2.―4歳 ―思い出すのも突然に

 その事実を覆す方法を探し出すのよ!!



 ………そう、意気込んでいたのに、何も出来ないまま、4年の歳月が流れてしまっていた。


 あぁ………なん足る無念…!




 この頃になると、彼女アデレード記憶わたしとは、少しなら意思の疎通を図ることが出来るようになっていた。


 アデレードが、言葉を話せるようになって、より、複雑な思考が可能になってきたから…とも言えるけど、彼女と私とには、大きな隔たりがあった。


 一つ、彼女には、今のところ前世の記憶は無い。


 二つ、彼女は現在、発動可能な魔法を持ち合わせてはいないと言うことだ。


 全属性なのに、魔法が反応しない。これっぽっちも!


 聖女であるはずなのに、聖属性魔法が動かない。1ミリも!!


 一体全体、どう言うことなのか!?

 私にだって分からないわ……。


 でも、私なら使える。


 前世の記憶を持つ私と、前世の記憶は無いアデレード。


 違うのは、この点だわ。


 一つの体に、二人の私……?


 大人の私と子供のアデレード。


 今のこの状況も、私にしたって初めてだわ………。


 一体全体、何なのよ―――っ!!




 ◇◇◇◇




 4歳の秋。

 5歳に成るまで…後、半年。


 その日、アデレードと、二人の兄は父の供で時計屋の前に来ていた。


 父方の祖母の思いでの品、今は亡き祖父から贈られた、オルゴール付きの時計を修理しに来たわけだ。

 父は、奥で店主と話があるそうで、アデレードは兄達と店内の時計を見て回っていた。



「アディー、あっちにも可愛い時計があるよ」

 7歳年上の長兄、オルドー・フィン・ファルファーレン。栗毛色の癖の有る髪と、緑の瞳の少年が、淡いピンクを基調にした小さな花飾りをあしらった置時計を指差して、見せる。


「こっちのも、アディーの部屋には合うと思うよ」

 5歳年上の次兄、クレイル・オッドー・ファルファーレン。ライトブラウンの髪と、薄緑色の瞳の少年が、可愛らしい二匹の兎が抱えるデザインの小さな時計を指差した。


 二人とも、見目が整っていて、毎日が目の保養になるのよね♪


 ………とは、完全に熟成仕上がりな、記憶体の私の思考だけど…。


 これが、チビッ子アディーに知れたら、なんと思われるか……。


 その辺りは、深く干渉されない今の状況に感謝よねっ!?


「お兄様達も、自分の部屋に、合うものを探したら良いのに~」


 幼女らしく、少し舌足らずな感でアディーが、可愛く二人の兄に言葉を返す。

 すると、二人の兄達は、目尻を下げて優しく微笑む。

「アディーは、優しいね」

「アディーの部屋の物を探すのが、楽しいから良いんだよ」


 二人とも、チビッ子アディーには、激甘だったりするのよね。


 何処かに出掛ければ、アディー中心に動いちゃうからね。

 年の離れた美少女な妹って、立場的に美味しいポジションなのかしら?



 ボーンッ、ボーンッ、ボーンッ、ボーン………。


 大きな置時計の振り子が鳴り、アディーは、その振り子に視線が向いていた。





「ア……アディー?ど、どうしたの!?」

「え………アディー、何で泣いているの??」


 幾ばくかも、経たないうちに彼女の瞳には、大粒の涙が浮かんで、その白いふっくらとした頬を伝い流れ出していた。


 二人の兄達は、訳もわからずオロオロするばかりだった。



 ∝∽∝∽∝



『どうしたの?アディー』


 私は、泣いている小さな女の子に話しかけた。


「あ、あ、あのね……町が壊れていくの。そっ…れで、私…の体が、起きれなくてっ、消えて…いくの……」


 町が壊れる……?

 体が起きれなくて、消えていく………?


 ――――――!!!!


 記憶に、重なる光景が浮かんできた。



 なるべく彼女を刺激しないように、穏やかな声音で、聞いてみる。


『誰か、そこに居るの?』


 何かを、確認するかのように、苦しいものを反芻はんすうするかのような苦悶の混じる表情で、彼女は答えた…………。


「………ヴァ……ル…………?」


 ――――――イヴァル



 アディーが、今思い出したのは、アールスハインドの崩壊の時ね。

 自分が死ぬ……死の瞬間の記憶から思い出すなんて…。こんな小さな子が思い出すには、ちょっと酷では無いかしら?


 その日、アディーはそのまま泣き疲れて眠りに落ちてしまった。




 今日のことで。微かに分かった事は、小さなアディーにも、前世の記憶と言うものを思い出す素因が、有ると言うこと。


 ……でも、それが何を意味するのかは、その時はまだ……私にも分からなかった。


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