(23)対角線
結局、二日に
渡会の方でも
「こんなことなら、一年でも連れてきてしごいてやりゃよかったぜ」
などと
一方、戦略目標からすればやや外れた行動のあった山ノ井に対し、辻杜先生は一言だけ
「焦るな、お前はそれだけが敵だ」
そして、私に対しては皆が驚くような事を言った。
「今回のお前は、軍隊なら死罪相当の事をした。今後、指揮系統の混乱を招くような行動は
それでも、それは一瞬の事であり、全ては辻杜先生の一言に帰結させられたのであった。
「繰り返すが、軍であれば極刑の可能性もある重罪だ。それを覚えておけ。戦う以上、従ってもらう」
結局、激動の三日間は午後八時の解散を以ってようやく
各自、疲労の色を隠すことはできず、帰りの車内では必ず誰かが寝ているような状態であった。
特に、戦い
そして、帰宅すると内田は早々に部屋へと戻ってしまい、そのまま出てこなかった。
通常、彼女はある程度の時間になると必ず、入浴、歯磨き、読書と一連の行為のために出てくるのであるが、それを全て翌日に持ち越すという、およそ内田らしくない状況であった。
最悪、服も着替えずにいるのかもしれない。
それ程、彼女の消耗は激しかったのであろう。
一方、例の数学の訂正ノートをしているところに、少女は
「ねえ、博貴、星見よ」
「またか、
と、一通りのやり取りをしてから、根負けして、屋根の上へと昇る。
澄んだ空気の下に散りばめられた星明りが、柔らかに夜空を照らしている。
一昨日の晩、自分のせいでと悩んでいた少女は、本来の明るさを取り戻し、その
「で、こんな寒いところに引き
「もう、そんなに先読みばかりしてると、女の子にモテないよ」
「うるさい。で、本当に何か用があったんだろ」
「うん。山ノ井君、けっこう落ち込んでたみたいだから、大丈夫かなって」
霧峯がいつもより穏やかな声で語りかけてくる。
思えば、この少女は戦いの最中でさえ、山ノ井と内田の心配をしていた。こうした、
「まあ、今回の山ノ井は
「そうかなぁ、なんだか、そんな風には見えなかったんだけどな」
「いや、最後はいつも通りだったからな。話しながら、それは確認できた」
少女が目を丸くする。
だが、現に在った彼の眼差しは未来を見
そうである以上、もう、迷いはないはずである。
そうである以上、山ノ井は「山ノ井」を取り戻すはずである。
「それより心配なのは、相手の動きの方だ。今回、これだけ大規模な作戦を展開したにも関わらず、司書の塔を抜くことができなかった。となると、向こうも戦略を変えてくるはずだ。正直、少しすれば元に戻るはずの山ノ井よりは、余程、気をかけないといけないからな」
「そっか、やっぱり男の子って、二人の言葉を持ってるんだね」
霧峯の微笑みが一段と優しくなる。
彼女の持つ慈悲の心が結実したその表情に、氷点の闇に泣く月も
ただ、屋根に並んで腰かけ、真っ直ぐに空を眺めているだけなのであるが、それだけで精神の硬直と紅潮とを同時に引き起こす。
「ねえ、博貴」
だから、少女の不意の一言に私は、
「友達って、やっぱりいいよね」
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