第4話神獣視点

 何を申しているのだ、この娘は?

 この神域に人間を襲うような悪食はおらんぞ?

 ああ、余が以前命じた時の事を言っているのだな。

 もう十数年も前の話ではないか。

 あれは愚かな人間が、数千の軍勢を派遣させてきた時の事であったな。


 あれ以来人間も愚かな真似はしなくなったから、よい教訓になったのであろう。

 問題はこの娘をどう扱うかだが。

 もう主人になってしまっている。

 普通の人間なら、嵌め手で罠にかけてでも殺して絆を断つのだが、神々が選んだ聖女相手では、そのような事もできぬ。


 まあ、よい。

 人間の寿命など余の生涯から考えれば瞬きの間ほどの事。

 従ってやるのも一興よ。

 それに、聖女に呪いをかけたモノの事も気になる。

 神々に逆らう真似をした奴を探し出す必要がある。


 神々の中で争いが始まっておるのかもしれないし、神々の使徒の中に、神々に成り代わろうとしているモノがいるのかもしれない。

 堕天した者達が復活しようとしているのかもしれないし、神獣の中にこの世界で君臨することを考えているモノがいるのかもしれない。

 もしかしたら、他の世界の神が介入しようとしているのかもしれない。

 どちらにしても面白いことになる可能性が高い。

 まあ、この者には話しておいてやろう。


「わん」


「まあ、なんてかわいらしい鳴き声なの!」


 ああああああああ!

 何たることだ!

 この聖女が余の事を犬と認識してしまったから、犬同然の声しか出ぬではないか!

 これはいかぬ!

 神獣としての力まで失ってしまったのではないか!?

 至急試さねばならぬ!

 可哀想だが、力まで失ってしまっていたら、この娘は殺さねばならん!


「わん。

 わん、わんわん!」


 ああ、よかった!

 力は失われていない。

 どういう事が原因で、どういう理論なのは分からぬが、鳴き声が犬になってしまっただけだ。


 だがこれだけですんでいるのかどうか不安だ。

 至急すべての力を試さなければならん。

 こんな状況で他の神獣が力試しに現れて、使えるはずの力が使えなかったら、神獣界で笑い者になるような、情けない死を迎えることになってしまう。

 雷を呼び、嵐を巻き起こし、地獄の業火を再現する。


 だが、その前にこの娘に安全を確保しておかなければならない。

 力を失っていたら殺して力を取り戻すが、力を失っていないのなら、この娘の力を確かめる必要がある。

 普通の聖女に、神獣の余を犬同然にする力などあるはずがないのだ!

 その力の源というか、原因を確かめておかないと、不安で仕方がない。


 神々の気紛れや争いに巻き込まれるのは、もうこりごりだ!

 神狼と呼ばれた余の一族も、神龍と呼ばれた友の一族も、神々の身勝手に巻き込まれて滅ぶ寸前にまで追い込まれておる。

 この娘の力の源が分かれば、神々に気を使う必要がなくなるかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る