決着! 星雲大帝の最期!

『何で、なんで生きてるのよ! アタシ様の震動波は必殺よ!』

 それは、こっちが聞きたいくらいだ。


「貴様の狙いが甘かったんじゃないのか? もしくは調製不足だ」


『だまらっしゃい! 取り込まれただけのクソくのいち!』

 緋刀とカルキノスが、またケンカを始めた。


『若いの。手を貸すのは一度きりだ。その姿も、一度使えば壊れてしまう。一発で決めろ』


「わかった」


 オレは空高く跳んだ。欠片の力なのか、恐ろしいほどのジャンプ力である。その高さを活かして、足刀を伸ばす。


『武器もなしでどうする気よ!? この超フィールドは、欠片の力なんかなくったっ――』


 カルキノスの言葉は、オレの前蹴りによって粉砕された。フィールドを展開したキックが、絶対防護フィールドを突き破ったのだ。欠片の力で、障壁の力が中和されたのである。


 黒い足刀が、緋刀の眼帯にジャストミートした。勢いのまま、カルキノスの本体にめり込む。


 カルキノスと緋刀が分裂した。緋刀は蹴りのインパクトをまともに浴びて、何度も横転する。ドゴンッ、と盛大な音を鳴らし、研究所の壁に人型の穴が空く。


 巨大な建造物と化したカルキノスがガラクタの山となる。


「撃て、優月!」


 オレが叫ぶまでもなく、優月は自分が何をすべきかわかっていた。既に弓をカルキノスに向けて構えている。


『まだまだよぉ!』


 何をされるか悟ったのか、遠隔操作でカルキノスは振動波を優月へと向けた。


 凛とした姿勢で、優月は静かに弓の照準を合わせる。そこに振動波への恐れは感じられない。


 彗星が弓から放たれる。一筋の光は必殺の矢となって突き進む。


 振動波の衝撃など、燃えさかる彗星の前では無力に等しかった。


『いやああ、もうダメぇ!』


 これは防ぎきれないと悟ったのか、カルキノスが脱出を図る。


「逃がすかよ!」


 オレはハンガー刀を逆手に掴み、カルキノスの後頭部へとぶちかます。


 一〇メートルを優に超える巨大な怪物が、水を浴びた泥人形のように溶解する。






『アタシ様が負けるなんてえええええええ!』





 断末魔の声を上げ、カルキノスが地面へ転げ落ちた。何度もバウンドし、小型端末の部品が次々とこぼれ落ちていく。





『どうやら、ここまでのようだ』

 オッサンの声に、ノイズが走っている。

 どうやら、欠片が限界を迎えたらしい。




「あんた、生き返る気はねえのか?」



『今の俺は、欠片が作り出した意識体だ。キャプテン・ブキャナンならこう言うんじゃないかって予測で話している。いいか、ユーニスに変に期待を持たせないで欲しい。ユーニスには、自分の人生を歩んで欲しいんだ』



「わかった。あんたの言うとおりにするよ」


『ああ。ユーニスを、優月をよろしくな』


 靴から離れた欠片が、蹴りの衝撃に耐えられず砕け散る。




「ケガはない? 虎徹!」

 オレの耳元で優月が大声を出す。


「何の夢を見ていたの? 笑ったりしてるから、気持ち悪かったわよ」


「ちょっと、面白いおっさんが夢に出てきてな」


「まあ、無事ならいいわ」

 不思議そうに、優月が首をかしげた。


「それより、ロンメルと話させてくれ」





『ええ。どうぞ』


 ロンメルが、オレの側まで近づく。


「悪いんだけどよ。優月、席を外してくれ」


「……ええ、分かったわ」

 少しがっかりした様子で、優月は引っ込んだ。


「コウモリ卵、コイツはお前の仕業か?」

 オレは、粉々になった欠片の粒をロンメルに見せた。


『何を仰っているので?』





「とぼけんな。欠片のキーに細工したろ?」





 優月のそばにずっといて、欠片のキーに細工できる奴といえば、ロンメルしかいない。


 全部、ロンメルの仕業だろう。


 オレには、そうとしか思えないのだ。




『それは優月様の手によるものです。私は、細工を悟られないようにしたまで』


「じゃあ、優月の父親の人格をコピーしてキーに仕込んだのは?」


『はい? それは知りませんね』


 ロンメルでさえ、気づかないように細工したってのか?


「だってよ、タイミング的に、お前らが仕掛けてないとおかしいんだって!」


『そう仰いましても、私にはサッパリで』


 特に隠している様子はなさそうだ。何より、ロンメルは白を切るような奴ではない。


 そういえばあのオッサンは、優月のことをちゃんと『ユーニス』と呼んでいた。間違いない。やはり、オレが接していたのは本物だ。


「もういいかしら、虎徹?」


「いいぜ」と、心底けだるく答えた。


 地球は守られたが、オレの頭の中にモヤモヤを残した。





 あばよ、嘘が下手なおっさん。

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