第1話:始まりの春。

ここは、大阪市内の天王寺てんのうじ阿倍野あべのエリアで、物語の舞台の高校、「私立鈴ヶ丘学院天王寺高等学校」も、ここ、天王寺地区にある。


入学式も終わり、4月も1週間ほどが過ぎたとある平日のお昼休み。

この物語の主人公・悠生飛鳥が教室から出て廊下を歩いていると、後ろから声がかかった。


「あーっすかっ!」

「あ、まこちゃん、なぎちゃん。」

「どこ行くんー?」

「学食ー。」

「ヒドいやんか、声かけてぇな。」

「ごめーん。」


飛鳥に声をかけて来たのは、飛鳥のクラスメイトだった。

一人は、飛鳥の中学からの親友・楠木真琴くすのきまこと、もう一人は、高校で仲良くなったクラスメイト、安宮渚やすみやなぎさだった。


3人は、学食へ行く途中の廊下で、それぞれの彼氏の話題で盛り上がっていた。


「なな、聞いてぇな。昨日な、彼氏がな、またエッチ求めて来てん。今週何度目?って感じやで、ほんま。」


と、歩きながら渚が話す。


「えー?」と、真琴が返す。


「オトコってさ、ほんま、エッチすることしか頭無いんかいな?アホやな、ホンマ。」

「そうなんや、ウチの彼氏もそうやわ。」と、真琴。

「まぁ、真琴はモデルやっとるし?これだけの美少女やもん、彼氏もエッチしとって気持ちえぇやろな。」

「そんなこと…。で、エッチしたん?」

「したで?しゃーないやん。真琴の彼氏はこんな頻繁にエッチ求めて来る?」

る時とぇへん時半々かなー?」

「そっかー、それくらいがえぇよなー。」

「うん。」

「ウチんとこなんか2日に一回はやってるもんなー。それもあれやで?一回出すだけやったら物足りんらしくて、一回したらサイテーでも3回は出してよるわ。」

「え、それって、中出しとか?」

「うん、それも生で。そんな何回も連続でされたら体持たんわ。疲れるだけや。」

「マジでー?危なくない?」

「今のとこはなー。でもゴム付けてくれへんしなー。」

「そうなんやー、大変やな。」


ここまで主に会話しているのは、渚と真琴だった。


「なぁなぁ、悠生さんの彼氏は?エッチとか。」

「え?わ、私?私は、そんなんおらんし…。」

「そうなんか?かわいいのにな。」

「あ、この子、今まで彼氏とか作ったこと無いから。」

「えー?マジ?ほな処女なん?」

「え?あ、う、うん。」

「凄いやん。ウチの彼氏に話したら絶対したがるわ。あはは。」

「え、渚ちゃんの彼氏、処女好きなん?」

「らしいで?」

「はぁ…」と、真琴と飛鳥はびっくりした。


そんな話しをしている間にも3人は学食へ着き、食券を買う券売機の列に並んだ。


「なぁまこちゃん?」

「なんや飛鳥。」

「部活、どうする?」

「部活なー。ウチ、入っても仕事あるからそんな出られへんかもやで?」

「そっか…。」

「飛鳥は何したいん?」

「私はまた吹奏楽やろかな、って。」

「吹部なぁ。」

「まこちゃん一緒やったら心強いんやけど。」

「まぁ入ってもえぇけど、仕事の時はごめんやで?」

「うん。」

「なんや?」部活の話しか?」

「そう。渚ちゃんは?」

「ウチは帰宅部でえぇわ。ほぼ毎日彼氏と会わなあかんし。」

「そか。」


そして3人はそれぞれ食べたい食券を買い、それを厨房のおばちゃんに渡して、メニューが出て来たら、適当に空いてる席に座り、またそれぞれの彼氏の会話で盛り上がっていて、ふと、渚が、あるテーブルに一人で座ってノートパソコンを触っている男子生徒に目が行った。


