第2話
「勇者ギルドアカデミー・ソルディア校」校舎前。
富裕層のエリアの更に中心部に、その学校はありました。
「ふわあぁぁ~…。これが勇アカ…。校舎大きいぃ~!」
ユウコが勇アカの校門の前に着いた時、そこには誰も居ませんでした。
ユウコは校門の前に立ち、校舎を見上げます。
ソルディア校の校舎はお城の様な外観をしており、その敷地面積は「闘狂ドーム」30個分位はある様に感じられました。
(しかしユウコは、「闘狂ドーム」に行った事が無いので、「闘狂ドーム」1個分がどれくらいの広さなのか分かりません。30個分という広さは、適当に言ってみただけでした。)
校舎の大きさを目の当たりにしたユウコは、途端に臆病風に吹かれます。
予想を超える建物を目にする事で、自分の存在の小ささを、突き付けられた様な気がしたのでした。
”勇者として活躍する自分の姿”のイメージが、消し飛んでしまいました。
(ふおおお…。な…なんか急に怖くなってきた…。や…やっぱり入学するの、辞めようかな…)
なんて考えが、一瞬頭をよぎります。
(いやいやいや!”勇者”は困難に立ち向かう勇気がある人の事!ここで逃げたら、きっと私は一生勇者になれないよ。逆に言えば、ここで逃げさえしなければ、私はもう勇者になったも同然なんだよ!ふおおぉぉ…!)
そんな事で勇者になれるという事実は、1ミリもありません。
しかしユウコは、腰に差したオモチャの剣を握りしめ、そう自分を奮い立たせると、のっしのっしと「勇者ギルドアカデミー」の校門をくぐって行きました。
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「勇者ギルドアカデミー」敷地内の中央広場。
ユウコが新入生の入学式会場に着いた時、すでに入学式は始まっていました。
(実はユウコは、両親に道を教えられた後も道を間違い続け、入学式に遅刻していたのでした。)
勇アカの入学式は、父兄の参加は無く、生徒と学校関係者のみで執り行われる決まりでした。
今年の新入生は240人。4年制の学校で、全校生徒は1200人以上おりました。
しかし最盛期には生徒が4000人以上居たという事ですから、勇アカも少子高齢化には頭を悩ませている様です。
中央広場では、生徒たちが整然と列をなして並び、その前の演説台の上で校長らしき人が長話をしていました。
「……であるからして、勇者たるもの、人々の規範となる様な、行いが、求められる訳で、あります。であるからして、もし自己判断で、規則を破る様な、行いをした、場合には、即、退学になるんだ、という事を、肝に銘じて、いただきたいと、思う訳で、あります。であるからして……」
ユウコは生徒の列の一番後ろにコソコソと並ぶと、列の前方を見て息を飲みました。
校長が立っている演説台の後ろに、10階建てのビルの高さ位ありそうな、巨大な樹が生えています。
その樹の幹には、巨大な老人の顔の形をしたコブがありました。
高さが10メートルはありそうな老人の顔は、眠っている様な表情でした。
そしてその樹の根元には、一本の剣が刺さっていました。
ユウコが持っている、オモチャの剣によく似た剣──
それは本物の勇者の剣、”ブレイブソルド”でした。
(ふおおおお…!あ…あれは!かつて魔王を倒した勇者が使っていたという伝説の剣!”ブレイブソルド”でわないですかっ!?)
その剣は、長さこそ違えど、ユッコが腰に差しているオモチャの剣とデザインがよく似ていました(本物はオモチャに比べ、長さが倍以上ありました)。
(あれが本物の勇者の剣…!何だか私に、”引き抜いて欲しいよ~”って言っている様な気がするよっ!?)
興奮してフンスフンスと鼻息を荒くするユウコをよそに、校長の長話は続きます。
「……であるからして、我が、勇者ギルドアカデミー、ソルディア校の校訓は、”規律、協調、秩序”の、三つでありまして、これは、”他人と、歩調を合わせる事の出来ない、自分勝手な人間に、勇者を、名乗る資格は無い”、という、極めて正しい、常識的な考え方から、来るもので、あります。であるからして……」
(ふわあぁ~。”勇者ギルドアカデミー”なのに、校訓に”勇気”が入ってないんだね~。あ~そっか、勇気はあって当たり前って事か~。まーでも、この中で一番勇気があるのは私なんだけど!ブレイブソルド、引き抜いちゃうんだけど!むふー!)
などと根拠のない自信を覗かせながら、ユウコは校長の話を聞き流していました。
ちなみに、この事に関しては、ユウコが特別うぬぼれ屋さんという訳では無く、他の生徒達もまた、同じような事を考えているのでした。
ヨダレまで垂らしているのは、ユウコだけでしたが。
うぬぼれたっていいじゃない、人間だもぬ。
そして、校長の長すぎるスピーチ以外は滞りなく入学式は進み、いよいよ、ユウコが”勇者”になる為の、勇者ギルドアカデミーでの学校生活が始まるのでした。
(ちなみにユウコは、入学式が終わった後、遅刻した事を先生に叱られました。)
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