第5話 獣人の治療方法って……
私はクラーナに連れられて、町から外れた場所に来ていた。
そこで目に入ったのは、とある家。
「ここが……クラーナの家?」
「ええ」
この家が、クラーナの家のようだ。
小さいけど、普通の家だった。
「いいから、早く入りなさい。治療しないと、あなたの手が……」
クラーナは、私が怪我しているからか、かなり焦っている。
まあ、血が出ているし、当然だろう。
私も、そろそろ痛いので、さっさと中に入る。
「わあ」
中は、かなり綺麗だ。
クラーナは、結構な綺麗好きなのだろう。
「そこのソファに座って、待っていて。今、薬と包帯を出すから」
「うん、よろしく」
私は、ソファに座る。
ふわふわで、座り心地のいいソファだ。
そんなことを考えていると、すぐにクラーナが駆け寄り、隣に座ってきた。
「さあ、手を出しなさい」
「うん」
そう言われて、私は手を出す。
ここで、私はクラーナの行動に疑問を覚えた。
てっきり、タオルなどで血を拭いてくれるのかと思ったのだが、クラーナは私の手に口を近づけてきたのだ。
「ペロ……」
「へ!?」
私が疑問に思っていると、傷に生温かく湿った柔らかいものがあたった。私は、痛みとともに、驚きの声をあげる。
「どうかしたのかしら?」
私の声に反応して、クラーナがこちらに目を向けてきた。
「いや……どうして、舐めているの?」
「どうして? 何かおかしいのかしら……?」
クラーナは、目を丸くして驚いている。
どうやら、彼女の中ではこの行為は普通らしい。
「き、汚いよ?」
「そんなことないわ。それに、仮にそうだとしても、気にしている場合ではないわ」
クラーナの目は真剣だ。
その目を見ていると、ここで私が、人間の常識がどうとか言うのは無粋な気がしてくる。
そのため、クラーナを止めるのはやめることにした。
「……ありがとうね、クラーナ。よろしく頼むよ」
「ええ、任せなさい」
私の手から出ている血を、クラーナが舐めとってくれる。
痛いのと、恥ずかしいのと、その他色々な感情を押さえつつ、クラーナの作業が終わるのを待つ。
「……ペロ」
「ううっ……」
私はどういう表情で、この瞬間を過ごせばいいのだろう。
「ペロ……」
「……ああ」
クラーナの作業は、滞りなく行われる。
治療のためなので、手際がいいのだろう。
「さて、これいいわ」
「あ、ありがとう……」
やっと終わってくれたようだ。
「いいのよ。次に薬を塗るわ」
「うん……お願い」
クラーナは、薬を塗ってくれる。
「痛……」
「大丈夫、すぐに終わるわ」
さらに、手早く包帯を私の手に巻いていく。
「これで、大丈夫よ」
「あ、ありがとう」
これで、私の治療は終わったようだ。
なんだか、舐められている時間だけ、ものすごく長かったような気がする。
「それで、しばらくは安静にするのよ」
「うん。でも、これじゃあ、ご飯も食べられないな……」
「あ……それもそうね」
そこで、何気なく放った一言で、クラーナの表情が変わった。
「その……あなたって、一人暮らしかしら?」
「あ、うん、そうだよ」
私は、幼い頃に母を亡くして以来、一人暮らしだ。
父については、知らないし、知りたくもない。
それなのに、人は私をその父の娘として見てくる。
それは、嫌なものだ。
私が、そんなことを考えていると、クラーナが思わぬ提案をしてきた。
「そう……それなら、あなた、今日は、泊まっていきなさい」
「え?」
「その手では、満足に生活できないわ。治るまで、私が補助してあげるから」
それは、ありがたい提案かもしれない。
帰っても不便だし、何よりクラーナと生活するのは楽しそうだ。
「それじゃあ、お願いするね」
「ええ、任せなさい」
こうして私は、クラーナの家で、しばらく過ごすことになるのだった。
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