19枚目 デザートの時間

 お姉ちゃんも帰ってくる気配もなく、私たちはクーラーボックスからコンビニで買ったクリームプリンを出して食べるのでした。


「何か面白え盤が聴きてえなあ。誰か持ってきてない?」


「面白い盤って漠然としてるわね。そもそも面白いって何かしら。」


「て、哲学的な話になってきたね!?」


 そこでぼーっとプリンを食べて固まっていたヒメちゃんがハッとして言った。


「あ、あたし持ってきてるわ。ってかスマホに入ってるわ。このまま流すか。」


「お、待ってました~!良いの頼むよ~!」


 すると多分日本語なのだが、日本語の文法としても、単語としても何やら聞き慣れない叫び声が聞こえて、サイケでファンキーなオケに歌謡曲風のメロディーが乗ってきました。


「え、いや、なにこれ!?」


「何か、何か日本語っぽい言葉で言ってるけど日本語じゃない!」


 何を言っているかわからないかも知れないけれど、日本語ではないのです。「山だね、私もだ、山山」ってなんだろうこの歌詞……。


「ええ……、「やまもと、もとください」って何!?」


「おいちょっと待て!"Kono Samourai"って言ってるこの曲、これ聞き覚えがあるぞ!間違いねえ、Erykah Baduの"The Healer"のイントロだ!え、元ネタ!?」


「よくわかったな、これはフランスのプロジェクト、Yamasukiの唯一のアルバム、"Le Monde Fabuleux Des Yamasuki"だ!私はAndy Votel主催の辺境発掘レーベルFinders Keepers Recordsのリリースで知った。」


「や、Yamasuki!ヤマスキって何!?山好き!?」


「黒帯柔道マスターの助けを借りて全歌詞を日本語(?)で書いた似非日本ポップだ!因みにYamasukiの片割れ、Daniel VangardeはDaft PunkのThomas Bangalterの父親だ。何やってんのって感じだが、ユーモアセンスは父親譲りなのかも知れん。」


「結構クセになるわね、このメロディーといい、オケといい。」


「ねー、踊れるよこれ~!"Aisere I Love You"の愛せれアイ・ラブ・ユー、喜びアイ・ドゥって歌詞、かわいい~!愛せれって何活用なんだろう。」


 笑い疲れてしまうくらい笑って、不思議とクセになる愛嬌のある曲に合わせて踊りました。


☆ ☆ ☆


Yamasuki - Le Monde Fabuleux Des Yamasuki - 1971

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