頭を抱えながら、相変わらず飴玉を転がしている。

「ムツミさんは、なにか挑戦しないのですか?」

「う~む、特に興味がないかなぁ・・・・・・」彼女は頭の後ろで腕を組んで天井を見上げている。 

「あそこが、良いのではなくて?」シオリが指した先には・・・・茶道部の文字。

「茶道部!・・・・・・ですか?」美穂は驚きを言葉に表した。

「そうよ」シオリが満面の笑みを返してくれた。ムツミは、伸びをしながら大きな欠伸を一回した。


 美穂と有紀、そしてシオリ達は畳の部屋で正座をしている。

 シオリは正座する姿も美しい。背筋がキュッと伸びて上品を絵に描いたような姿だ。

 なぜか、フタバは一人胡坐を組んでいた。下着がギリギリ見えない状態であるが、外野の男子生徒数人がしゃがんで覗きこもうとしていた。

 フタバは指をさして「このスケベ!」と言って笑っていた。


 障子が開きムツミが綺麗なお辞儀をした後、ゆっくりした動作で部屋に入ってきた。

 部屋の中央まで進み、膝下の着物を手刀できると美しい仕草で正座をした。ムツミは、綺麗な和服に身を包んでお茶を点てている。

 緑色の髪を後ろで束ねてウナジがいつもにも増して美しい。女の美穂達も見とれてしまい釘付け状態になってしまう。

 ムツミが、両手で茶碗を持つと美穂の前に差し出してきた。

 前に、テレビか何かで見たように茶碗を持つと、二回ほど掌の上で回した後、一口飲み込んだ。

「結構なお手前で・・・・・・」

 この言葉で良いのかどうかは美穂には解らない。

「はぁ~」数人の女子高生が失神して倒れてしまったようだ。保健室はまた大繁盛であろう。

 全員にお茶をご馳走すると、軽く微笑んでからムツミは再び美しいお辞儀を見せた。

 これは、本当にムツミなのかと疑わしくなった。

「それでは、今日はこれでお開きといたしましょう」最後の締めの言葉もシオリであった。


 あっという間に、ナオミの存在も全校に知れ渡り、特工科の七人は「特工エンジェルズ」と命名された。


 ちなみに、付け加えておくが私こと大久保美穂もエンジェルズの一員に数えていただけるそうだ。


 後でこの事を知った北島教官は呆れた顔で「勝手にしろ・・・・・・」と言ったそうだ。

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