キミに奏でるファンファーレ

桜井今日子

言の葉を薄紅色の風にのせ

舞い散る桜吹雪の中始まった学生生活

入学前から心に決めていた吹奏楽部


学校での吹奏楽部の活動は多岐にわたる


入学式、体育祭

 学校行事を盛り上げるメロディ

コンクール

 張りつめた緊張のステージでの挑戦

地域のお祭りなどのステージ

 浴衣姿でのパフォーマンス

文化祭

 共に過ごす仲間たちの前での晴れ舞台

最後のフィナーレ 定期演奏会

 年間の活動の集大成、卒業生とのお別れ


♪♪♪


「あたし、ソロなんてやるキャラじゃないし」

仲間との和を大切に何事も取り組むことができるキミはまさに合奏向きの性格


キミたちの演奏会のアンコール曲のコパカパーナ。

ノリのよいパーカッションと演奏者全員が立ち上がって奏でる前奏で一気に会場が南米のカーニバルの雰囲気。


そこからキミ以外がスッと座り始まるトロンボーンソロ。

ソロパートはスポットライトを浴びてひとり立って演奏する

まさに独り舞台

華々しい舞台

ソロパートが終わると観客から拍手もいただける

「そんなん恥ずかしいよ」

そんなこと言ってたキミ

コパカのトロンボーンソロ

カッコいいよ

とってもいいよ

高らかに吹き上げトロンボーンのベルは空を仰ぐ

パレードで奏でるファンファーレのよう

お祭りの始まり

そこに全パートが加わり、聴衆の手拍子もノッてきてカーニバルは最高潮へ


立派な先導役だったよ

聴いているこちらが誇らしくて

照れくさそうに頭を下げるキミがキミらしくて





♬アルセーナル

第一曲めに演奏されることが多いファンファーレ的な曲。

これから始まる演奏会への期待感を膨らませてくれる


「トロンボーンだった……」

楽器パート決定の日、そう言って玄関でワタシに抱きついて号泣したキミ

第二希望だったトロンボーン

第一希望が叶わなかったと大泣きしたね

でも翌日にはトロンボーンやってみるって気持ちを切り替えられたね


♬Let's Swing!

軽快なジャズナンバーにトランペットやトロンボーンのソロがカッコいいよね。

入部間もない1年生の時は先輩の演奏に合わせてLet's dance!

2年3年の時は陽気にSwing! Swing!!


購入したトロンボーン

「キミのことを皆が応援しているよ」の意味を込めて

両親、祖父母、親戚からの祝い金を支払いにあてる

キミのお年玉も少し使ったね

どんな音色を奏でるのだろう

キミの音楽の世界が広がりますように


♬喜歌劇メリーウィドウ

コンクールで演奏した曲

夏のコンクール

この7分間の為にどれだけの時間を費やしたのだろう

どれだけの想いを込めたのだろう

どれだけ仲間の音に耳を澄ましたのだろう

どれだけの感性を研ぎ澄ませて「ひとつの音色」を奏でたのだろう


楽譜の表紙に書き込まれた仲間からの寄せ書き

キミへの優しいメッセージに思わず涙ぐんだことはここだけの話


♬コパカパーナ

アンコール曲。全員で楽器を天に掲げるラストはとっても誇らしげで達成感に満ちていたよ。


夏の夕暮れ

地元のお祭りのステージ

浴衣姿での演奏が粋でカッコいい

アンコールはやっぱりこの曲じゃないとね

最高潮に盛り上がったね


文化祭

学校の教師・生徒全員が聴いてくれる

ソロパートでは客席からコールもかかる

まさにホームグラウンド

仮装やかぶりものをして演奏を楽しんで

聴いているみんなも巻き込んで


定期演奏会

3月末に行われる吹奏楽部を締めくくる行事

3年生はこれで学校からも吹奏楽部からも卒業

2時間余りのコンサート

3年生が主に選曲や演出を考える


2020年3月

卒業するキミたちの最後の晴れ舞台のはずだった定期演奏会

新型コロナウイルス感染予防の為に中止

こんなことになるなんて

去年、おととしは先輩たちと演奏し、卒業生を送った演奏会

今年は自分たちの番だった

3年間一緒にすごした仲間たちとの最後の演奏を披露するはずだった

「コパカパーナ」でまたキミのトロンボーンソロが聴けると楽しみにしていたのに


残念、だったよね

事態の深刻さがわかっているだけに、誰にも不満や悔しさをあらわさないキミたち

卒業式の日にみんなで撮った写真とみんなで組んだ円陣が「最後の部活」になっちゃったね

でもキミたちの明るい笑顔に救われた

キミたちの明日は笑顔以上に明るいものね



♪♪♪

体育祭、文化祭、入学式、卒業式

学校行事はいつもキミたちの音楽が華を添えてくれる


音楽って

それ自体は無くても生きていける

衣食住と違って「生」に直結していない

けれども

これほど「心」を豊かにしてくれるものがあるだろうか

「心」を震わせるものがあるだろうか


心響輝音

キミたちの合言葉

キャッチフレーズ


いつもいつもいつも

奏でるメロディで聴く者の心を満たしてくれたキミたち

素晴らしい仲間に恵まれてハーモニーを奏でてくれたキミ



嬉しいことがあったときそれはキミの喜びを倍増させてくれる

悲しいことがあったときそれはキミの心に寄り添ってくれる

夢中になっているときそれはキミの背中を押してくれる

疲れたカラダを休めるときそれは豊かにキミをときほぐす


音を楽しむから「音楽」

吹いて奏でて楽しんで「吹奏楽」

ブラスバンドとも言う

キミたちが奏でる音の風

爽やかで心地よく

聴く者の心に吹き渡る


卒業・入学のセレモニーの演奏は晴れやかな薄紅色の風

コンクールは威風堂々たる風

夏のお祭り、マジックアワーに吹きわたった紫暮色の風

秋、ホームグラウンドの学校の体育館は熱狂の風

最後の定期演奏会は華やかで心地よい風


キミたちのハーモニーはどんな風にもなり

どんな色にだって染め上げる


このうた


キミを称え

キミに贈る


キミに奏でる


ファンファーレ応援歌



キミに言祝ぐ


ファンファーレ贈答歌


素晴らしい音楽を奏でるキミにも

楽器を演奏しないキミにも

歌うキミにも

歌わないキミにも


音楽を楽しむキミに

人生を楽しむキミに



明日を生きるキミたちに


明日未来へ向かうはなむけのファンファーレ



ブラボー! エクセレント!! 

キミの人生演奏はまだまだ続くよ。

いつだって見ています

聴いています

心から応援しています


桜はね

キミの旅立ちを祝してる

桜並木は

新しい世界への花隧道

舞い踊る桜の花びら

降り積もる薄紅の路

キミの背中を押してくれる優しい風


華やかなファンファーレ

軽やかなマーチング

聴こえてこない?


辛いことだって

つまづくことだって

納得がいかないことだって

きっとあるでしょう


そんな時にも心で音楽を聴けるなら

心の声を聞けるなら


また顔を上げることができるんじゃないかな

前を向くことができるんじゃないかな


キミはひとりじゃない

生まれてきてくれてありがとう

いつだってキミの幸せを願ってる


心でメロディを奏でながら



希望に満ちた世界へ

いってらっしゃい





卒業おめでとう



キミの遥かなる旅路演奏が幸せでありますように



2020 march

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キミに奏でるファンファーレ 桜井今日子 @lilas-snow

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