ネコ

「ギョイ」

「……ミミ、今のはなんだい? ゲップでもしたのかな?」

「んな下品なことしないよ」

 僕は鳥肌が立った。二年前に飼い始めた猫のミミが、急に日本語で話し出した。

「えーと……今話したのは、ミミ?」

「他に誰がいるのさ」

 でも、いつかミミと話してみたいと思っていたから、すぐに冷静さを取り戻した。

「どうして急に話し出したの? あ、もしかして僕がこの小説読んでたから?」

 僕は手に持っていた小説をミミにみせた。僕も世界から猫は消したくない。

「知らないよそんなことは。たまたま話が通じただけかもしれないよ」

 この際いろいろときいておこう。

「ミミは、僕のことをどう思ってるの?」

「よくわからないけど、とりあえず飼い主だと思ってるよ」

「それはよかった。じゃあミミという名前はどう思ってるの?」

「呼ばれるときに心地よければ名前は何でもいいよ。ミミは心地いいからいい」

「じゃあ、さっきのゲップみたいなのはなんだい?」

「あれは鳴き声だよ」

「猫の鳴き声はニャーとかミャーとかじゃないか」

「それは勝手に人が言ってるだけでしょ。日本語に変換するとギョイになるんだ」


 それからまもなく、ミミはニャーしか言わなくなった。

 だが、ミミが鳴く度に、あの悍ましいギョイが耳の奥に響くのであった。

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