(14)台風の目
「エミリーちゃん、遊びに行こう」
放課後、私と内田の制止を振り切った霧峯は周囲の好奇の目を尻目にエミリーのいる一年四組の教室へと侵入した。男女問わずこの暴風の目に
「あわ、わ、き、霧峯さん。それに、二条里さんも。え、えと、一緒の学校だったんですか」
「うん。全校集会で飛び出すのはダメだから、遅くなっちゃったけど、よろしくね」
場は完全に霧峯のペースとなっている。普通であれば、上級生が来れば戦々恐々とする下級生がいても
「で、でも、霧峯さん、お兄ちゃんに心配かけてしまいますし」
「なら、カルビン先生を紹介してくれないかな。エミリーちゃんのお兄さんがどんな人か会ってみたいし、お兄さんにオッケーしてもらったら、大丈夫でしょ」
私と内田とが思わず顔を見合わせる。流石、霧峯である。過程や背景を無視して強引に結果を導こうとしてしまっている。それこそ、私や内田であればここまで来るまでに色々と根回しをして引き入れていくのだろうが、この少女は
「あ、はい。それでしたら、大丈夫だと思います」
「じゃ、行こう、英会話室。カルビン先生にあいさつに」
ということで、英会話室に着いた私達であったのだが、昼食時にあれだけ警戒しておこうと確認したのを聞いていなかったかのように、霧峯は堂々とそのドアを開け放った。
「しつれいしまーす。カルビン先生に会いに来ました」
ここで、頼もう、などと言えば正に道場破りだなと思いつつ私もそれに従う。
「うん、誰が遊びに来たのかな。今日、授業に行ったクラスの生徒かな」
奥の方から澄んだ、その上
「二年五組の霧峯瑞希です。エミリーちゃんの友達なので遊びに来ました」
それをいいことに、霧峯も堂々とその領域に日本語で踏み込んでいく。そして、その侵入へと反応するかのように奥からカルビン先生の
「おやおや、君が霧峯さんか。話に聞いたが、昨日は妹がお世話になったようだね。お礼を言うよ、ありがとう」
「お礼なんていいですよ。私もエミリーちゃんと一緒にいられて楽しかったですし。それに、私も大浦天主堂に行くの初めてだったんで嬉しかったです」
内田が明らかに不服そうな目で霧峯を
「ところで、そこの君が二条里君かな」
そんな中、カルビン先生が
「はい。はじめまして、カルビン先生。お会いできて嬉しいです」
「私の方こそ、昨日は妹のエミリーを案内してくれて助かったよ。正直なところ、変な人に絡まれていないか心配だったが、君のような好青年が一緒だったと聞いて安心したんだ。本当に、ありがとう」
差し出された右手を
結局その後、エミリーを連れ出したまでは良かったのであるが、霧峯の提案で
「おめぇよぉ、おいしいとこを持って行けよ、そこは」
無論、渡会から皮肉の一つも言われたが、当然のように黙殺した。
夕方五時、我が家のリビングに集合した一同は
そして、案の定といえば案の定ではあるのだが、霧峯と渡会の攻撃の前に他三人は交代で
「あ、あの、に、二条里さんは、されないんですか」
そんな
「いや、私はとりあえずおやつでもと思っていたからまだ大丈夫だ」
「え、えと。な、何か、手伝いましょうか」
「ううん、いいよ。もう準備できたからね。さあ、皆で食べようか」
全てを乗せた
「お。おめぇ、アクションゲーム苦手だからって、んなモン作ってたのかよ」
渡会の的確な突込みが胸に突き刺さる。それもそのはずで、以前に渡会とこのゲームで遊んだ昨年の夏休み、手も足も及ぶことなく
「いいだろ、こっちの方が時間の有効利用になるんだから」
「そ、そ。そんなに言うんだったら、渡会君の分ももらっちゃうね」
「じゃあ、そろそろ混ざろうぜ」
そうこうしている内に、いつの間にか私の手にコントローラーが回されている。周囲の好奇の目に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます