第4話 痛くても、守りたいから

 私とクラーナは、討伐した魔物の毛皮などを換金していた。

 今は、受付の人が、お金を持って来てくれるのを待っている。


 まあ、ただ待っているのも暇だし、クラーナに話しかけることにしよう。


「よかったね、高値になって」

「ええ、デビルベアって、あんなに高値になるのね……」


 デビルベアの値段に、クラーナも驚いているようだ。

 でも、これだけの値なら、きっと喜んでいるだろう。


「……あなたにも、半額ってことでいいかしら?」

「え?」


 クラーナは、分け前にことを気にしているようだ。

 そんなこと気にしなくてもいいのに。


「いいよ。全部、クラーナの分で。助けてくれたお礼だって、言ったよね」

「でも……」

「でもも、何も無いよ。私の気持ちなんだから、受け取って」

「そんな……悪いわ」


 クラーナが、少し困ったような表情になってしまった。

 この表情も、中々可愛いなあ。


「あん? お前……」


 私達のそんな話を、一つの声が遮った。

 ゆっくりと振り向くと、そこには見覚えがある顔がある。

 

「アノンじゃねえか。なんだ? 獣人?」


 それは、グラッサとその仲間達。私を追い出した、ムカつく奴らだった。


「おい、おい。俺等から抜けたと思ったら、今度は獣人とパーティか?」

「はは、罪人の娘と獣人なんて、お似合いだな」

「それより、薄汚い獣人と罪人の娘なんて、ギルドに入れないで欲しいわね」


 グラッサ一行は、口々に私達を罵り始める。

 そのせいで、クラーナが悲しそうな顔になってしまった。

 なんて嫌な奴らなんだ。

 

 文句を言うことも考えたが、やめることにした。こんなのは、相手するだけ無駄だ。

 そのため、私はクラーナが安心できるように、話しかけることにした。


「クラーナ、こいつらの話なんて、聞く必要ないからね」

「え?」

「無視したらいいってこと。受付の人がお金持ってきたら、すぐに出て行こ?」

「……そうね」


 グラッサに怯んでいたクラーナだが、私の言葉で明るい表情に戻る。

 そうそう、あんなの気にするだけ無駄なんだ。


「なんだ? その態度?」


 しかし、グラッサは、私達の態度が気に食わなかったようである。

 グラッサは剣を抜き、私達に向けてきた。


「なんのつもり?」

「罪人と獣人なんて、この世界に必要ないんだよ!」


 なんて奴だろう。ここまでするような奴だとは、流石に思っていなかった。

 仕方ない。ここは、応戦するしかないようだ。


「死ねえ!」

「なっ……!」


 グラッサの剣が、クラーナに振り下ろされる。

 クラーナは、いきなりの攻撃に驚き、動けないようだ。


「させるか!」


 私は、クラーナと剣の間に入り込む。

 さらに振り下ろされる剣を、両手で受け止めた。


「何!?」

「こんな程度!」


 手から、血が流れ出るが、そんなのは気にしない。


「おおっ!」

「馬鹿な!?」

 

 私は剣を払い落とさせ、右手を握りしめる。


「喰らえ!」

「ぐげえっ!」


 そして、そのまま右手で、グラッサの顔面を殴りつけた。

 グラッサの体が、後方へと吹き飛んでいく。


「ぐえっ!」


 グラッサは、そのまま床に叩きつけられ伸びたようだ。


「てめえ! なんてことを!」

「よくもグラッサを!」


 それを見て、グラッサの仲間達が次々に構え始めた。

 まったく、そっちから仕掛けておいて、なんて奴らなんだ。


「デビルベアの料金を……って! なんだ、この騒ぎ!?」


 そこで、受付の人が戻ってきた。

 この現状に驚いているようだ。


 その時、グラッサの仲間達が顔色を変える。


「デ、デビルベア?」

「じょ、冗談よね……」


 ああ、そういうことか。

 どうやら、デビルベアを倒したということを聞いて、びびっているようだ。

 なら、こちらから真実を伝えてあげることにしよう。


「本当だよ。私達二人で、デビルベアを倒したんだ」

「そ、そんな……馬鹿な」

「なんなら、受付の人に聞いてみれば?」


 グラッサの仲間達は、しばらく私達と受付とを交互に見る。


「お、覚えておけー!」


 そして、そのままグラッサを拾って逃げていった。


「クラーナ!」

「えっ!?」


 私は、受付の人からお金の入った袋をとって、クラーナの手を引く。


「ちょっと待て! 騒ぎの理由を!」

「ごめん! 急いでいるから!」


 受付の人が引き留めてきたが、構わず駆け抜ける。


「あなた、理由を話した方が……」

「ギルドであれくらいの喧嘩、日常茶飯事さ。それに、あそこに残っていてもいいことにはならないよ?」


 こういう時に、周りの人間は私達に味方しないだろう。

 そのため、逃げる方がいいと判断した。


「それは……」

「ところで、これからどうしようか。あ! ごめんね、こんな手で握っちゃって……」

「こんな手? あ、あなた!?」


 そこで、クラーナは目を丸くする。

 私の手からは、血が出ていた。驚くのも、無理はないだろう。


「私のために、こんな手になって……」

「それはいいんだ」

「良い訳ないわ! こんな危ないこと、したら駄目よ!」


 クラーナは、目に涙を浮かべていた。

 悲しませるつもりはなかったのに、困ったなあ。


「とにかく、私の家に行きましょう。そこなら、ゆっくりと治療できるわ」

「わ、わかったよ……」


 こうして、私はクラーナの家に向かうのだった。

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