第20話
まずいな……。
俺の[四刹四唱]で跳ね返せるレベルの魔法ではないのは確かだ。
[十刹十唱]まで強化すれば簡単だが、威力が出過ぎて周りに被害が出てしまう。
まず、[十刹十唱]は対人間の為に得たものじゃない。
もう迷っている暇はない。
爺さんに会った時に見せて、試そうと思っていたが仕方がない。
周りに被害が出ないようにするにはこの技しかない。
ゆっくりと目を瞑り、全身の力を抜いて集中力を高める。
[ブレイカーズ]のリーダー、グレイスの掛け声に合わせて極大魔法が放たれた。
闘技場全体に広がる魔法陣から、白と黒のレーザーが襲いかかる。
手前まで引きつけて目を開けて、両手を前に出す。
右手を光に、左手を闇に……。
「全てを無に返す…………[
両手を勢いよく合わせて、右手に全ての力を注ぐ。
光と闇のレーザーに右手で触れた瞬間に闘技場全体に広がっていた魔法陣も、俺に向かってきていたレーザーも一瞬で消えた。
[ブレイカーズ]のメンバーも観客も言葉を失い、周り一帯が静かになった。
グレイスは地面に膝をつけて言った。
「そんなバカな! 私達の全力の極大魔法が……」
観客の一人が呟いた。
「ま…魔法を消し去っただと!?」
「武闘家の兄ちゃんは無傷だし、一体何が起きたんだ!?」
本当は爺さんと会ってから使いたかった……。
爺さんとの修行が終わって、一人で修行をしていた時に見つけた技だ。
[羅刹]魔法奥義、[無形発勁]は[刹]魔法を最大まで極めると使える技。
簡単に言えば、一級から初段に上がる感じだ。
[刹]魔法みたいに身体を強化する魔法ではなく、触れたものを全てを無にする。
通常の打撃や斬撃には意味がない。この世で最強の職業、魔法使いにだけ有効な技だ。
そして、[羅刹]魔法の最も良い点は[刹]魔法と違う属性を融合することができる。
[ブレイカーズ]の魔法使いが放った極大魔法は[聖]と[闇]属性の魔法。
俺が両手にイメージしたのも[聖]と[闇]の属性で、二つの属性同士が衝突すると魔法陣と魔法は一瞬にして消える。
この世界で[羅刹]魔法を使えるのは俺しかいないだろう。
俺と爺さん以外の武闘家で[刹]魔法を使っている武闘家がいない。
冒険者のパーティで最上位の[ブレイカーズ]の武闘家でさえ使っていなかった。
グレイスは驚きと極大魔法を打ち消された怒りを隠せなかった。
「テリー、一体貴方は何者なの? 私達の魔法を受け止めたのは貴方が初めてよ」
俺は自身満々に言う。
「俺はただの人間だ! 手や足だってあるだろ?」
「私はこの世界で最強の職業、魔法使いなのよ!? 最弱の職業、武闘家の貴方が魔法を打ち消すのは無理なはずよ!」
森から出て街に訪れて思ったが、この世界の人間は魔法が最強だと思いこんでしまっている。
「それが無理じゃないんだよ……魔法使いは確かに強い。だが、最強ではない」
グレイスは納得しなかった。
「嘘よ! 魔法使いが最強で武闘家は最弱なのよ!」
「最強も最弱も決めたのは人間だ。強さに優劣なんてつけなくていい。結局、何よりも強いのが最強だ!」
「もう、話はこれぐらいにして試合を再開しようじゃないか!」
「[四刹四唱]、テコンドー流[
魔法使いを守る剣士が、大盾で蹴りを防ぐ。
「グレイス、今は戦いの最中だぞ! 集中するんだ!」
グレイスは立ち上がってもう一度、極大魔法の詠唱を始めた。
テコンドーを主体とした蹴り技で剣士を攻撃するが、剣士は攻撃を全て防ぎ切る。
「俺の攻撃を全て防ぐなんて……凄い防御力だな!」
「お前も物凄い、蹴りだな! それでも本気じゃないんだよな!?」
この剣士、盾の真ん中だけで蹴りを防いでやがる。打撃特化の俺からしたら厄介な相手だ。
これは、まだ試合が延びるな。
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