「なぁなぁ、あの人、ちょっと雰囲気良くない?」

「どの人?」

「ほら、あの、パソコンしてる人。」

「あー、なんか落ち着いてて優しそうやな。ってか、渚ちゃん彼氏おるやん。」

「まぁ、なな、悠生さんは?あの人。どう?」

「んー?あんまよう分からん。」

「なんなんその反応。」

「この子中学からこんなんや。」

「そうなんか。」


そして3人は、食事を終え、食器を返却棚に戻し、中庭に出た。


「ほな渚ちゃん、ウチら、吹部の申し込み行って来るわ。」

「はーい、行ってらー。」


そして2人は渚と別れ、部活勧誘をしているエリアへと向かい、吹奏楽部のテーブルの前に立った。


「あの、私たち、吹奏楽部に入りたいんですけど…。」と、飛鳥が言う。

「ようこそ、吹奏楽部へ!ご希望の楽器とかあります?」

「私たち、中学でも吹奏楽やってて、3年間クラ吹いてました。」


すると、上級生らしき女の子の生徒が、こう言って来た。


「今ね、木管パート少ないの。そやから、クラやってくれると助かるわ?そちらの方も同じ?」と、真琴にも話しかける。


「あ、はい、私もクラやってました。」


「じゃあこれパンフレットね。土曜日の午後から新入生歓迎会あるから、良ければ参加してね。」

「あ、はい、ありがとうございます、失礼します。」


そう言って2人はその場から去り、教室へと戻り、午後の授業を受けた。


新学期が始まり、まだ授業も短いので、学校も早めに終わる。

終わりのホームルームのあと、飛鳥が真琴に話しかけた。


「なぁなぁ、あとでちょっと吹奏楽部、覗きに行かへん?」

「えぇけど、響香からLINE来てたで?」

「なんて?」

「ほら、HOOP(フープ)のスタバで待ってるでー、って。」

「もう、響香ちゃん、いつもやん。」

「しゃあないやん、あの子だけガッコ違うんやし。ほら行くで。」

「うん。」


そう言って2人は教室を出て廊下を歩き、昇降口で革靴に履き替え、商店街を抜け、JR天王寺駅のコンコースを抜け、あべのHOOPの2階にあるスタバへ入った。


きょろきょろと響香の姿を探している2人を見つけた女の子が飛鳥たちの名前を呼んで手を振った。


「おーい、飛鳥ぁ、真琴ー!こっちこっち!」

「あ、響香ちゃんおったで。」

「そやな。」


そして2人は、響香の元へ向う。


「あんま大声で名前呼ばんといて、恥ずかしいやん。」

「何言うてんねん。」

「とりあえずなんかうて来るわ。行こ、飛鳥。」

「うん。」


そして2人はドリンクを手にして再び響香の元へ戻った。

響香が飛鳥たちに話しかける。


「なな、ガッコどうや?慣れたか?」

「まぁ、ウチは、飛鳥と同じクラスやし、せんせも面白い人やから楽しいで?あんたは?」

「ウチも、隼人と同じクラスやしな、ガッコもきれいやし、楽しいわ。やっぱ鈴ヶ丘凄いな。」

「そやなー、ガッコちごても鈴ヶ丘はどこも綺麗なんやな。天王寺も綺麗やわ。」

「そっかー。で、部活どうしたん?」

「あぁ、ウチらは吹部や。」

「また吹奏楽入ったんか。」

「うん、この子にせがまれてな。」

「ちょ、まこちゃん、私そんなこと言ってへんやんか!」

「あはは、ごめんごめん、で、響香は?」

「ウチ?軽音部入ったわ。」

「おー、で、それか。ギターやろ?」

「うん、おかげ様でギター担当やわ。」

「良かったやん。」

「まぁなー。」

「今日、藤原君は?」

「あぁ、あの子は部活や。」

「部活、吹奏楽?」

「そやな、まぁおじさんたちが入れゆったらしいしな。」

「あの子の家、音楽家族やからな。」

「そやなー。」

「なぁ飛鳥?」

「なにー?」

「あんた、そろそろオトコでも見つけたらどうや?」

「なによ響香ちゃん、いきなり。」

「いつまでも彼氏無しやったら寂しいで。」

「そんなん言うても響香ちゃん、私のお父様知ってるやろ?」

「まぁー、な…。あのおじ様やったらオトコとか作ったら何言われるかわからんな。」

「そやろー?あ。」

「どうした?」

「今日、用事あったん。」

「なんの?」

「ちょっと買い物。」

「ほんまかー?」

「うん、なおにいとな。」

「あー、なお兄か。」

「うん。そやから今日はこれで帰るわ。」

「あぁ、うん。ほなな。」

「ほなまこちゃん明日またガッコでな。」

「うん、気ぃつけや。」

「はーい、じゃあ響香ちゃんも、ばいばい。」

「はいよー。」


そう言って飛鳥は2人の元から去り、HOOPを後にした。

阿倍野の地下街を歩いている時に、飛鳥は頭の中でこんなことを呟いていた。


「あぁでも言わんかったらいつ開放されるか分からんしなー。どうせよ彼氏作れとかうるさいし。てか私に彼氏なんか無理なん知ってるくせに。」


などと、ボーっと考えながら歩いていると、地下街でサラリーマンの男性とぶつかり、「す、すいません。」と言い、焦りながらその場から逃げ、上町線うえまちせんのり場へ向い、電車に乗って一人で家に帰った。


飛鳥にとって、疲れた一日が終った。

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とある2人のストーリー 碧井心咲 @aoi-misaki

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