第3話神獣視点

 余は神獣である。

 神々に次いでこの世界で貴き身である。

 いや、神々は直接世界に介入できないから、余たち神獣が一番貴く強いといえる。

 その余の神域に汚らわしい人間が入り込みおった!

 これまでも再三再四汚らわしい身で神域に入りこんだので、厳罰に処してやったにもかかわらず、愚かにも何も学ばずまた入り込みおった。

 今度も神罰をくだしてくれよう!


「まあ!

 なんてかわいいのかしら!」


 何なのだ、この娘は!

 貴き余の身体を撫でまわしおって!

 神々しく美しい余の身体に執心する気持ちは分かるが、卑しき人間の身で気安く触るでない!


 やめよ!

 やめぬか!

 耳を触るではない。

 耳は弱いのじゃ!


「神々しいまでに美しい純白の毛並み。

 ふわふわと真綿のように柔らかな手触り。

 まるで花のような香しく甘い香り。

 野生の犬とは思えませんわ」


 おのれ!

 人間ごときが余の事を犬と言いおって!

 神罰を加えてくれる!

 だが、まあ、撫で終わる前は待ってやる。


 おい、こら、やめよ!

 腹は駄目じゃ!

 腹は神々にしか見せたことがないのじゃぞ!

 やめよ!

 やめるのじゃ!

 気持ちよくて声が出てしまうではないか!


 いかぬ!

 このままでは汚らわしい人間に籠絡されてしまう!

 人間の魔手に捕らえられてしまう前に、神眼で動きを封じねばならぬ!


 なんと!

 この娘は聖女ではないか?!

 人間から聖女が選ばれるなど、何百年ぶりだ?

 いや、前回人間から選ばれたのは千年以上まえではないか?


 だがこの娘、呪われておるではないか!

 何者かの呪詛で、聖女の力を封じられておる。

 いったい何者が聖女の力を封じおったのか?

 神々の聖なる力を封じるなど、人間業とは思えぬが?


 あ?!

 しまった!

 不覚である!

 余ともあろうものが、考え事をしている間に、腹をとられてしまった!

 腹を撫でられてしまうと、服従してしまうではないか!


「ねえ、私、魔境に追放されてしまいましたの。

 カデンには強がって見せましたが、正直不安ですの。

 一緒にいてくださいませんか?

 そのかわりといっては何ですが、名前を付けて差し上げますわ。

 純白の毛並みがとても美しい貴方は、今日からハクですわ」


 ああああああああ!

 主従関係が発動されてしまったぁぁぁぁ!

 汚らわしい人間ごときに、神獣である余が臣下となってしまった!

 絆ができてしまった以上、余が直接この者を害することはできない。


「ハク、私、正直に言えば、このまま魔獣に食べられる覚悟をしていましたの。

 でも、ハクを巻き込むわけにはまいりませんわ。

 せっかくお友達になれたのに哀しいですが、お別れしなければなりません」

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